007-6
「おい、お前ら。大丈夫か?」
式神に気だるそうに乗っかりながら、なずな教諭が俺たちに声をかける。
俺たちは互いに確認する。
「藤代さん、怪我はありまして?」
「あたしは擦り傷程度。鬼灯、アンタも怪我って怪我はないわよね?」
「ああ、守護者に打ち込んだ手が痛むくらいだな。この中で一番重傷なのは、梓だ」
なずな教諭が新たに用意した式神の背に、ぐったりとした梓の姿がある。
無茶してチカラを使った疲労で意識を失っているだけでなく、反動で左腕は皮膚が裂けて紅く染まっていた。
痛ましい姿に俺は思わず唇を噛む。
「怪我したのは神代だけか。見たところチカラの行使に失敗して自滅したようにも見えるが……、まあ、それは些細なことだな。お前たちが五体満足で安心した」
なずな教諭が安堵のため息をこぼす。
見た目は幼いなずな教諭だけど、こういう時、歳相応の大人の女性という雰囲気がある。
「とりあえず、お前ら、そこに並べ」
なずな教諭の鋭い眼光が俺たちを射抜く。
悪寒が走り、ドッと冷たい汗が吹き出してくる。
ちらり、と横を確認すると、俺と同じように顔を青ざめさせながら硬直している藤代と彩音の姿が確認できた。
「実力を過信するな、ってアタシはいつも言ってるよな? 鬼灯?」
はい、と返事をしようとしたが、なずな教諭の圧力に喉から声が出てこない。
俺は首がもげる勢いで上下に振って、なずな教諭に肯定の意思を伝える。
なずな教諭の視線が藤代、彩音と順番に捉えていく。
二人も俺と同じように首を上下に激しく振って、なずな教諭に意思を伝える。
「無茶をするな、とは言わない。無茶をしなけりゃ自分の限界はわからないし、限界を引き上げることもできないからな。だがな、危険な行為を看過することは、良識ある大人としてできない。わかるよな?」
こくこく、と俺たち三人は、なずな教諭の言葉に同意する。
なずな教諭の圧力を前にして反論できるヤツがいたら尊敬したいくらいだ。
「三人とも、歯を食いしばれ」
言葉が終わると同時に、なずな教諭が指を鳴らす。
直後、衝撃が頭部から身体を貫く。
「いってぇぇぇぇぇぇぇ!」
「痛い! 痛い! 痛い!」
「――ッ!」
俺は辛うじて踏みとどまったが、藤代と彩音は頭を両手で抱えるようにして座り込む。
涙目で周囲を確認するとアルマジロのような姿をした式神が姿を消すところだった。
アイツが頭の上に落ちてきたのか。
「体罰って文句があるなら、学長や教育委員会に報告すればいい。アタシは間違ったことはやってない。逃げも隠れもしない」
胸を張りながらキッパリと言い切るなずな教諭。
教師が生徒にちょっと手を出すだけで騒がれる昨今。
なずな教諭は、全く気にしていないのだろう。
まあ、そもそも霊障駆除実習で、大怪我することも珍しくない。
教師に殴られた程度を気にする親がいるとは思えない。
なずな教諭の親心を感じながら、俺たちは痛む頭を手で押さえながら、廃工場を後にした。




