007-5
「藤代、白木。梓を頼む」
二人の返事を聞かずに、俺は二人にグッタリとした梓を預ける。
「た、頼むって。鬼灯、何するつもりなよ」
「俺が時間を稼ぐ。一分か、五分か、どれくらい稼げるかはわからないが、ココから離れろ。不用意に廃工場の外に出ることだけはやめろよ。守護者の主が狙ってるかもしれないからな」
「時間を稼ぐ? 鬼灯くん、無謀ですわ。鬼灯くんには、あの自動人形から時間を稼ぐ方法がないでしょう」
反射的に「ある」と口を開けたが、俺は言葉を飲み込む。
朦朧としている梓の姿を見ると、どうしてもチカラを使う覚悟ができない。
「接近戦で守護者を振り回す。あっちの大振りを避けれることは実証済みだ」
「それでも無謀よ。ただでさえ、チカラの収束を妨げる結界の中にいるのに鬼灯がまともに戦えるはずないじゃない」
「ガチで戦うつもりはない。時間稼ぎだ。それにチカラを拡散されても俺には大した影響はない。だから梓を頼む」
「でも時間稼ぎなら、鬼灯くんがやることないですわ。わたくしと藤代さんがやれば事足りることですわ」
「守護者が一体とは限らないだろ。さっきも言ったけど、結界を出たところを狙われる可能性も高い。そうなると戦力は温存しときたい。この中で一番、戦力として切り捨てるなら俺だろ」
「鬼灯は、チカラの出力自体低いじゃない。あの守護者と戦うのは無謀よ」
「守護者に最初にぶちかましたのは梓じゃないぞ、俺だぞ。物理攻撃が有効ならチカラがなくても時間は稼げる」
藤代と白木が反論する気配を感じながら、俺は守護者に向かって地を蹴る。
――■■■■!
接近する俺を捕捉した守護者が吼える。
チカラを行使せずに俺が出来ることは、ヒットアンドアウェイで守護者を掻き回すだけ。
守護者が上段から西洋剣を振り下ろす。
「疾ッ!」
踏み込み半身になった俺の眼前を西洋剣が切り裂く気配を感じながら、右掌底を叩き込む。
ガィン! という鈍い音と俺の腕に伝わる衝撃。
「ちっ、思った以上に出来がいい」
俺は腕に伝わる衝撃に舌打ちする。
守護者は、俺の一撃をラウンドシールドでガードしていた。
「最初の一撃がラッキーパンチだったとは思いたくねぇなぁ」
体格差を考えると超接近戦でダメージが入るとは思えない。チカラを使わずに攻撃しても蚊に刺された程度のダメージだろうからな。
「鬼灯! やっぱりアンタには無理よ!」
「鬼灯くん、交代しますわ!」
藤代と白木の切迫した声。
俺は振り返らずに右手をヒラヒラと振る。梓を連れて早く離れろ、と。
「カッコつけた手前、意地でも時間をかせ――」
気合を入れなおそうとした瞬間、大音響が廃工場に響き渡る。
土煙りが巻き起こり、視界を灰色に塗り潰す。
「無事か? わたしの可愛い生徒ども。あー、くそ。埃が鬱陶しい」
響き渡る幼い声。
パチン、と指を鳴らす音が聞こえる。同時に突風が土煙りを吹き飛ばし、視界をクリアにする。そして現れたのは玄谷なずな教諭だった。
なずなちゃんは、式神――ゴールデン・レトリバーを三回りくらい巨大化したような――の背中に気だるそうに乗っていた。
なずなちゃん、台詞と態度がマッチしてないよ。
「おい、デカブツ。態度がデカい」
なずなちゃんは、ぎろり、と守護者を睨みつける。幼い容姿からは考えられないほど、目力が込められていた。ただそれだけで体感温度が数度下がったような気がする。
なずなちゃんがパチン、と指を鳴らすと閃光が守護者に奔る。
閃光が守護者を数メートル吹き飛ばす。
学園で実力者である藤代と白木がまともにダメージを与えきれなかった守護者にあっさりと吹き飛ばすなずなちゃん。
なずなちゃんの実力を察することが出来る。
俺はなずなちゃんの頼もしさに内心、安堵のため息をこぼしてしまう。




