007-4
俺は自然体で守護者の正面に立つ。
フルフェイスの隙間からかすかに赤い光がこぼれる。
単眼か人のような複眼かはわからないが、守護者は確実に俺をセンサーに捉えたようだ。
今の俺では守護者の鎧を打ち抜くことは不可能。
三割から五割の出力とはいえ、梓の掌底に耐えた鎧は、かなりの防御力だ。
「――ハハッ」
俺の口から思わず笑い声がこぼれた。
梓が打ち抜けなかった鎧。
藤代と彩音がダメージを与えられなかった鎧。
くだらない。
だからと言って、俺が鎧に対して無力ということには、なり得ない。
「あんまり調子にのんなよ、ポンコツ」
守護者を睨めつけながら、俺はゆっくりと息を吐く。
カラダの内側。
俺という存在の中心に意識を集中していく。
今の俺を形成する器に過負荷を与える。
じわり、とアツい何かが染み出していく。
「ポンコツは大人しくガラクタに――」
「翔太! れっどかーど!」
「ゲホッ! な、何しやがる……」
「だから、翔太が戦うのはダメなの!」
既視感を覚えながら、脇腹を突き抜けた衝撃に俺は思わず片膝をつく。
横目ですぐ脇を確認すると俺の脇腹に掌底を打ち込んだ体勢の梓がいた。
またかよ、と口を開こうとしたが、梓の目に滲む涙に俺は言葉を飲み込む。
「鬼灯! 神代! なにふざけてんのよ!」
「そろそろ自動人形が動き出しそうですわよ」
藤代と彩音の焦りが滲んだ声。
俺は脇腹を手で押さえながら立ち上がる。
「……ごめん。とりあえず、距離を取るぞ」
「……うん」
掌底のダメージで重く感じる体を引きずるようにして、守護者から離れる。
梓が俺の後ろから身構えながら続く。
「藤代さん、準備はよろしくって?」
「いいよ! とりあえず三十発、準備できたよ」
「上出来ですわ。いきますわよ、『乱れジャイロ藤代弾』!」
「ちょ、ダサッ」
藤代の抗議の声をよそに、彩音の体を紫電が迸る。
彩音の髪が風もないのになびき、藤代が抱きかかえていた石ころが宙に浮く。
間髪入れずに、石ころが独楽の様に回転を始め、守護者に向かって飛翔する。
「おぉ、さっきより威力倍増」
「当たり前よ。さっきとは一味違うのよ」
そう言って両方の親指を立てて見せる藤代。
藤代の親指の先には血が滲んでいた。
「石ころに血を付けて、媒体としての質を一時的に高めたのか」
「そうよ。さすがに血で術式刻印する余裕はないけど、少量の血でも、ワタシと石の繋がりを増幅すれば、さっきより威力上がるはずよ」
爆音と閃光が空間を埋めつくす。
守護者の内包するエネルギーと藤代弾の内包するエネルギーがせめぎ合い、大気が震える。
肌越しにビリビリと振動が伝わってくる。
肩越しに藤代と彩音を確認すると、手応え十分、という表情をしていた。
しかし、梓の表情は険しいままだった。
「……翔太、守護者の動き、止めれる? 出来れば邪魔な音とか光とか無しで。もちろん、翔太が本気出すのもNG」
「無茶いうなよ……。護符の一枚でもありゃ、できなくはないけどな……」
梓のチカラは強いが、基本的に攻撃向きじゃない。
使い慣れた和弓や短刀でもあれば、大丈夫なんだけどな。
梓の掌底は高威力だけど打ち込みすぎると、腕がボロボロになる。
いわば諸刃の剣。切り札の様なものだ。
「ちょ、二人とも何でそんなに悲観的な発げ――」
「チッ! 二人とも! 伏せろ!」
反射的に俺は藤代と彩音に覆いかぶさる様にして、二人を伏せさせる。
「いたたたたたたたた~~~っ!」
無数の熱波が背中を灼いていく。
二人を地面に押し倒す直前、藤代弾がはじき返されるのが視えた。
現状、直撃すれば致命傷は確実。
守護者が狙ってはじき返していないことを祈るだけだ。
「翔太っ!」
梓の叫び声。
不意に熱波が途切れる。
それが意味することを俺は瞬時に理解する。
「梓ッ! 無茶するな!」
俺は跳ね起き、梓の姿を確認する。
必死の形相で両腕を突き出した梓の姿があった。
梓の突き出した両腕の先端を中心に波紋が広がり、飛来する弾丸を受け止めていた。
梓の左腕は皮膚が裂け、紅く染まる。
媒体をもちいず、チカラを全力で行使した反動に梓の肉体が耐え切れていない。
時間にして、一秒にも満たない時間。
全ての弾丸を受け止めた梓は、崩れる様に倒れる。
俺は梓を受け止める。
弱々しい呼吸と滲ませる梓。
「……翔太、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。無茶しやがって……」
「ぜんぜん、無茶じゃない」
そう言って、微笑む梓。
その弱々しい姿に、ズキンと胸が痛む。
「神代! 大丈夫なの?」
「神代さん、わたくしたちのために無茶を……」
「……翔太のためにやっただけ。だから、気にしなくていい」
「たとえそれが全てだったとしても、神代さんのおかげで、わたくしたちは無傷ですわ。感謝してもしきれないですわ」
彩音の真剣な眼差し。
照れくさいのか梓は視線をそらす。
このまま守護者に対してジリ貧で耐えるのか、それとも俺が本気を出すのか。
梓が満身創痍になったのは、俺のせい。
この状況を脱する一番の解は、俺がチカラを使うこと。
でも、梓が望むのは、俺がチカラを使わないこと。
さっきの状況からして、藤代と彩音の合体技は、もう通用しそうにない。
俺は、ギリギリと奥歯を噛み締めながら、どちらを選ぶべきなのか自問自答する。
――■■■■!
周囲に響く守護者の咆哮。
守護者の鎧は、あちらこちらが破損している。
しかし、行動不能には陥っていない。
不意に、なずな教諭の言葉を思い出す。
『用心と覚悟だけはしておけよ』
その時が今なのか? 忠告から、間が無さ過ぎるよ、なずなちゃん。
腕の中の弱々しい梓の気配を感じながら、俺は静かに動き出す守護者を睨むことしか出来なかった。




