第9話:嘆きの洞窟・到着 〜入口から漂う絶対に入りたくない空気〜
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ミミの奇跡的な大発見によって「嘆きの洞窟」の内部へと足を踏み入れたアルト一行。しかし、古代のダンジョンは伊達ではありません。不気味な雰囲気と恐ろしい罠の気配が漂う中、彼らを待ち受けていたのは……!?
ヒシュー……ヒシュー……。
暗闇の奥から響く不気味な風の音。
それはまるで、幾千の怨霊が絶望の淵で泣き叫んでいるかのような、寒気のする音色だった。
「……絶対に入りたくない。いま切実に、引き返して王都のギルドで書類整理がしたい」
俺は洞窟の奥から漂ってくる異様な冷気と不吉な気配に、本気で足がすくんでいた。
ここ「嘆きの洞窟」は、数世紀前に強大な魔物が封印されたとされる最悪の危険地帯だ。薄暗い壁面からは粘着性のある紫色の液体が滴り落ち、空気は毒々しい魔力の臭いで満ちている。
「何を弱気なことを言っているんだい、アルト君。これこそが知的好奇心を刺激する『本物のダンジョン』じゃないか」
ルイスが不気味な暗闇を見つめながら、眼鏡をキラーンと光らせる。
「そうだぞアルト! 俺の斧が唸りを上げたくてウズウズしてるんだ! どんな悪鬼羅刹が出ようと、俺がペシャンコにしてやる!」
マルコが胸をドカドカと叩き、豪快に笑った。
「……アルト、大丈夫。危なくなったら、私の影の中に隠してあげる」
ミミがすっと俺の服の裾を引っ張る。
「みんな、頼もしい発言をありがとうな。でも頼むから一人ずつで突撃しないでくれよ……?」
俺が胃を押し戴きながら全員に注意を促していると、パーティーの最高責任者であるエレノア殿下が、両手を腰に当ててフンスと胸を張った。
「見なさいアルト! このゾクゾクするような緊迫感! お城の退屈な舞踏会とは比べものにならないわ! まさに冒険の醍醐味ね!」
「殿下……王女様が『ゾクゾクする』とか言ってダンジョンに入っていく国、世界中でここだけですよ」
呆れる俺を無視して、エレノア殿下は颯爽と一歩を踏み出した。
——カチッ。
静かな空間に、小さく固い金属音が響いた。
「……ん?」
エレノア殿下が踏みつけた床の石畳が、わずかに数センチほど沈み込んでいる。
「あ」
「あ、じゃない!! 殿下、今すぐ足を止めて動かないでください!!」
俺の悲鳴のような叫びと同時に、壁の彫刻の口から『カチカチカチ……!』とギアが高速回転する禍々しい音が響き渡った。古代の防衛トラップが起動した音だ!
「ルイス! トラップ解除の魔法を——」
「任せたまえ! 古代メカニズムの回路を破壊する衝撃波魔法『インパルス・ショック』!」
ルイスが杖を壁の機構へ向けて即座に放つ。
頼もしい! さすが宮廷魔術師の秘蔵っ子——!
ドガァァァン!!
「ぎゃあああ!? なんで天井の鍾乳石に当たってんだよ!!」
「な、なにぃ!? またしても屈折率が……!」
「屈折率のせいにするな! 真上だぞ真上!!」
ルイスの魔法によって粉砕された巨大な鍾乳石の群れが、鋭い槍となって俺たちの頭上から大量に降ってきた。
「危ない! 頭を低く——」
「グオォォォオン! 俺の肉体を見せてやる!」
何故かここでマルコが全裸……ではなく上着を脱ぎ捨て、筋肉を隆起させて立ちはだかった。
落ちてくる巨大な鍾乳石を、持ち前の分厚い背中と頭で『ドカッ! バカッ!』と力技で叩き落としていく!
「ぬおおおっ! かゆい! 頭がちょっと痒いぞ!」
「頑丈すぎるだろお前ぇぇぇ!! 頭皮どうなってんだ!」
鍾乳石の雨を筋肉で弾き返すヒグマ男。
だが、壁のトラップは止まらない。今度は天井と床のあちこちから、無数の毒矢が『シュシュシュッ!』とマシンガンのように射出された!
「ひぇぇぇ!? 毒矢だ! 避けて——」
「……任せて」
ミミが影から飛び出し、手にした二本の小太刀を千手観音のような速度で振り回した。
キンキンキンキンキンッ!!
放たれた数百本の毒矢が、すべてミミの驚異的な手捌きによって叩き落とされ、床に虚しく転がっていく。
「……ふぅ。完璧」
ポーズを決めるミミ。
「凄すぎるだろ! お前ら、トラップの解除方法が全員『力技』と『物理殺傷』なんだよ!!」
俺の叫びが鍾乳石の残骸が転がる洞窟内に虚しく響き渡る。
トラップの起動からわずか十秒。
本来なら熟練の盗賊が慎重に解除しながら進むはずのトラップゾーンが、マルコの筋肉、ルイスの暴発、ミミの超絶技巧によって、完全に崩壊し散らかしていた。
「あらあら……とっても賑やかなトラップねぇ」
埃の舞う中、エレノア殿下が扇子でパタパタと風を送りながら無傷で歩いてくる。
「賑やかで済むレベルじゃありませんよ殿下! 一歩間違えたら全員串刺しか生き埋めでしたからね!?」
「でも、誰も怪我してないじゃない? やっぱり私の選んだパーティーは無敵だわ!」
「無敵じゃなくて狂気なんです!!」
俺は激しく呼吸を整え、懐から胃薬を取り出して二粒口に放り込んだ。ボリボリと噛み砕く。苦い。胃薬の味が俺の生きている実感だ。
「アルト君、僕の計算によると……この先のトラップはさらに複雑化しているようだね」
「ルイス、お前はもう二度とトラップに向けて魔法を撃つな。マルコ、お前も頭で石を受けるな。ミミは……よし、そのまま警戒を頼む」
「……ん。任された」
まだ洞窟の入口に入ったばかりだというのに、俺の精神力はすでに八割方削られていた。
だが、奥から漂う不穏な魔力の残光は、刻一刻と強まりを見せている。
「行きましょうアルト! 秘宝と異変の真相は、この奥よ!」
先頭を切って元気いっぱいに奥へ進む王女様。
それに続く筋肉バカ、暴発魔術師、隠密少女。
(……俺は生きて王都に帰れるんだろうか……)
自分の命と胃の無事を神に祈りながら、俺は短剣を強く握り直し、混沌のダンジョン攻略へと足を踏み出すのだった。
第9話をお読みいただきありがとうございました!
入口からさっそく起動した防衛トラップを、まさかの「超・力技」で力ずく突破したポンコツパーティー。
次回はついにダンジョンの中層へ! さらなる狂気のトラップと、彼らの奇跡的な(?)連携が炸裂します!
次回「第10話:洞窟内の罠と、ポンコツたちの奇跡的な回避 〜それ、踏んじゃダメなやつ!〜」をお楽しみに!




