第8話:消えたミミと隠された抜け道 〜消える癖が役に立つ時〜
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バグった魔物たちを横目に、いよいよ「嘆きの洞窟」の目前まで迫ったアルト一行。しかし、肝心の洞窟への道は岩肌に阻まれて見当たりません。そんな中、またしても「あの少女」の姿がどこにも見当たらなくなり……?
狂った魔力の脈動を辿り、鬱蒼とした森を突き進んだ俺たちは、そびえ立つ険しい崖の麓へとたどり着いた。
「……ここが行き止まりか?」
目の前に立ち塞がるのは、幾重にも重なった硬い岩肌と、毒々しい紫色の苔で覆われた巨大な壁だ。地面を這っていた妖しい魔力の筋も、この岩壁の奥へと吸い込まれるように途切れている。
「ふむ……間違いなく、この岩壁の向こう側が『嘆きの洞窟』の内部だろうね」
ルイスが杖の先で岩肌をコツコツと叩きながら言った。
「よし! 俺のバトルアックスでこの岩を叩き割ればいいんだな!?」
「無茶を言うなマルコ! こんな巨大な岩壁、いくらお前の腕力でも落盤を起こして生き埋めになるのが落ちだ!」
俺は叫びながら、辺りの地形を探索しようと振り返った。
「……おい、ミミ。どこかに洞窟の正規の入口っぽいものは——って、あれ?」
いない。
さっきまで俺の影の中に潜むようにして歩いていたはずの猫耳フードの少女——ミミの姿が、影も形もなくなっていた。
「……またかぁぁぁ!!」
俺は頭を抱えて叫んだ。
「なんで勝手にいなくなるんだあの子は! ここは危険地帯なんだぞ! 迷子になったらどうするんだ!」
「あらあら、ミミったらまたフラッといなくなっちゃったのねぇ」
エレノア殿下は危機感ゼロで呑気に微笑んでいる。
「殿下! 呑気に笑ってる場合じゃありません! 捜索隊を出します! マルコは東の藪の中、ルイスは上空から……あ、ルイスは魔法を使うなよ! 山火事になるから!」
「失礼な! 僕の探知魔法なら(確率7割で)正確に彼女の位置を特定できるというのに!」
「その残りの3割で俺たちが吹き飛ぶんだよ!」
俺が胃の痛みに耐えながら指示を出そうとした、その時だった。
「……アルト、うるさい」
「ひゃああっ!?」
突然、目の前の「一枚岩の壁」の中から、ぬっとミミの頭が生えてきた。
「壁から頭が生えたぁぁぁ!?」
「妖怪ね!」
「妖怪じゃないです殿下! ミミだ! ミミなのか!?」
ミミは壁から上半身をニュッと突き出すと、めんどくさそうにパチパチと瞬きをした。
「……妖怪じゃない。ここ、抜け道」
「抜け道……?」
よく見ると、彼女が体を突き出している岩壁の表面は、ただの「巧妙な古代の光学幻影魔法」によって隠された岩の空洞だったのだ。紫色の毒苔が生えた岩肌に見えていたのは、すべて空間を覆う幻の幕に過ぎなかった。
「……ふらふら歩いてたら、足がすべって壁の中に落ちた。そしたら中が空洞だった」
「単なる事故じゃねえか!!」
とはいえ、大発見には変わりない。
ミミの「ふらっと姿を消す極度の単独行動癖」が、まさかこんな形で正規の入口(あるいは隠された抜け道)を引き当てるとは……。
「すごいわミミ! お手柄ね!」
エレノア殿下がパチパチと手を叩いて絶賛する。
「……えへへ。アルト、褒めて」
「はいはい、偉いぞミミ。……で、その中は安全なのか?」
「……中はすっごく涼しい。あと、変な壺がいっぱい置いてあった」
ミミの案内に従い、俺たちは光学幻影の幕をくぐり抜けた。
そこには、外の蒸し暑い森とは打って変わって、ひんやりとした冷気と不気味な静寂が漂う巨大な天然の洞窟空間が広がっていた。
「……これが、『嘆きの洞窟』……」
天井からは巨大な鍾乳石が垂れ下がり、壁の奥からは『ヒシュー……ヒシュー……』と、まるで巨人が溜め息をついているかのような不気味な風の音が聞こえてくる。これが「嘆き」の名の由来だろう。
「ふむ……古代の結界がまだ生きているな。正面の正規ルートは強力な封印扉で閉じられているようだが、ミミが見つけたこの抜け道なら、封印を迂回して内部へ侵入できる」
ルイスが感心したように壁のルーン文字を読み解く。
「やったなミミ! お前のおかげで無駄な労力を使わずに済んだぜ!」
マルコがガシガシとミミの頭を撫でまわすが、ミミは無表情のまま俺の裾をキュッと引っ張った。
「……アルト、ご褒美」
「……帰ったら、王都の美味しいケーキ奢ってやるよ」
「……約束」
ミミが少しだけ満足そうに口元を緩めた。
「さあ! 抜け道も見つかったことだし、いよいよ洞窟の内部探検ね!」
エレノア殿下が腰の細剣を引き抜き、瞳をキラキラと輝かせた。
「ここからは本物のダンジョン攻略よ! トラップ、未知の魔物、そしていにしえの秘宝……あー、ワクワクが止まらないわ!」
「殿下、何度も言いますが遠足ではないのですから、俺の指示に従って慎重に……」
「行くわよみんなー! 突撃ー!」
「聞いちゃいねえ!!」
王女様を筆頭に、巨漢、暴発魔術師、そして隠密少女がドカドカと暗闇の奥へ進んでいく。
(危険察知能力がゼロのパーティーすぎる……)
俺は胃薬を一粒噛み砕き、短剣を握り直して、暴走する仲間たちの背中を追いかけて洞窟の闇へと飛び込んでいくのだった。
第8話をお読みいただきありがとうございました!
普段は困りもののミミの「消える癖」が奇跡的に大活躍し、無事に隠された抜け道から「嘆きの洞窟」へと侵入したアルトたち。
しかし、ダンジョン内には数々の古代のトラップが待ち受けていて……!?
次回「第9話:嘆きの洞窟・到着 〜入口から漂う絶対に入りたくない空気〜」をお楽しみに!




