第7話:奇妙な魔物との遭遇 〜凶暴化……ではなく「奇行」?〜
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港町サザンポートを後にし、ついに「嘆きの洞窟」が位置する東の危険地帯へと足を踏み入れたアルト一行。噂通り、彼らの前にあらわれた魔物たちはどこか「おかしな挙動」をしていて……!?
サザンポートで胃薬を大量に買い足した俺たちは、港町を抜けて東の深山幽谷——「嘆きの洞窟」へと繋がる街道なき森へと突入していた。
木々は鬱蒼と茂り、太陽の光すら遮られた薄暗い森。
道中の空気が急激に重く、冷たくなっていくのが肌で分かる。
「気をつけてくれ、みんな。サザンポートで聞いた噂通りなら、この辺りから魔物の出没率が跳ね上がるはずだ」
「ふっ……望むところだ。僕の研ぎ澄まされた魔法の真価を見せてあげよう……!」
自信満々に杖を弄ぶルイス。暴発率三割の恐怖を本人が一番理解していないのが恐ろしい。
「……アルト。何か来る」
不意に、影の中からミミがささやいた。
同時に、草むらがガサガサと激しく揺れる。
「全員、構えろ!」
俺が短剣を抜き、マルコが巨大な斧を両手で握りしめる。
草むらを押し分けて姿を現したのは——真っ赤な毛並みと鋭い牙を持つ、危険度Cランクの魔物「キラーベア」だった。
「キラーベアか! マルコ、お前の同類……じゃなくて、前衛を引き受けろ!」
「任せろ! 熊対熊(人間)の死闘を見せてやるぜ!」
マルコが胸を叩いて前へ出た。
キラーベアは凶暴な唸り声を上げ——上がるはずだった。
「……グオ?」
姿をあらわしたキラーベアは、俺たちを見るなり急にピタリと動きを止めた。
そして、何を思ったのか——。
クルッ、クルッ、クルッ。
「……え?」
キラーベアは、自分の尻尾(短い)を追いかけるように、その場でぐるぐると円を描いて回り始めた。
「……なぁ、アルト。あいつ、何してんだ?」
「俺に聞くなよ! お前と同類だろ!?」
「同類じゃねえ! 俺は回らん!」
なおも狂ったようにクルクルと旋回を続けるキラーベア。目が回らないのだろうか。
さらにその背後の木々から、翼を持った危険な魔物「ガーゴイル」が三体飛び出してきた。
「上だ! 空からの襲撃——」
空中から襲いかかってくるかと思いきや、ガーゴイルたちは俺たちの頭上で急停止すると、足を綺麗に揃えて木の上にピシッと「カカシ」のように直立不動で立ち尽くした。
「……ピシッとしてるわね」
エレノア殿下が呑気に感想を漏らす。
「ピシッとしてる場合じゃないですよ殿下! なんだあいつら! 攻撃してこないぞ!?」
「ふむ……噂に違わぬ奇行だな」
ルイスが真面目な顔で眼鏡の位置を直す。
「凶暴化して襲ってくるならまだ理解できるが、一方はその場で目が回るまで回転し、もう一方はカカシの真似事……。魔物としての野生の本能が完全に壊れている」
カカシガーゴイルの一体が、木の上からチラッとこちらを見て、またピシッと気をつけの姿勢に戻った。シュールすぎる。
「……ねえアルト。あの子たち、もしかして『迷子』なんじゃないかしら?」
「迷子であんな動きしますか!?」
俺は短剣を構えたまま、頭を抱えた。
襲ってきてくれればマルコが叩き潰すか、ルイスが(暴発しつつ)撃退して終わりだ。だが、目の前でシュールな挙動を繰り返す魔物たちを前に、どう対処すればいいのかさっぱり分からない。
「……アルト、これ」
ミミがすっと俺の横に立ち、足元を指差した。
見ると、地面の土から、うっすらと紫色の妖しい「魔力の残光」のような筋が浮き出ていた。その筋は森の奥——「嘆きの洞窟」の方角へとまっすぐ伸びている。
「魔力の脈動……? ルイス、これが見えるか?」
「……ぬ!? これは……古代の呪導力の波長だ!」
ルイスが眉をひそめ、地面に膝をついて残光に手をかざした。
「なるほど……合点がいったよ。洞窟の奥から、高濃度の狂った魔力波が脈動のように周囲へ撒き散らされているんだ。それが周囲の魔物たちの脳の神経系に干渉し、本能のシグナルを狂わせているんだね」
「つまり……あの回転キラーベアも、カカシガーゴイルも、魔力の電波障害でバグってるってことか?」
「分かりやすく言えばそういうことだ。放置すればいずれ魔物たちの脳が破壊されるか、あるいは広範囲に暴走して王都へとなだれ込むだろうね」
ルイスの知性的な解説に、一同は静まり返った。
暴発率三割の男だが、こういう専門知識に関しては流石に宮廷魔術師の弟子といったところか。
「……なるほどね」
エレノア殿下が、ふっと表情を柔らかく崩し、腕を組んだ。
「最初は『退屈しのぎ』の秘宝探しのつもりだったけれど……思っていた以上に、この森の生き物たちは困っているみたいね」
「殿下……」
「決めちゃった! 秘宝を手に入れるついでに、その狂った魔力の元凶を叩き潰して、この子たちを元に戻してあげましょう!」
王女様は腰の細剣の柄に手を置き、堂々と宣言した。
相変わらずのお転婆だが、その瞳には民や国土を想う本当の王族の気品が溢れている。
「よし! そうと決まれば突撃だ! あの回転グマも俺が介錯……じゃなくて助けてやるぜ!」
「マルコ、お前はとりあえずあのクマと一緒に回るなよ?」
「回らねぇよ!」
俺は溜め息をつきつつ、回転しすぎて目が回って倒れたキラーベアの横を通り抜けた。
「……行くぞ、みんな。『嘆きの洞窟』はもうすぐそこだ!」
狂った魔力の源、そして古代の秘宝が眠る場所。
シュールな魔物たちの奇行にツッコミを入れつつ、俺たちのパーティーはついに、最終目的地である危険地帯の核心へと一歩を踏み出すのだった。
第7話をお読みいただきありがとうございました!
狂った魔力によって「バグった動き」をする魔物たち。思わぬ形で異変の真相に近づいたアルトたちですが、物語はいよいよ洞窟の内部へと向かいます!
次回「第8話:消えたミミと隠された抜け道 〜消える癖が役に立つ時〜」をお楽しみに!
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