第6話:港町での束の間の休息 〜王女様、B級グルメにご満悦〜
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街道での盗賊騒動を越え、一行はついに美しい海に面した港町『サザンポート』へと到着します。美味しい海鮮グルメに目がない王女様ですが、町には少し不穏な影が……?
「うわぁあぁ……! 海だわ、アルト! 本物の海よ!」
小高い丘を抜けた瞬間、目の前に広がる紺碧の太平洋と、無数の船が交差する活気あふれる港町——『サザンポート』の景色に、エレノア殿下は瞳を輝かせた。
潮の香りが心地よく鼻腔をくすぐる。
王都から徒歩と野宿を重ねて約一週間。俺たちはついに「嘆きの洞窟」へ向かうための重要な中継地点である港町へとたどり着いたのだ。
「ふぅ……なんとか無事に着きましたね」
「無事……? アルト君、道中で僕の魔法が二回ほど木を薙ぎ倒したことはカウントしないのかい?」
「あえて記憶から抹消してるんだよ! 蒸し返すな!」
ルイスに冷たく言い放ちつつ、俺は街の喧騒へと足を進めた。
サザンポートは貿易の拠点だけあって、多種多様な種族や冒険者、商人たちで溢れかえっている。活気に満ちた市場からは、魚介を香ばしく焼く煙と食欲をそそる醤油やニンニクの香りが漂っていた。
「さあアルト! 待ちに待った港町のB級グルメよ! 王宮の澄ました料理も悪くないけれど、こういう庶民の熱気あふれる食べ物って一度食べてみたかったの!」
「ハイハイ、分かりましたから走らないでください殿下。……マルコ、お前は帽子を深く被れ。ここでは絶対に『熊だー!』って騒がれるなよ?」
「おう、任せろ! この水平さんの帽子を被れば完璧だろ!」
「顔が毛皮で覆われてるのに水兵帽かぶったら『服を着た奇妙なヒグマ』にパワーアップするだけだろ!!」
俺が速攻でマルコの帽子をひったくり、普通の深編み帽をかぶせ直していると、ミミがすっと俺の袖を引いた。
「……アルト。あっち、美味しい匂い」
「鼻が利きすぎるだろ君は。……まあ、ひとまず腹ごしらえと宿の確保にしますか」
市場の屋台街。
俺たちは魚介の串焼きが名物の屋台に陣取った。
「はいよ! 特製クラーケンの足の香草焼きと、大ホタテのバター醤油炙りお待ち!」
炭火で香ばしく焼き上げられた巨大なイカ足と、ジュージューと音を立てる焼きホタテがテーブルに並べられた。
「まあ……! なんてダイナミックなの!」
エレノア殿下は目を丸くしながら、上品に小さな口でクラーケンの足をかじった。
「……んん〜っ!! 美味しいわ! 歯ごたえがプリッとしていて、甘辛いタレと香草の香りがお口いっぱいに広がる……! アルト、これお城に持ち帰れないかしら!?」
「冷めたら美味しくなくなるので、ここで食べるから良いんですよ。殿下、口元にタレがついてます」
「あらやだ」
無邪気に笑う王女様。その姿はどこからどう見ても、ただの世間知らずで可愛い街の女の子だ。
隣ではマルコがクラーケンの足を一口で丸呑みし、「美味い! 酒だ酒を持ってこい!」と暴れて店主に「お頭、顔が怖すぎるよ!」と引かれていた。
「ふむ……タンパク質と塩分のバランスが取れた良質なエネルギー源だな。脳の回転が良くなりそうだ」
ルイスが妙にスカした顔でホタテを食しているが、手元ではこっそり新しい魔法のメモを取ろうとして羊皮紙に醤油をこぼしていた。バカである。
「……ん。美味」
ミミはいつの間にか店主から「焼き魚の余り」をタダで貰って満足そうにモグモグしていた。相変わらず懐き方が猫である。
……まあ、胃は相変わらずキリキリしているが、こういう賑やかな食事も悪くはない。
俺が冷たい茶を飲んで一息ついていると、隣のテーブルの冒険者たちの会話が耳に入ってきた。
『おい、聞いたか? 東の「嘆きの洞窟」へ続く街道の先、最近妙な魔物が出るらしいぞ』
『ああ、東の森のエリアだろ? 凶暴な魔物が出たのか?』
『いや……それがよ。攻撃してくるわけじゃなくて、なんか「妙な動き」をしてるらしいんだ』
『妙な動き……?』
『ああ。ぐるぐる同じところを回ってたり、急に踊り出したり、カカシみたいに立ち尽くしてたり……気味が悪くて近寄れねぇよ』
(妙な動き……?)
俺は眉をひそめた。
宮廷魔術師が言っていた「王国のあちこちで起きている魔物の異常」——そして、その原因があるとされる「嘆きの洞窟」。
「アルト、どうかしたの?」
焼き貝の串を手に持ったエレノア殿下が、首を傾げて覗き込んできた。
「あ……いえ。少し気になる噂を聞きまして。洞窟の近くで、変な挙動をする魔物が出ているらしいです」
「あら、変な挙動? うちのパーティーメンバーみたいな感じかしら?」
「一緒にしないでください! ……あ、いや、ある意味では似たような恐怖感かもしれませんけど」
「ひどい言い草ねぇ」
くすくす笑う殿下だったが、その瞳の奥にはふと、王族らしい聡明な光が宿っていた。
「……やっぱり、あそこには何かがあるのね。『嘆きの洞窟』の異変が、周囲の生態系に影響を及ぼし始めている……」
「殿下……」
「でも大丈夫! 私たちには最強(?)の仲間たちがいるもの!」
殿下がパンッと手を叩くと、マルコが「おう! どんな魔物でも俺が殴り倒してやる!」と叫び、ルイスが「僕の(暴発)大魔法の出番だな」と胸を張り、ミミが「……魚、おいしい」とマイペースに頷いた。
(……最強というか、最恐というか……)
俺は心の中で深く溜め息をつき、ポケットの中の胃薬の残量を確認した。サザンポートの薬局で買い足しておいた方が良さそうだ。
「よし! お腹もいっぱいになったことだし、午後は港町の観光と買い物よ! アルト、案内しなさい!」
「はいはい、分かりましたよ……。皆さん、くれぐれも別行動しないでくださいね! 特にミミとマルコ!」
束の間の休息。
だが、この港町を抜ければ、ついに目的地である「嘆きの洞窟」のある危険地帯へと足を踏み入れることになる。
嵐の前の静けさを感じつつ、俺は王女様の後ろを、胃を押さえながら追いかけていくのだった。
第6話をお読みいただきありがとうございました!
港町『サザンポート』での美食を楽しみつつ、物語はいよいよ核心である「魔物の異常」と「嘆きの洞窟」の謎へと近づき始めます。
次回「第7話:奇妙な魔物との遭遇 〜凶暴化……ではなく「奇行」?〜」をお楽しみに!
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