第10話:洞窟内の罠と、ポンコツたちの奇跡的な回避 〜それ、踏んじゃダメなやつ!〜
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トラップゾーンを(物理と力技で)強行突破し、ついに「嘆きの洞窟」の中層へと足を踏み入れたアルト一行。しかし、洞窟の奥にはさらなる凶悪な罠と、謎の怪現象が待ち受けていて……!?
入口のトラップゾーンを原型を留めない形で破砕・突破した俺たちは、さらに暗く不気味な「嘆きの洞窟」の中層へと侵入していた。
ヒシュー……ヒシュー……。
相変わらず洞窟のあちこちから、巨人の溜め息のような不快な風音が響いている。
道幅は狭まり、足元は湿った苔と濡れた石畳で滑りやすくなっていた。
「みんな、足元に気をつけろよ。ここからは本格的な古代のトラップが仕掛けられている可能性が高い。慎重に……とにかく慎重に進むんだ」
「分かっているさアルト君。僕の分析によれば、この先の石畳には特定の手順で踏まなければ発動する『圧縮空気弾の罠』が仕掛けられている」
珍しくルイスが真面目な顔で床を指差した。
見ると、確かに床の石畳には二種類の異なるルーン文字が交互に刻まれている。
「なるほど……正解のルーンを踏まないと罠が起動するってわけか。ルイス、解読できるか?」
「ふっ、任せたまえ。古代文字の解読は僕の専門分野だ。ええっと……『太陽の刻印を踏み、月の刻印を避けよ』……よし、あっちの太陽の刻印を踏めば安全——」
ルイスがドヤ顔で言いかけた、その時だった。
「わあぁ! 見てアルト! この月のマーク、なんだか可愛らしい形をしているわ!」
「あっ、殿下踏んじゃ——!?」
エレノア殿下が何の躊躇もなく、可愛いという理由だけで『月の刻印』を思い切り踏みつけた。
——カチッ。
「……あ」
ルイスが絶句する。
ドゴォォォン!!!
床から爆風とともに凄まじい圧縮空気の塊が噴き出した!
直撃すれば人間など一たまりもなく吹き飛ぶ凶悪なトラップ——!
「殿下ぁぁぁぁ!?」
俺が叫んだ瞬間、謎の奇跡が起きた。
ドガッ!
「ぬわぁぁぁ!? 滑ったぁぁぁ!!」
なんと、後ろを歩いていたマルコが湿った苔で派手に足を滑らせ、前方に巨体をすっ飛ばしたのだ。
宙を舞った100キロ超の熊男の巨体が、ちょうど吹き出した圧縮空気弾の直撃コースに『完璧なタイミング』で割り込んだ!
ドバアアァン!!
「グオォォォ!? 背中がすっごく涼しい!!」
圧縮空気の衝撃波を背中で全粒受けて絶叫するマルコ。
だが、その巨体のおかげで空気弾の勢いが完全に相殺され、真下にいたエレノア殿下には『心地よい爽やかなそよ風』程度しか届かなかった。
「あら? なんだか急に涼しい風が吹いてきたわねぇ」
扇子をパタパタさせながら、髪を揺らすエレノア殿下。無傷である。
「殿下! 無事ですか! マルコ! 生きてるか!?」
「お、おう……服が弾け飛んで上半身裸になったが、皮膚が分厚いから掠り傷で済んだぜ……!」
「頑丈すぎるだろお前ぇぇぇ!!」
俺の悲鳴が洞窟内に響く。
なんだこのパーティーは。致命的なポカ(王女の踏み間違い)を、別の事故(巨漢の滑落)で完璧に相殺しやがった……!
「……ふむ。怪我の功名というやつだね。流石は僕の計算通りだ」
「どこが計算通りだバカ野郎! お前何もしてねえだろ!」
俺がルイスの襟首を掴んで揺さぶっていると、暗闇の奥から『カサカサカサ……!』と不穏な足音が聞こえてきた。
「……アルト、上」
ミミの声にハッとして天井を見上げる。
そこには、体長2メートルはあろうかという巨大な多足型の魔物「ダンジョン・スパイダー」が、不気味な赤目を光らせて群れをなして蠢いていた!
「くっ、魔物までおでましだ! マルコ、構えろ——って、お前は服を着ろ!」
「この肉体美で蜘蛛どもを威嚇してやるぜ!」
「威嚇にならねえよ!」
巨大蜘蛛たちが、一斉に鋭い毒糸を噴射しながら頭上から飛びかかってくる!
「ふっ……今度こそ僕の出番だね! 広範囲焼き尽くし炎魔法『プロミネンス・バースト』!」
ルイスが威風堂々と杖を掲げ、極大の魔法陣を描く!
頼むルイス! 暴発するなよ! こんな狭い洞窟で極大炎魔法が暴発したら全員黒焦げ——
ぼふん。
……ん?
ルイスの杖の先から出たのは、火花程度の小さな炎と、不気味な『紫色の煙』だった。
「……あれ? 不発……?」
ルイスが首を傾げる。
だが次の瞬間、その紫色の煙が頭上の巨大蜘蛛たちの顔面にモワッと広がった。
すると——。
『……グチャ?』
『……ピキ?』
紫の煙を吸い込んだ巨大蜘蛛たちは、急に脚をピンと伸ばして痙攣し始めると、背中をまるめて「仰向け(死んだフリ)」の姿勢でボタボタと床に落ちてきた。
「……え?」
落ちてきた巨大蜘蛛たちは、腹を見せたまま『クックック……』と謎の笑い声を上げながら、脚をダンシングさせるようにパタパタと動かしている。
「な、なんだこれ……!? 蜘蛛が腹見せて踊ってる!?」
「ふむ……僕の炎魔法の魔力と、この洞窟内に充満している狂った魔力波が化学反応を起こし、強力な『極楽系ニューロ毒ガス』へと変質したようだね」
「怪奇現象じゃねえか!!」
恐怖の巨大蜘蛛群が、謎のハッピー毒ガスによって完全に無力化され、床で腹を見せてパタパタ踊っている。シュールすぎて眩暈がしてきた。
「あら、なんだか楽しそうな蜘蛛さんたちねぇ」
エレノア殿下が踊る蜘蛛の足元をひょいひょいと踏み越えていく。
「……アルト、先に行く」
ミミも無表情のまま踊る蜘蛛を踏み台にしてぴょんぴょん進んでいく。
「待ってくれ! 置いて行かないでくれ!!」
俺は激しい脱力感と戦いながら、ポケットから本日三回目となる胃薬を取り出し、ボリボリと噛み砕いて二人を追いかけた。
無能な罠の回避法。
奇跡的な大暴発による魔物の無力化。
まともな戦闘など一切発生していないのに、なぜか俺たちのパーティーは、着実にダンジョンの最深部へと足を進めていくのであった。
第10話をお読みいただきありがとうございました!
ポンコツな仲間たちの奇跡(?)の連続により、一切の傷を負わずにダンジョンの難所を次々と突破していくアルトたち。
そして次回、ついに狂った魔力の源泉である「最深部」へと到達します!
次回「第11話:最深部の秘宝と、狂った魔力の正体 〜え、原因ってそれなの……?〜」をお楽しみに!




