外伝第1話:宇宙へ行く前の腹ごしらえと、やっぱり着ぐるみの改良
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
『退屈した王女と行く秘宝探しの旅。……って、私以外まともな奴がいないんですが!?』、これにて無事に完結となります!
ツッコミ不在のポンコツペンギン着ぐるみパーティと、胃痛に耐え続けた苦労人主人公アルトの物語を楽しんでいただけましたでしょうか?
少しでも「面白かった!」「笑えた!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【ブックマーク登録】や【評価】をしていただけますと、作者の次回作への大きな励みになります!
これまで温かい応援や評価を送ってくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。
また次の作品でお会いしましょう! 本当にありがとうございました!
本編のドタバタ劇から数日後。
グランヴェール王国の王宮は、いつも通りの静けさ——を取り戻すはずもなく、朝から謎の激しい打撃音と金属音に包まれていた。
ガンガンガン! カンカンカン!
「よし! ルイス、ここの胸部プレートの剛性をあと三倍上げてくれ! 大気圏突入時の耐熱摩耗に耐えきれんぞ!」
「ふっ、分かっていないねシルフ。表面に耐熱魔導塗料を三十層重ね塗りすれば、剛性を上げずとも重量を三分の一に抑えられる。宇宙空間での機動性を考慮した設計たまえ」
王宮の中庭に設けられた特設作業場。
そこには、真顔で巨大な鉄板と魔導炉に向き合うグリーンペンギン姿の剣士シルフと、黒ペンギン姿の天才魔法技師ルイスの姿があった。
二人が取り組んでいるのは、ルイスが新しく設計した『宇宙用ペンギンアーマーV2(プロトタイプ)』の組み上げ作業である。
「ねえ、ルイス。……お尻のモコモコ、足りない。宇宙で転んだら痛い」
作業台の傍らでは、白ペンギン姿の暗殺者ミミが、自分の着ぐるみの尻部分に大量の綿(綿花と高級鳥の羽毛)をムギュムギュと力任せに詰め込んでいた。結果、彼女の下半身はすでに球体のように膨らみ、歩くたびにポヨンポヨンと跳ねている。
「ミミ、過剰な充填は重量バランスを損なうよ。……だが、無重力空間での衝撃吸収という観点においては一理あるかもしれないね」
「……ん。安全第一」
「安全第一なら、まずその不審すぎる格好をやめろぁぁぁぁぁ!!」
俺——アルトは、朝一番で王宮から支給された胃薬の瓶を握りしめながら、中庭の惨状に向かって魂の叫びを放った。
「なんなんだ朝からこの騒ぎは!? 大気圏突入!? 無重力空間!? 俺たちは王立の宇宙開発機構じゃないんだぞ! ただの王宮騎士団と一添えの臣下だ!」
「おはよう、アルト! 朝から元気ね!」
怒声を聞きつけて、王宮のバルコニーから軽快に飛び降りてきたのは、本作の元凶であるピンクペンギン姿の第一王女、エレノア殿下であった。
着ぐるみの上から「宇宙飛行士のヘルメット(※金魚鉢にガラスをはめたような謎の試作品)」をすっぽりとかぶっており、声がフガフガとこもっている。
「殿下……その頭の金魚鉢は何ですか?」
「金魚鉢じゃないわ! ルイス特製の『宇宙ヘルメット・ペンギン仕様』よ! これさえ被っていれば、宇宙の無酸素空間でも優雅に紅茶が飲めるの!」
「飲めるか! ストローを通す穴すら開いてないじゃないですか! 息苦しくないんですかそれ!?」
「ふがっ……ちょっと曇ってきたわね……」
俺はハァと深い溜め息をつき、手慣れた動作でエレノア殿下の頭から金魚鉢を取り外してあげた。プハッと新鮮な空気を吸い込んだ殿下は、輝くような笑顔で俺の顔を覗き込んでくる。
「ありがとうアルト! やっぱり私の第一側近は気が利くわね!」
「……お褒めにあずかり光栄ですが、俺の胃の寿命は削られる一方です。ところで殿下、皇帝陛下(お父様)には『宇宙に行く』なんて身も蓋もない報告をしたんですか?」
「ええ! 『七つの秘宝を集めたので、次は宇宙の秘宝を探しに星の海へ旅立ちます!』って笑顔で報告したわ!」
「陛下なんておっしゃってました!?」
「『そうか、気をつけてな。お土産は星の砂が良い』って仰って、国家予算から宇宙船建造費(※謎の臨時予算)をぽーんと出してくれたわ!」
「親バカが極まって国家予算動かしてんじゃねえよ!!」
この親にしてこの娘あり。グランヴェール王国の未来が本気で心配になってきた。
「まあまあアルト、腹が減っては宇宙探検もできねぇぜ!」
豪快な笑い声とともに現れたのは、茶色ペンギン姿の力持ち、マルコだった。
その両手には、煙をモクモクと上げる巨大な鉄板と、串に刺さった大量の肉が抱えられている。
「おお! マルコ、それは何だ!?」
シルフが作業の手を止め、鼻をクンクンと鳴らした。
「王宮の料理長にお願いして作ってもらった『宇宙耐寒用バーベキューセット』だ! 宇宙はすげぇ寒いらしいからな! 今のうちに肉を食って脂質と筋肉を蓄えておかないと脂が乗らねぇだろ!」
「脂が乗るって何だよ! 俺たちは出荷される養殖ペンギンか!?」
「あ、それ美味しそう! 私、焼き鳥のタレ味が良いわ!」
「……ミミ、カルビ派。白飯も持ってきて」
「よし! みんなで朝の宇宙壮行会バーベキューの始まりだー!」
「「「「おー!!」」」」
作業場が一瞬にして賑やかなバーベキュー会場へと早変わりした。
シルフは大剣の刀身に魔導で火を纏わせ、肉を直火で炙り始める。ルイスは肉の焼き加減を魔導分光器で測定し、「表面のタンパク質が最も凝固し、肉汁が閉じ込められる最適温度はあと三秒後だ」とキザに計算している。ミミは増量したお尻の綿のせいで正座ができず、コロコロと芝生の上を転がりながら肉を口に放り込んでいた。
「……ハァ。なんで俺は、朝の八時からペンギンに囲まれてバーベキューの火加減を見てるんだ……?」
俺は自分の置かれた環境の狂気に頭を抱えながら、焦げ付きそうな肉をトングでひっくり返した。
「アルト、はい口開けて! あーん!」
「へ?」
振り返ると、エレノア殿下がタレのたっぷりついた特大の肉塊を、串ごと俺の口元に突き出していた。
「殿下、自分で食べられますから——」
「ダメよ! 宇宙でのミッションは『助け合い』が基本だってルイスが言っていたわ! 側近の栄養管理も王女の務めよ! さあ、あーん!」
逃げ場のない真剣な(かつポンコツな)瞳で見つめられ、俺は諦めて口を開けた。
「……あーむ。……ん、うまい」
「でしょう! 私がタレを二倍付けたんだから!」
「タレの力じゃないですか料理長の力ですよ」
モグモグと肉を噛みしめながら、俺はふと青空を見上げた。
雲ひとつない秋晴れの空。その遥か彼方、目に見えない宇宙空間に『八つ目の秘宝』が眠っているという。
(宇宙、か……。本当にそんな場所に行けるのか? いや、このポンコツたちなら、本当にロケットを作って飛んでいきそうで怖いな……)
俺がそんな物思いに耽っていると、不意に中庭の入り口から、バタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。
「で、殿下ぁぁぁぁぁ!! 大変でございます!!」
息を切らせて駆け込んできたのは、王宮の文官長である眼鏡の老人であった。手に何枚もの羊皮紙を抱え、青ざめた顔をしている。
「あら文官長、おはよう! お肉食べる? シルフが剣で炙ったカルビよ!」
「肉を食っている場合ではございません! 大変な問題が発生いたしました!」
「問題……? 宇宙船の建造費が足りなかったとか?」
ルイスが冷や汗を拭きながら尋ねる。
「違います! 王都の地下大迷宮……先日の『秘宝回収作業』で皆様が開放された最深部の古代扉ですが……あそこから【謎の古代電波】が発信され続けており、王都中の『魔導通信機』や『魔導冷蔵庫』が暴走を始めております!!」
「「「「「ええええええええ!!???」」」」」
俺たちの叫びが、朝の王宮に響き渡った。
「ちょっと待ってください!! 最深部の『創世の王冠』は回収したはずですよね!? なんでまだトラブルが起きてるんですか!?」
「それが……王冠が置かれていた台座の裏に、さらに小さな【隠しスイッチ】が存在していたようでして……! それが現在『緊急警報モード』で点滅しているとのことです!」
「また隠し機能かよぉぉぉぉぉ!!」
俺はその場に崩れ落ち、ポケットからポリポリと胃薬を二粒同時に口に放り込んだ。苦い。苦すぎる。
ノイズオルゴール、エアコン、強設定ヒーター、未チューニング竪琴、風呂の栓、鳥の巣換気扇、オイル切れゴーレム、アロマ王冠……そして次は『古代家電の電波障害』である。
「ふふふ……面白くなってきたじゃない!」
エレノア殿下が、ピンクペンギンのフードをバサッと被り直し、腰蓋に手を当ててフンスと胸を張った。
「みんな! 宇宙へ行く前に、まずは我が家の地下掃除(二次災害処理)よ! ペンギン特攻隊、出動!!」
「「「おー!!」」」
「特攻隊って言うな! あと俺を巻き込むなぁぁぁぁぁ!!」
こうして、宇宙への旅立ちを目前に控えたアルト一行の休日は、やっぱりいつも通りのドタバタ劇として幕を開けるのだった。
外伝第1話をお読みいただきありがとうございました!
完結後も相変わらずのポンコツペンギン隊!
宇宙へ行く準備(バーベキューと着ぐるみ改造)をしていた矢先、地下大迷宮からまさかの「古代電波障害(家電暴走)」が発生!
次回「外伝第2話:暴走する王都の魔導家電! 〜電子レンジが喋り出した件〜」をお楽しみに!
少しでも面白かったら、ぜひ【ブックマーク登録】や【評価】で応援していただけると大変励みになります!




