第4話:野宿の夜はトラブルの味 〜魔法の火起こし(暴発率30%)〜
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なんとか最初の村を乗り切ったアルト一行。第4話では、旅の醍醐味(?)である「初めての野宿」に挑戦します。しかし、たった一つの火起こしすら、このパーティーでは命がけのイベントに……!?
ローゼル村を出発して二日目。
街道を外れ、鬱蒼とした深林のエリアへと差し掛かった俺たちは、人生初(王女様にとっては完全に初)の「野宿」を迎えることとなった。
「ふふん、これぞ冒険者って感じね! 木々に囲まれた幻想的な夜、焚き火を囲んでのキャンプ……う〜ん、ロマンチック!」
木漏れ日が沈みかけた広場で、エレノア殿下がご満悦な様子で胸を張る。
まあ確かに、夕暮れ時の森というのはどこか神秘的で悪くない雰囲気だ。……もし、周りにいる仲間たちがまともであれば、の話だが。
「よし、日すら暮れる前に拠点を作るぞ。マルコ、薪集めとテント張り。ルイス、火起こし。ミミ、周辺の警戒。俺は夕飯の準備をする」
「おう! 任せろ! 薪だな!」
マルコが力強く胸を叩き、ドシドシと森の奥へ入っていく。
今回は「サツマイモを盗みに行く」わけではないので大丈夫だろう。……たぶん。
「ルイス。火起こしだが……まさかとは思うが、さっきみたいに『ライトニング・ボルト』で着火しようとか思ってないよな?」
「失礼な。僕をなんだと思っている。火起こしには火起こし専用の生活魔法『アグニ・フレイム』を使うさ。火種を作るだけの極小火力だ。暴発したところで、せいぜい髪の毛が少し焦げる程度だよ」
「少し焦げるのも嫌なんだよなぁ……」
とはいえ、火打石で火を起こすよりも魔法の方が手っ取り早いのは確かだ。俺は「必ず控えめにな」と念を押し、料理の仕込み(村で買った野菜と干し肉のスープ)に取りかかった。
だが——世の中、そう上手くはいかない。
五分後。
「おいアルト! 薪を持ってきたぞ!」
「……マルコ、それ薪っていうか……」
マルコが引きずってきたのは、薪ではなく樹齢百年の大木(根こそぎ)だった。
「なんで丸ごと一本引き抜いてきてんだよ!!」
「ハハハ! 一本ずつ拾うのは面倒だからな! これを豪快に燃やせば一晩中温かいぞ!」
「燃やせるかそんなバカでかい木! キャンプファイヤーどころか山火事になるわ! 小さく割れ! 今すぐ斧で薪割りをしろ!」
「ちぇっ、相変わらず細かい男だなあ」
ブツブツ言いながら大木を細かく叩き割り始めるヒグマ男。
続いて、ルイスが組んだ薪の前に膝をつき、格好良く杖を構えた。
「さて……いくよ。『アグニ・フレイム』!」
ルイスの杖の先から、ぽつんと小さな赤色の火花が散った。
……が。
ビシッ……という嫌な静電気のような音とともに、火花が妙な軌道を描いて、薪ではなく俺が仕込んでいたスープの鍋の底に吸い込まれた。
「あっ」
「『あ』じゃない!! なんで鍋に向かって飛んでいくんだよ!?」
「くっ……大気の湿度が想定より高く、火素が水分に引き寄せられたか……!」
「言い訳はいらん! スープが干上がったらお前の晩飯抜きだからな!」
幸い、火力が小さかったためスープが少し沸騰しただけで済んだが、俺の寿命は確実に削られている。
「もう一度だ……! 僕のプライドにかけて……『アグニ・フレイム』!」
シュバッ!
二度目の火花は、ルイスの真後ろ——マルコが積み上げていた巨大な薪の山全体に直撃した。
ゴーッ!!!!
「うわあぁぁぁ!? 一瞬で大火災になったんだが!?」
「ルイスお前ぇぇぇ!! 暴発率3割どころか今日全敗してんじゃねえか!!」
「な、なぜだ!? なぜ僕の魔法は狙った場所に飛ばないんだ……!」
「こっちが聞きたいわ! 火を消せ! 熱い! 森が燃える!」
燃え盛りすぎる大焚き火。
あまりの熱気に俺とマルコが水をぶっかけようと右往左往していると、静観していたエレノア殿下がパチパチと手を叩いた。
「あら、でもとっても温かくて明るいわよ? 影絵でもして遊びましょうか」
「遊んでる場合じゃないです殿下! このままだと森の魔物や害獣が集まってきちゃいます!」
そう——夜の森で過剰な光と煙を上げるのは、「ここに獲物がいますよ」とアピールしているようなものだ。
案の定、鬱蒼とした暗闇の奥から、ガサガサと不穏な足音が聞こえ始めていた。
『グルルルル……』
闇の中から現れたのは、真っ赤な目を光らせた巨大な野生の狼——「ディープ・ウルフ」の群れだった。十匹以上はいる。
「ほら見ろ言わんこっちゃない! 魔物が集まってきたぞ!」
「ふっ……ちょうどいい。僕の爆炎魔法で一網打尽にしてあげよう……!」
「お前は絶対魔法を使うな! 味方に当たるだろ!」
俺が短剣を構え、マルコがバトルアックスを構えた、その時。
「……アルト、どいて」
「え?」
背後から、すっと影が差した。ミミだ。
いつの間にか姿を消していたミミが、狼の群れの真ん中に『ぽん』と何かを投げ込んだ。
シュコーーー……ッ!
猛烈な煙と、甘く香ばしい「肉の焼ける匂い」が広場に充満する。
『ギニャー!?』『ルゥゥゥン!?』
狼たちが突然、鼻を押さえて苦しみ出し、次々と狂ったようにクシャミを連発し始めた。
「な、なんだこれ!?」
「……特製スパイス煙幕。高級大蒜と極辛唐辛子をブレンドした。鼻の利く魔物には劇薬」
「効き目すごすぎるだろ!!」
狼たちは涙と鼻水を流しながら、命からがら森の奥へと逃げ出していった。
……戦闘時間、わずか三秒。
「……ふぅ。一時はどうなることかと思ったわ」
ミミは去っていく狼たちを見送りながら、ちゃっかりその手に『巨大な鳥の丸焼き』を抱えていた。
「ミミ……その鳥、どこで獲ってきたの?」
「……狼を待ってる間に、奥の木にいた怪鳥を狩ってきた。下味もついてる」
「仕事が早すぎるだろ!!」
隠密、煙幕討伐、食材調達……。
普段は影が薄くてスリばかりしているミミだが、野生のサバイバル能力だけは異常に高いことが判明した。
一時間後。
マルコが割った適度な薪(俺が選別した)の上で、小さな焚き火がパチパチと音を立てていた。
鍋では温かいスープが煮立ち、ミミが調達した鳥の丸焼きが香ばしく焼き上がっている。
「う〜ん! この鳥肉、皮がパリッとしていて最高に美味しいわ! お城のシェフにも食べさせてあげたいくらい!」
「……えへへ」
エレノア殿下に褒められ、ミミが珍しく少しだけ誇らしげに鼻を鳴らしている。
「美味いな! スープも味が染み渡るぜ。やっぱり野外で喰うメシは格別だな、アルト!」
「……まあ、無事に飯にありつけたら何でもいいよ……」
俺は疲れ果てた体でスープを口に運んだ。
隣では、ルイスが「なぜだ……なぜ屈折率が……」と地面に謎の数式をカリカリと書き込んで凹んでいる。
「ルイス、落ち込んでないでスープ飲め。冷めるぞ」
「アルト君……君は僕を責めないのかい? 僕のせいでピンチになったというのに……」
「今さらお前の暴発くらいで怒ってたら、俺の胃が保たないんだよ。次からは薪じゃなくて地面に向かって撃て」
「うっ……努力するよ……」
不格好な焚き火の明かりが、5人の影を揺らしていた。
相変わらず全員ポンコツで、一歩間違えれば全滅の危険と隣り合わせだ。だけど——。
(……不思議と、嫌な気はしないんだよなぁ)
王女様は嬉しそうに肉をかじり、巨漢は豪快に笑い、暴発魔術師は反省し、無口な少女はスープをおかわりしている。
「ねえアルト。明日はどんな美味しいものに出会えるかしら?」
「殿下、何度も言いますが観光じゃないんですからね。明日は森を抜けて、港町『サザンポート』を目指します。……そこでもトラブルを起こさないでくださいよ?」
「ふふ、約束はできないわね!」
楽しそうに笑う王女様を見ながら、俺は「やっぱり明日も胃が痛くなりそうだ」と覚悟を決め、星空の下で静かに目を閉じるのだった。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
暴発魔法に大木の薪、そしてミミの謎のサバイバル能力(スパイス煙幕)によって、なんとか初めての野宿を乗り切ったアルトたち。
次回はついに、街道を脅かす「本物のトラブル(盗賊団)」と遭遇します!
次回「第5話:街道のならず者 〜ツッコミが世界を救う?〜」をお楽しみに!
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