6話 主効果と副効果
「それでは、いくつかヒアリングを行ってもよろしいでしょうか」
マニーアはメガネを押し上げる。
「ヒアリング?」
「はい。ヘニオ・ロコの祝福を受けた時の感覚を教えていただきたく」
クラロは顎に手を当てて口を開いた。
「目の前が幾何学模様になった。目に見えるものも、聞こえる音も、肌の感覚や匂いもおかしくなったな。……そして、頭の中に声が聞こえた。……その瞬間、思考が正解を探すことに支配された。……目を閉じているのか、開けているのか分からなかったな」
「……そんな感じ、だったね。わたしは声が響いた瞬間……アルバを傷つけた時のこと、思い出しちゃった。……祝福が暴走して、動けなかった」
彼の言葉を聞いて、ノーチェが補足する。
「……思考誘導の類でしょうか?」
マニーアが推測した瞬間、ルナリアが「そう?」と口を開いた。
「頭の中の声、やなんだけどって言ったら振り払えたよ」
「え?」
「……ちなみに、皆さんの頭に響いた声はどんな感じでしたか?」
三人は思い出す。
「正解に固執しろ、だったな」
「……君のせいだ、だったと思う」
「お人形になりなさい、だった」
「なるほど」
マニーアのメガネがきらりと光る。
「ルナリア様、声を振り払ったあと、何が見えましたか?」
「ずっと幾何学模様だった」
「……なるほど」
マニーアはしばらく考えて、そして口を開いた。
「……断定はできませんが、おそらく、幻影の祝福かと」
「……幻影の祝福?」
「はい。ただし、思考誘導などの副効果を持つ祝福と推測できます」
「……ふくこうか?」
三人は首を傾げる。マニーアは「……ルナリア様、もう一度祝福を見せていただけないでしょうか?」と問いかけた。
「……まあ、いいけど」
ルナリアはそう言って花びらを散らす。
「なんと美しい!! はあ……! たまりません……!」
「……見たかっただけ?」
「はっ! ……そうでしたね。申し訳ございません。……ルナリア様、そちらを動かすことは?」
「簡単よ。ほら」
彼女が手を動かすと、花びらはそれに合わせて移動する。マニーアは「ありがとうございます」と頷いた。
「厳密には違いますが、ルナリア様の祝福で説明いたしますね」
彼女はそう言って指を二本立てた。
「ルナリア様の祝福は、二つのプロセスがございます」
「二つ?」
「はい。まず、花びらの生成。そして、花びらの制御。確認ですが、ご自身で出した花びら以外のものは制御できませんよね?」
「当たり前じゃない。あたしの祝福、弱いもの」
「……祝福の強さは、関係ないかと」
「関係、ない?」
「はい」
マニーアはしっかりと頷く。
「祝福の効果は原則一つですから」
「……でも、姉さんは……」
「ノーチェ様の祝福は、闇のエネルギーそのものを操る、ですから。制御の結果、さまざまな形態になっているに過ぎません」
「……では、副効果とは?」
「ルナリア様の第二プロセス。花びらを操る、が全く別の能力に見えてしまう。そう、お考えください」
「あのヘニオとやらの祝福で考えると、幻影が主効果。思考誘導が副効果、という解釈で間違いないか?」
クラロが確認すると、マニーアは「その通りです」と頷いた。
「副効果は必ず主効果を通じて発動します。ルナリア様は自身が生み出した花びらしか制御できないように」
「……つまり?」
「ヘニオは幻影を通じてのみ、思考誘導をかけられる可能性が高い。そういうことだな」
「はい」
マニーアははっきり頷く。クラロは腕を組んだ。
「……ということは、幻影をどうにかすれば勝機はある、と」
「……祝福が使えれば、ヘニオを捕まえられる、かも」
「……本当か?」
「……うん。前も……沢山の人を捕まえたから」
「……シエロ公を狙った刺客を、姉上が制圧した。そんな噂を聞いたが……」
「そうだよ。あの時は、アルバを守れた」
「……今度は、絶対に助けるぞ」
「……そう、だね」
ノーチェはこくん、と頷く。
「幻影を破る手段ですが、真実の祝福が使えるかと」
「……私の祝福は、発言が嘘かどうか分かる効果だが……」
「幻影の祝福は嘘と断定されると崩れます」
「……そうか。……試せればいいんだがな」
「試しますか?」
「え?」
「今回連れてきた研究員に、幻影の祝福持ちがおります」
「呼んできてもらえないだろうか」
「かしこまりました」
マニーアはそう言って立ち上がり、部屋を後にした。
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