7話 真実の祝福
マニーアは若い男性の研究員を連れて戻ってきた。早速実験を行う。
「では、行きます」
研究員はそう言って、クラロに幻影を向ける。部屋の中に犬たちが現れて踊り始める。
(……イルシオンの世界に近いな)
クラロは思わず笑った後、研究員と視線を合わせる。瞬き一つなく凝視すると、祝福は『嘘』と断定する。そのときだった。
「……っ」
犬たちが消えた。研究員は後ろに後ずさる。
「……破られました」
「祝福が相殺される瞬間、たまりません……。ちなみに、破られた瞬間の感覚は?」
「軽く衝撃が。あとでレポートにまとめておきます」
「お願いしますね!!」
大興奮のマニーアをよそに、クラロは口を開いた。
「成功、したな。……私の祝福は、発言にしか効かないはずだが……」
「表現の瞬間を見ていないといけないのかもしれませんね」
マニーアはメガネをずり上げる。
「……国立研究所でしっかり調べた、はずなんだがな……」
「学問は日々進化いたしますから」
「……ディーアの技術力には驚かされるな。こちらも、祝福体系学を厚くしなくては」
「留学、大歓迎ですよ? ポラールには珍しい祝福持ちも多いですから!」
「……所長が見たいだけでは?」
研究員が笑う。クラロは「検討しておく」と軽く答えたあと、「……助かった。作戦会議に戻ろう」と言った。研究員は「では。……所長、迷惑をかけないように」と釘を刺して退出した。
「……対策として有用なことは分かったが……私の祝福は制約が多い。特に、相手と目を合わせなければならないのがネックだな」
クラロは眉間に皺を寄せる。
「……いえ、遮蔽物があっても問題ないのでは?」
「……根拠は?」
「祝福を使われた際、小生も研究員も瞬きをしていましたから」
「……私が瞬きをした瞬間、祝福が途切れる」
「行動依存の祝福とお見受けします。一瞬でも目を閉じているから使用できない可能性もございますよ」
「行動依存? 何それ?」
「祝福の発動に特定の行動が必要な祝福のことです」
「……へえ。じゃあ、あたしが花びらを動かすときに手を動かすのも、行動依存?」
「いえ、それは行動補助ですね」
「……ふうん」
頬杖をついたルナリアをよそに、クラロは「試してもいいか?」と確認した。
「構いませんよ。では、対象は小生が」
「助かる」
何度も試す。クラロが瞬きをする、マニーアが目を閉じてみる。向き合い方、角度、遮蔽物の有無。疲労が蓄積し、少し眩暈を感じ始めた時だった。
「クラロ様、ここまでにいたしましょう」
「……なぜだ」
「祝福熱の可能性が跳ね上がります」
クラロは黙り込む。マニーアは「それに、祝福の特徴も分かりましたから」と微笑んだ。
「おそらく、クラロ様の祝福の発動条件は以下の通りかと」
マニーアはそう言ってメモ書きを見せる。
『1.対象と使用者の間に、全て覆い隠す遮蔽物がないこと。
2.使用者が一切瞬きをせず、対象の目の位置を凝視すること。これは遮蔽物があっても問題ない。
3.対象が表現した瞬間を見ていること』
「……自分の祝福は、意外と分からないものだな」
「表現型は多種多様ですから。ある程度体系化できますが、それでも推測に過ぎません。だからこそ、面白いのですよ」
彼女は笑う。クラロは「……面白い、か」と笑った。
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