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2話 ぎこちない団欒

「……えっと。ルナリア、クラロ……」


 ノーチェは恐る恐る声をかける。二人はぴたりと動きを止めて振り返った。視線が交差する。


「……何か、用だろうか」

「……何?」


 視線が突き刺さる心地だった。彼女は震える手を握りしめ、おずおずと続ける。


「……その、イヤリング……ありがとう」

「……無事、届いた……みたいだな」

「……イヤリング……? ……側妃さんの?」

「……うん」


 ルナリアは静かにイヤリングを見つめる。それから、逃げるように視線をふい、と逸らした。


「……別に、カントに頼んだだけだし」


 沈黙が落ちる。それを破ったのは、クラロだった。


「……シエロ公と、仲良くできているか?」

「……うん。……すごく、よくしてもらってる」

「……そうか。……和平も、安泰だな」


 その言葉は、どこか無理やり絞り出したようだった。


「……つまんない男」


 ルナリアはぼそりと呟く。


「よりによってそれ?」

「……ルナリア、その言い方は……」


 慌てて嗜めたノーチェを見て、ルナリアは呆れたように笑った。


「何この空気。ぎこちなさすぎ」

「……仕方ないだろう。……まともに、話したこともない」

「……それも、そっか」


 ルナリアはドレスの裾を指先で所在なさそうにいじった。


「……で、なんで来たの? ……恨み言?」

「……そんなこと、言わない」

「……へぇ」

「……話したかった、だけ」


 沈黙が落ちる。


「……何それ」


 ルナリアはふっと息を吐いた。


「……じゃあ、恨み言言っていい?」

「……え……」


 彼女は笑みを浮かべる。


「あんたの夫に突き落とされたんだけど」


 ルナリアは笑っている。


「ひどいなぁ。薔薇の隙間、ちゃんと通りやすいようにしたのに」


 隣にいたアルバが唇を尖らせる。「……薔薇の隙間?」と首を傾げたクラロに対し、彼は笑顔で答えた。


「離宮の隅のバラ園、ちょっと隙間が空いててさ。広げちゃった」

「……どこだ? すぐに塞がないと」

「……あとで案内したほうがいい?」


 ルナリアはクラロを見上げる。彼はしばらく考えて、「……頼む。見落としは減らしたい」と頷いた。


「じゃ、ケーキ食べたい」

「……今日、用意してあるはずだが」

「あんなちっちゃいのじゃなくて、大きいやつ」

「……わがまま、言うんだな……」

「文句ある?」

「……次期ファーブラ公を困らせるなよ」

「……カントは困ってないでしょ。ねえ?」


 ルナリアはカントを見上げる。彼は「……想定の範囲内ですから」と微笑んだ。


「あと、婚約者にベタ惚れのあんたに言われたくない」

「……べ……ベタ……惚れ……?」

「毎晩離さないんだってね?」

「……誤解を招くような言い方はやめろ。空想遊びしているだけだ。侍女も同席している上、遅くならないうちに自室に戻っている」


 クラロは視線を彷徨わせる。


「……ふふっ」


 ノーチェは静かに笑い声をこぼした。


「……二人って、そんな感じなんだ」

「……あったか? こんなこと」

「まともに言い合いしたの、初めてじゃない? 昔のこいつにこんなことできるわけないでしょ」

「……流石に怒るぞ」

「クラロ火山がドッカーンって大噴火?」


 イルシオンが虚言(くうそう)を口にする。誰の頭にも仁王立ちしたクラロ火山が浮かんでしまった。


「……そこまで激しくはない」

「確かに。むしろ雪が降る?」

「……噴き出すのは猛吹雪だな。山の形状の関係で、雪崩の速度は通常の1.5倍ほどになる。被害範囲も広い。……そうなる前に、ちゃんと制御するぞ」


 どうやら、クラロはその空想を否定する気はないらしい。そうしてひとしきり話したあと、クラロは軽く「すまん」と口にした。


「話していたいのは山々なんだが、挨拶がある」

「じゃあしょうがないわね」

「そっか、分かった。……二人とも、その……。……手紙、書いていい?」


 ノーチェは恐る恐るそう口にした。ルナリアは肩を竦めるように笑い、クラロは小さく頷く。


「まあ、いいわよ」

「構わない」


 妹弟(きょうだい)の言葉に、ノーチェはほっと息を吐く。その時だった。


「侵入者だ!」


 騎士の鋭い声が夜会会場に響き渡った。

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