第13話 結婚式
準備はバタバタと忙しなく、だけど、ブライム様とリリとレアと……楽しく過ごしているうちに、あっという間に今日は結婚式。
王都の大聖堂の中には既に大勢の招待客が待機しているし、大聖堂の外でも王太子殿下と侯爵令嬢の結婚式のために大勢の平民たちが集まっている。
式の後、大聖堂から出て、馬車に乗って、王都内を回るから。
大規模なお祭り。
結婚式なんて、建前みたいなモノなんだけど、平民のみんなも喜んでくれているみたい。
……わたくしも嬉しいけどね。形だけの上、三人の妻のうちの一人でしかないけど。形式上の王太子妃。本当はきっと、ブライム様はリリとレアという愛妾にお心を向けているでしょうけど。
それでもいい。わたくしは、リリとレアも好き。……呼び捨てにしてしまう程度には、この一年で好きになっていた。
だって……リリとレアのおかげで、わたくし、ブライム様と普通に話ができるようになったのだもの。
今日の結婚式の前だって、わざわざ花嫁控室に来てくれて、ブライム様はわたくしを褒めてくれた。
「……えーと、ヴィー……、すごく、きれい、だ、ね……」
なんて。たとえお世辞でも、形式上の言葉でもいいの。嬉しかった。
「あ! もちろんリリとレアもかわいいよ!」
リリとレアを褒める、その前振りだとしても。わたくしを先に褒めてくださったし。
「じゃ、じゃあ! ボクは、教皇と一緒に先に祭壇の前で待っているから! またあとでね!」
さっさと控室から出て行ってしまったけれど。
嬉しい。
顔が赤くなってしまう。
リリとレアにはからかわれた。ううう……。でも嬉しい。
ええと、気を取り直してしゃんとしないとね!
今日の結婚式は、まず祭壇の真ん中の位置に教皇猊下が待機してくださって、ほんのちょっと離れた斜めのあたりの位置に花婿であるブライム様も立って待っている。
教皇猊下を中心にして……ブライム様と反対側には椅子に座ったままの国王陛下もいらっしゃる。もちろん座っているだけなんだけど。まるで置物のようだわね。
祭壇より三段ほど降りたところから、大聖堂の入り口まで、真っ直ぐに敷かれた赤い絨毯がある。それがいわゆるヴァージンロードで、薔薇の花を持ったわたくしと、そのわたくしの後にリリとレアが続く。
本人たちがブライズメイドと称しているけれど、実際は三人の妻ですからね! 一緒に入場よ!
で、そのヴァージンロードの左右には、貴族たちや教会関係者たちがずらりと並ぶ。
貴族側は、祭壇の方から爵位順に。だから、当然二大侯爵家が最前列。
教会側も、司教だとか司祭だとか、そういう順位で並ぶとのこと。
ううう……。嬉しいのだけど、緊張するわね……。
時間になって、わたくしはリリとレアと一緒に入場した。
ゆっくりと歩く、ヴァージンロード。
進む先にはブライム様がいる。
……ニセモノの結婚式でもしあわせだ。
わたくしは、しあわせで胸がいっぱいで、浮ついて、ぼやーっとしていて。
視線も、ブライム様しか見ていなくて。
だから、リリが「ヴィクトリーヌ様! 逃げて!」と叫ぶまで。
レアがわたくしの腕を強く引くまで。
気が付いていなかった。
わたくしが進むヴァージンロード。その先に……短剣を持ったクレメントが、突然飛び出してきたことに。
「ヴィクトリーヌ!」
クレメントの大声が大聖堂に響く。
リリが両手を広げて、クレメントを遮る。
「どけっ! オマエに用はないっ!」
リリは……どかない。両手を広げたまま、こちらも見ずに叫ぶ。
「レア! ヴィクトリーヌ様を……」
リリの言葉は最後まで発せられなかった。
「邪魔だっ!」と叫んだクレメントが……、短剣を振り上げて……。
「リリ――――――――――――――っ!」
祭壇の上からブライム様が駆け下りてくる。叫びながら。
わたくしは動けなかった。
レアが腕を引っ張るけれど、足が石造のようになって、動かない。
リリの身体が、ぐらりと揺れて……ヴァージンロードにあおむけに倒れた。わたくしとそろえたウエディングドレス。その胸に……赤い色が見えた。
「リ……、リリ……?」
赤い色が、白いドレスをどんどん染めていく。
「嫌ああああああああっ! リリっ!」
レアの叫び。
「クレメント! キサマ!」
ブライム様の怒声。
クレメントの顔を、ブライム様が勢いに任せて殴る。
床に倒れ込むクレメント。
転がる血の付いた短剣。
わたくしは混乱してぼんやりしていた。
何も考えられなかった。
だってリリが。どうしてリリが……。
「衛兵っ! クレメントを捉えよ! 牢に入れておけっ!」
わたくしは……ふらふらとリリに近寄り、しゃがみ込む。
血の匂い。
どんどん流れていく赤い血。
ああ……、止めないと、止めないと……。
「リリ……」
「よか……った、ヴィ………様、ご無事……」
「リリっ!」
短剣で刺された心臓の、その上を、わたくしは圧迫する。だけど、血は止まらない。あっという間に、わたくしの手も血まみれになって……。走り寄ってきたブライム様が、わたくしの手の上にその手を重ねて。
でも……、あっという間にブライム様の手も……。
「死ぬな、リリ! 頼むから、死ぬなっ!」
ブライム様の涙が、流れた血と混じる。
「嫌……、リリ……、誰か、誰か助けて、神様……」
レアの泣き声。
誰か、助けて、神様。
人は、どうしようもなくなったとき、神にすがるしかないのか。何もできないのか。
なんてことを考えたのは後から。
そのときのわたくしは……何も、考えられず、ただ、本能的に、叫んだのだ。
「助けて……! 助けて聖女様っ!」
何故、そんな言葉を発したのか。
後から考えても分からない。
わたくしの手の傷を治してくれたからか、それとも……。
『いーよ!』
声が、聞こえた。軽やかな声が。
この声を……わたくしは、知っていた。




