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血契の双刃 〜その契約は、愛か呪いか〜  作者: クマハム
第1章:亡国の血と黄昏の誓い
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第4話:無双の双刃



 ――抜刀と同時に、暗闇の中に冷徹な鉄の軌跡が走った。


 先頭の狼が牙を剥き、その凶悪な顎(あぎと)がブラッドの喉元を噛み千切ろうとした瞬間。青年は微塵の動揺も見せず、ただ最小限の動作で半身をかわしていた。


 寸分違わぬ見切り。肉薄する獣の吐息を首筋に感じながら、右手の曲刀――『血喰双刃』が、下から上へと滑るように逆袈裟に跳ね上がる。


 ――ザシュッ!


 硬い毛皮と骨を断つ、鈍い音が響く。


 刃こぼれ一つない鉄の刃は、狼の顎から脳天までを正確に一刀両断にしていた。泥をぶちまけて沈む巨体。


「一匹」


 血気術など、使うまでもなかった。


 300年前、最強と謳われた六魔将の軍勢と戦い抜いた一族の剣技。

 死線を潜り抜けて体に染みついた踏み込みと間合いの管理は、たかが街の地下に巣食う害獣ごときに遅れを取るような代物ではない。


「オオオオオン!」


 同胞の瞬殺に激昂した残りの四匹が、恐怖を捨てて四方から同時に躍り出た。


 上空の配管から、左右の暗渠から、退路を断つ真後ろから。逃げ場のない、数に物を言わせた同時襲撃。


 だが、ブラッドの目は酷く冷めていた。


「遅い」


 地を蹴り、敢えて前方から迫る一匹の懐へと自ら飛び込む。


 飛びかかってきた狼の爪が衣服をかすめるよりも早く、左手の曲刀をその心臓へと正確に突き立てた。同時に、その巨体を盾にするようにして強引に身体を反転させる。


 ドガッ! と、背後から迫っていた別の一匹が、ブラッドが盾にした狼の死体に衝突し、体勢を崩した。


 その隙を亡霊が見逃すはずがない。

 突き刺していた左の刃を引き抜きざまに一閃、体勢を崩した狼の首を真横から深く切り裂く。


 これで三匹。


 残るは二匹。もはやそこにあるのは戦闘ではなく、一方的な「駆除」だった。


 闇に目が慣れた狼たちですら捉えきれない、無駄を削ぎ落とした静かな足さばき。

 左右から挟み込もうとする二匹の攻撃を、ブラッドは流れるような身のこなしで翻弄していく。


 右の刃で牙を受け流し、生じた隙へ左の刃を滑り込ませて喉笛を断つ。


 残された最後の一匹が恐怖にリツき、尾を巻いて逃げ出そうとした時には、すでにその背後にブラッドの影が音もなく忍び寄っていた。


 ――静寂が、下水路に戻る。


 バシャバシャと肉片が泥の海へと落ちる音が消え、ただ天井から汚水が滴る音だけが響く。


 ブラッドはふぅ、と静かに息を吐き、双剣の刃に付着した泥と獣の血を、足元に転がる死体の毛皮で手際よく拭い取った。


 息一つ乱れていない。首元のチョーカーが火花を散らすこともなければ、腕のバンデージが血に染まることもない。これが、血気術という禁忌を封印した状態での、ブラッドという男の「純粋な武力」だった。


「……こんなところで、手こずっている暇はない」


 青年は冷たい泥を払い、手に入れた牙の素材を袋に詰めると、背の鞘へと双剣を滑り込ませた。


 一族の仇である血皇ヴァルザークの首へ至る旅路。そのほんの小慣らしに過ぎない初陣を終え、亡霊は再び地上の光へと向かって歩き出した。








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