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血契の双刃 〜その契約は、愛か呪いか〜  作者: クマハム
第1章:亡国の血と黄昏の誓い
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第47話:異端の祭壇、背信の足跡



 礼拝堂の中央、かつて祭壇であったと思われる場所の近くに差し掛かった時、ブラッドの足が不意に止まった。


 彼の三日月のような瞳が、床の上に落ちていた「ある物」を捉える。


「……ブラッドさん、それは?」


 ブラッドが拾い上げたのは、一枚の古びた紙片だった。


 そこには、ノワール街の複雑な回廊の地図と共に、稚拙ながらも力強い筆跡で文章が書き連ねられている。


『――ノワール街は救いではない。あれは暴力と利害による、もう一つの支配だ』


『地上の腐敗を受け入れることで成り立つ偽りの街に、未来はない』


『僕たちは、力による統治ではなく、別のやり方で自らの居場所を作らねえとならない』


 リーネは静かに息を呑んだ。


「ノワール街は救いではない……ですか」


 ブラッドは紙片を指先で弾く。


「……親父のやり方が気に入らなかったらしいな」


 吐き捨てるような声。


 だが、その瞳は紙片の文字を注意深く追っていた。


「鉄鼠さんのお子さんが書いたものなのでしょうか」


「さあな」


 ブラッドは肩を竦める。


「ガキの理想論かもしれねえ」


「本当に何かを見たのかもしれねえ」


「今あるのは、この紙切れだけだ」


 リーネは小さく頷いた。


 その時、ブラッドの視線が一つの文言に止まる。


『僕たちは――』


「……僕たち、か」


 低い呟き。


「一人ではないのですね」


 リーネが言う。


「ああ」


 ブラッドは短く答えた。


「少なくとも誰かと組んで動いてる」


「それだけは確かだ」


 紙片を懐へ仕舞いながら、ブラッドは祭壇の奥を見据えた。


 誰が書いたのか。


 何人いるのか。


 何をしようとしているのか。


 まだ何一つ分からない。


 だが一つだけ確かなことがあった。


 この紙切れからは妙な熱が伝わってくる。

 ただ隠れて息を潜めるだけの人間が書いた文章には見えなかった。


 世界の在り方に噛み付き、自分の居場所を探そうとする、不器用で青臭い意志。


 その気配だけは、嫌というほど覚えがあった。


 どこへ行っても疎まれ、追われ、生きるためだけに刃を振るってきた過去。


 ブラッドは小さく鼻を鳴らす。


「気に入らねえな」


「え?」


 リーネが首を傾げる。


「昔を思い出す」


 それだけ言うと、ブラッドは踵を返した。


「本人を見つける」


「話はそれからだ」


 そして二人は、祭壇の裏手に隠された地下への階段へと足を向ける。


 階段を下りきった先。


 古びた信徒室の扉の隙間から、微かな灯火と――複数の若い息遣いが漏れ聞こえていた。






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