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血契の双刃 〜その契約は、愛か呪いか〜  作者: クマハム
第1章:亡国の血と黄昏の誓い
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第25話:血界の主



 古代の主が吠えた。


 空間を揺るがす咆哮とともに、鋼鉄よりも硬い結晶の鱗に覆われた四本の巨腕が、容赦なくブラッドへと叩きつけられる。生身の人間なら一撃で肉塊に変える質量。


 だが、ブラッドは逃げなかった。


「――『血加速(ブラッドドライブ)』」


 ボソリと呟いた瞬間、ブラッドの体内でドクン、と悍ましい心音が爆ぜた。

、

 強制的に加速された血流が血管を内側から引き裂き、彼の両目と全身の皮膚に、赤黒い血管の網目が浮かび上がる。心臓に凄まじい負荷がかかる代わりに、彼の身体能力は生身の限界を完全に突破した。


 ドゴォォォンッ!!!


 巨腕が叩きつけられた水面が爆発するように弾けるが、そこにブラッドの姿はない。


 彼はすでに頭上の鍾乳石を蹴り、ボスの真上へと跳躍していた。衣服にじんわりと自身の血を滲ませながら、双剣を逆手に握り直す。


「まずは皮を剥ぐ。――『血刃生成(ブラッドエッジ)』」


 ブラッドの掌の傷から溢れ出た鮮血が、うねりを上げて双刃の刀身へと纏わりつき、禍々しい赤黒い光の刃へと変貌した。出血量に比例して威力を増す、命を削る刃。


 ザンッ――!!!


 肉薄すると同時に放たれた一閃が、あれほど硬固だったボスの結晶鱗を、まるで熱したナイフでバターを裂くように容易く切り裂いた。

 悲鳴を上げるボス。だが、古代の主もさるもの、即座に下半身の無数の触手を網のように広げ、空中にいるブラッドの全方位を圧殺せんと襲いかかる。


「ブラッドさん……っ!」


 着地際の、完全な死角。


 そこへ、リーネが鋭い足取りで踏み込み、胸元の聖印を掲げた。


「『プリズム・シェル』、三重――ッ!」


 パシィィン! とガラスが噛み合うような硬質な音が響き、ブラッドの背後に三層の光の幾何学障壁が瞬時に重なり合う。

 触手の猛撃がそこに衝突し、激しい火花と衝撃波が暗い神殿内に吹き荒れた。


 リーネが衝撃の「点」を完璧に堰き止めたおかげで、ブラッドは無傷で水面へと着地する。


 だが、ブラッドの口元からは、すでに過負荷に耐えかねた生々しい血が伝っていた。

 血流の強制加速による内臓へのダメージが、確実に彼を削っている。


「……手強いですね。ブラッドさん、これ以上は身体が……!」


「黙って見ていろ。ここで仕留める」


 ブラッドは碧眼を獰猛に細め、双剣を地面の水へと突き刺した。


 己の限界をさらに超え、体内の不浄な血を、今度は周囲の空間へと一気に呼び覚ます。


「――『血界展開(ブラッドフィールド)』」


 ゴボリ、とブラッドの足元の水面が赤く染まったかと思うと、次の瞬間、二人の周囲数百メートルにわたって、生温かい「血の霧」が爆発的に立ち込めた。


 それは、空間そのものをブラッドの支配下に置く、文字通りの“彼の領域”。


 霧の中では、ボスの微かな筋肉の弛緩すら完全に感知できる。

 ブラッドの速度はさらに跳ね上がり、ただ霧を抜ける風そのものが、ボスの肉体を刻む見えない斬撃へと変わる。


「ガ、アアアアアアッ!?」


 ボスは何が起きたのかも理解できず、血の霧の中で全方位から肉を削られ、狂ったようにのたうち回った。

 その圧倒的な光景は、まさに戦場を支配する「血の魔王」そのものだった。


 しかし、その代償はエグい。


 領域を維持するために、ブラッドの全身の毛細血管からじわじわと血が噴き出し、彼の意識が急速に闇へと引っ張られていく。


「……ブラッド、さん……!」


 リーネは血の霧の中、自らの魔力が枯渇しかけるのも構わず、彼へと手を伸ばした。

 この圧倒的な禁忌の力を、正気の側に繋ぎ止められるのは、世界で彼女の「盾」だけだった。








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