表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/32

第七話

美鶴は私から顧問の手紙を奪い取ると、唇を噛み締めながら、あぶり出された要約を口にした。

「令和から二十年前のこの洋館で、校長が不可解な状況で息絶えた。校長は自分がこうなることを物理的に予見していた。だからこそ、今の将棋部顧問である弟に、事件の解決手段を託した。この事象を収束させられるのは、未来から来る私たちだけだと確信して」

美鶴は手紙の紙質を執拗に凝視し、私に尋ねた。

「ソウ、手紙はこれだけなの」

「ああ。吊り橋を渡る前、顧問に手渡されたのはそれ一通だけだ」

「おかしいわ。紙の裏が不自然に凸凹している。それに、この微かな香りは。ソウ、シャワー室の洗面台にドライヤーがあったわね。今すぐ持ってきて」

私は言われた通り、ドライヤーを美鶴に手渡した。彼女は迷うことなく、紙の裏面に至近距離から熱い風を送り始めた。

「あぶり出しよ。古典的だけれど、光や熱に反応する特殊なインクを使っているわ」

熱風に晒された紙面から、次第に薄茶色の歪な文字と、複雑な幾何学模様を伴う地図のような絵が浮かび上がってきた。その絵は、洋館と裏山の位置関係を示しており、特定の場所に三つの印が刻まれている。

美鶴はその文字を、獲物を狙う鷹のような鋭い目で見つめ、読み上げた。

『我はサマエルの悪魔を山頂に封印した。封印した緑の箱の中身が発掘されたとき、因果律は崩壊し、我は殺され地獄の終末が訪れる。封印時に隠した三つの紋章を持つクイーンが、救世主として我に代わり蘇るだろう』

私と美鶴は顔を見合わせた。吉川、田口、大内の三人は、その不気味な文言に言葉を失った。

「サマエルの悪魔というのは比喩だわ。ソウ、これはオカルトじゃない。物理学の禁忌であるタキオン粒子のことよ」

美鶴の瞳に、知性の火が灯る。

「校長は、光速を超える粒子であるタキオンを制御し、因果律操作、つまり未来の情報を過去へ送り込み、歴史を書き換える技術に手を触れていた。この地図の三つの印は、その操作を安定させるためのデバイス、紋章の隠し場所よ」

そのとき、若き二郎が重い足取りで部屋にやってきた。

「駄目だ。さっきの落雷による停電のせいか、電話もインターネットも完全に断絶している。照明や最低限の電力は自家発電で確保できているが、外部とは一切のコンタクトが取れん」

美鶴は手紙を隠すことなく、二郎を冷徹に射抜いた。

「試す価値のある手段はあります。その前に、この洋館に今、誰が残っているのか正確に教えてください。校長を殺めた犯人は、この閉鎖された空間、そしてこの時空の中にいるはずですから」

二郎は観念したように息を吐き、話し始めた。

「君たちは高校生だ。大人しくここで待機していなさいと言いたいが、状況がそれを許さないようだな。洋館で首と胸を刺されて息絶えたのは私の兄だ。名は滝音太郎。そして、弟の私が滝音二郎だ」

田口がその名前を反復し、眉をひそめた。

「タキオン太郎に、タキオン二郎。光速を超える物質、タキオンそのものじゃない」

「苗字が滝なのだ。だが、皮肉なことに兄は物理学を専攻し、世界的な権威として、まさにそのタキオンの研究に没頭していた。私はただの物理教師でしかないが、兄の狂気じみた研究、つまり時間の壁を突き破るという野心には恐怖を感じていた。将棋部顧問という肩書きは、兄の別荘を管理するための隠れ蓑に過ぎなかったのじゃ」

二郎の声には、兄への敬意よりも深い忌避感が混じっていた。

ミステリーの盤面に、タキオンという名の、物理法則を蹂躙する不気味な駒が指し示された瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ