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夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


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第六話


滝という名の、驚くほど若い姿をした顧問に連れられ、私たちは二階の空き部屋へと案内された。

「警察と連絡を取る手段は私が考える。君たちは雨でずぶ濡れだ。この部屋にはシャワーと簡易ベッドが四つある。兄が合宿用に急ぎで工事をさせたものじゃ。それから、緊急災害用に備蓄していた紙製の下着と、この学校の体操着がある。サイズは合わないかもしれんが、一時間後にまた呼びに来る。それまでここで待機していなさい。簡単な食事を探してこよう」

二郎はそう言い残し、背中を向けて去っていった。その足取りには、二十四年後の彼にはなかった、若々しさと不気味なほどの落ち着きが同居していた。

美鶴がその背中に声をかけた。

「ありがとうございます。警察に繋がらなければ、後で事件の事情を詳しく伺いたいわ。それと、洋館の向こうに停まっている車についても、気になることがあるのでお願いします」

二郎が去った後、私たちは女子から順番にシャワーを浴びることになった。

古びたユニットバスの狭い空間に、熱い蒸気が立ち込める。田口が大内から借りたカッターを美鶴に預け、女子二人が先に中へ入った。

やがて、私の番が来た。

脱衣所に残された湿った空気の中には、美鶴が使った石鹸の香りと、彼女の体温の残滓が微かに混じっていた。私は急いでシャワーを浴び、用意されていた無機質な白の体操着に袖を通した。

部屋に戻ると、簡易ベッドに腰を下ろした美鶴が、濡れた髪をタオルで拭いながら私を待っていた。

体操着の首元から覗く彼女の白磁のような肌は、シャワーの熱のせいか、それとも別の要因か、異様なほどに上気して赤みを帯びている。

「ねえ、皆。少し落ち着いて聞いて。これからの行動を決める前に、私たちの状況を整理したいの」

美鶴の言葉に、大内と田口もそれぞれのベッドから身を乗り出した。

「警察にコンタクトできるかもしれないけれど、それよりも先に認めるべき事実があるわ」

美鶴が私を真っ直ぐに見つめた。その強い視線に、私の胸の奥がドクンと大きく跳ねた。

その瞬間、異変が起きた。

美鶴のうなじ、体操着の襟元から覗く「赤龍の紋」が、私の鼓動に呼応するように鮮烈な紅い光を放ち始めたのだ。

「……っ」

美鶴が小さく吐息を漏らし、うなじを押さえた。

彼女の体温が急上昇しているのが、数メートル離れた私にも伝わってくる。部屋の空気がタキオンの干渉を受けて歪み、陽炎のように揺れていた。

私の心拍が上がるたびに、彼女の紋章は脈打つように輝きを増す。

これは単なる痣ではない。私たちの肉体そのものが、この時空の歪みの中でエネルギーを増幅させる「リアクター」として機能し始めているのだ。

美鶴は熱に浮かされたような瞳で、しかし冷静に言葉を続けた。

「まず、私たちは二〇二四年の高校生として、夏休み合宿のためにここへ来た。けれど、洋館に入った瞬間にすべてが書き換わったわ。見てきたでしょう。あの倒れていた男性の携帯電話の日付、そして建物の新しさ。私たちは今、令和ではなく、平成のミレニアム、二〇〇〇年の夏にタイムスリップしているのよ」

「そんな、馬鹿なことが」

大内が絶句したが、美鶴の確信に満ちた表情がそれを許さなかった。

「大きな雷、館の振動、そして空を覆ったあの緑の渦。あれが時空を飛び越えるための『境界線』だったのよ」

私は、吊り橋を渡る前に顧問から預かった手紙のことを思い出し、それを美鶴に差し出した。

美鶴は奪い取るようにして手紙を読み、歓喜に瞳を輝かせた。

「そうよ。まさにこれだわ。二十四年前、ここで刺されて息絶えた滝音太郎校長は、未来から少年少女がやってくることを予見していた。そして、IQの高い一人の少女が真相に辿り着くと書き残している。私たちは迷い込んだんじゃない。招待されたのよ」

美鶴が立ち上がった。彼女の肌からは微かに蒸気が立ち上り、濃厚な生命力が部屋中に満ち溢れていた。

共鳴は止まらない。私の鼓動が激しくなるほど、彼女の知性は研ぎ澄まされ、赤龍の光は部屋の隅々を照らし出していく。

「事件を解決しなさい、と校長は言っているわ。そうすれば、令和への道が開ける。犯人はまだこの時代、この館の中にいる。私たちの、本当の対局はここからよ」




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