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夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


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第五話

挿絵(By みてみん)

雨の猛威から逃れられたことに安堵したのも束の間、洋館の入り口で三島美鶴、田口、大内の後ろに控えていた私の耳に、屋敷の奥から鋭い声が飛んできた。

「君たちは誰だ。今、非常に取り込んでいる。誰だか知らないが帰ってくれ」

そこに立っていたのは、手入れの行き届かない髭を蓄えた、人相の悪い中年男性だった。自称トレジャーハンターの宇曽口史郎だ。彼の瞳は、私たちを正視することなく、広間に置かれた高価そうな花瓶や絵画を、まるで値踏みするかのように下卑た色で品定めしていた。

誰だと尋ねられた直後に、帰れとの宣告。滝のような大雨の中へ再び戻るのは到底承知できない。それに、先ほど目撃したあの息絶えた老人の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。

「まあ待て、宇曽口。私が呼んだ客人だ」

宇曽口の背後から、もう一人の男が姿を現した。

二人の男性が入り口のドアへと歩み寄る。

「やあ。待っていたよ。さあ、中に入ってくれんかのう」

その男の顔を見て、私は腰を抜かしそうになった。

二十四年前の、若き日の滝音二郎。

黒々と艶のある髪に、張りのある白い肌。しかし、レンズの奥にある眼光だけは、定年間近の彼が持っていた諦念のようなものとは正反対の、どろどろとした野心に満ちていた。外見は若作りした青年のようだが、口調だけは隠しきれない年寄りじみた重みがある。

「滝、こいつらは誰なんだ」

宇曽口が不快そうに眉を寄せた。

「兄である校長が、顧問を務める高校の学生じゃよ。将棋部の夏休み合宿に呼んだのだ。ちょうど、北山女流棋士やアマ名人の小野丞さんも来ているだろう。校長が我々以外にも客人を呼んでいると、昨晩言っていたではないか」

滝音二郎は、淀みない口調で説明した。しかし、その声には実の兄が死んでいるという悲痛さは微塵も感じられない。むしろ、この状況を冷徹に観察しているかのようだった。

「しかし、今は校長が……。それより早く警察を」

「よろしくね。外は雨だし、遠慮なく中に入らせてもらうわ」

二郎の言葉を遮り、美鶴が平然と洋館の奥へと突き進んだ。彼女の歩みには一点の迷いもない。

「あっ。ちょっと、子どもは駄目だ」

宇曽口が慌てて制止しようとするが、田口と大内も会釈して美鶴の後を追った。

私は洋館の入り口に足を踏み入れる直前、ふと振り返って空を仰いだ。

つい数分前まで空一面を覆い、禍々しい渦を巻いていた緑色の雲が、急速に色を失い、ありふれた灰色の雨雲へと姿を変えていく。洋館の壁面を走っていた緑の光も消え、そこにはただの、雨に濡れた薄汚れた壁が残るのみだった。

「ソウ、こっちよ」

美鶴が私を呼ぶ。

「奥の部屋にいたわ。胸と首を刺された、顧問に似ているけれど顧問じゃない、息絶えた人が」

「子どもは駄目だと言っただろう! 滝、こいつら全員をどこかの部屋に閉じ込めておけ」

宇曽口の怒鳴り声が響く中、二階から二人の女性が降りてきた。

一人は凛とした和装でショートカットの美女。もう一人は金髪に染め、派手なワンピースを纏った女性。

美鶴がその顔を見て、小さく声を上げた。

「和服が似合う、北山乙子きたやま おつこ女流棋士だわ。それに二〇〇〇年のミレニアムの正月に、男性のアマ名人を破った小野丞莉月おのすけ りつきさんね」

北山乙子の瞳は、この凄惨な状況にあってもなお、脳内の盤面を見つめているかのような異常な集中力を保っていた。一方、小野丞莉月は宇曽口と同様、洋館の調度品や周囲の人間の反応を、何か利益の種を探るような強欲な視線で舐めるように見ていた。

「騒がしいけれど、何か起きたの?」

和装の北山が、宇曽口に問いかける。

「校長が大変なことに……。一階の奥の部屋で大きな音がしたから、滝と二人で来てみたら、校長が死体で見つかったんだ。部屋は内側から鍵が掛かっていたから、二人で体当たりをしてドアを破ったんだがな」

宇曽口の言葉は、それが「密室殺人」であることを示していた。

「外とコンタクトを取らないと」

二郎が提案し、一同は警察への連絡を試みた。しかし、折り畳み式の携帯電話は圏外を示し、洋館の固定電話も沈黙したままだ。

「パソコンのネットは?」

「まだ試していないわ。二階の部屋で確認してくる」

北山と小野丞が二階へ戻り、しばらくして絶望的な顔で降りてきた。

「駄目よ。通じないわ」

宇曽口が吐き捨てるように言った。

「吊り橋も落ちた。外界とのコンタクトは絶たれた。この洋館にいるのは、俺たち五人の大人と、この四人の中学生だけだ。もし校長が誰かに刺されたのだとしたら、犯人はまだ、この近くにいることになる」

外の大雨は止む気配がなく、滝のような雨音が、退路の断たれた私たちを嘲笑うかのように鳴り響いていた。


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