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夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


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第三十一話

激しい衝撃と共に目を開けると、そこはカビの臭いと埃が充満する、薄暗く閉鎖的な地下室だった。窓の外では紫色の不気味な稲光が空を裂き、叩きつけるような雨音がコンクリートの壁を絶え間なく揺らしている。床に落ちていた古新聞の日付は、一九九九年六月二十四日。ノストラダムスが予言し、世界中の人々が終末の予感に震えていた、あの呪われた月の最中だった。

私たちは洋館のベッドの上で、全裸のまま抱き合っていた。身体に纏わりつく汗の感触と、耳元で聞こえる美鶴の荒く熱い呼吸が、ここがただの夢ではないことを雄弁に物語っている。肌と肌が吸い付くような密着感の中で、私は彼女の心音を感じ取っていた。その時、隣の部屋から、地を這うような狂気を含んだ叫び声が聞こえた。

「ついに、ついに生成したぞ。これぞ時間の核、タキオンだ。私は神を捕まえたのだ」

滝音太郎の声だ。私たちは急いで衣服を纏い、叫び声の主がいる実験室へと踏み込んだ。そこには、巨大な放電装置と無数のブラウン管モニターに囲まれた、若き日の滝音太郎が立っていた。彼の眼球は血走り、モニターに映し出される緑色の数値に、自らの魂を吸い取られているかのように見えた。彼の周囲には、歪な形をした赤い結晶と、緑色の回路が乱雑に置かれている。

「太郎さん、止めてください。その研究は未来を破壊し、取り返しのつかない悲劇を生むことになります。あなたの発見は、人類が手にしていい力ではないんです」

美鶴が凛とした、しかしどこか哀しみを湛えた声で説得を試みる。自分は未来から来た二郎の教え子だと名乗り、二〇〇〇年に起きる凄惨な殺人事件、そして二〇二四年の世界がどのように崩壊しかけたかを必死に訴えた。しかし、太郎はゆっくりとこちらを振り返ると、その口角を人間離れした角度で釣り上げた。

「未来など、私の知ったことか。私の研究を邪魔する者は、神への反逆者と同じだ。私は今、この瞬間に時間の支配者になる。歴史を、因果を、私の手の中に収めるのだ」

太郎は狂ったように笑い、白衣の下から鋭利なサバイバルナイフを抜き放った。彼は迷うことなく、最も邪魔な存在である美鶴に向かって突進してくる。私は二〇二四年から手にしていた、使い古された、しかし信頼の置ける竹刀を構え、その必殺の一撃を横に鋭く受け流した。

「美鶴、後ろにいろ。こいつはもう、言葉が届く状態じゃない」

太郎は驚くべき身軽さで体勢を立て直し、今度は壁に飾られていた本物の日本刀を鞘から抜き放った。真剣の冷たい光が、実験装置の緑色の放電に照らされて不気味に、そして美しく輝く。

シュッ、という鋭い風切り音と共に、太郎の刀が私の肩口を数ミリの差で掠める。私は剣道の極意を呼び覚まし、死力を尽くして応戦した。竹刀と真剣がぶつかり合い、暗い室内に火花が散る。太郎の剣筋は素人とは思えないほど鋭く、未来から情報を引き出しているかのような、先読みされた動きだった。

「ソウ、これを使って。こいつを怯ませるのよ」

美鶴が叫び、足元に転がっていた重厚な木製の将棋盤を、太郎の顔面めがけて全力で投げつけた。太郎は咄嗟にそれを刀で叩き落としたが、その瞬間、一秒にも満たないわずかな隙が生じた。私はその一瞬を逃さず、太郎の鳩尾に竹刀の柄を渾身の力で叩き込み、彼を実験用机まで吹き飛ばした。

「今のうちよ。早くこれを」

美鶴は机の上に置かれていた、緑色の回路が複雑に組み込まれたノートと、不気味に明滅する赤い結晶、そして龍の模様が刻まれた黒い回路を素早く掴み取った。これらこそが、未来を汚染する因果の種だ。私たちは雨の降りしきる外へと、泥を跳ね飛ばしながら逃げ出した。背後からは、濡れた白衣を翻し、真剣を振り回す太郎が、獣のような咆哮を上げて追ってくる。

逃げ場を失い、私たちは激流となった川に架かる、今にも崩れそうな古い吊り橋へと追い詰められた。

「返せ、私の未来を、私の神を返せ。お前たちに私の夢を汚させはしない」

太郎が狂気に駆られて吊り橋の中ほどまで足を踏み入れた、その時だった。

バリバリバリ、という鼓膜を突き破るような大音響と共に、漆黒の空から巨大な、目も眩むような光の柱が降り注いだ。落雷は太郎が掲げた、避雷針代わりとなった日本刀を正確に直撃し、彼の身体を真っ白な閃光が包み込んだ。

太郎は悲鳴を上げる間もなく、凄まじい電撃の衝撃で橋の欄干を突き破り、濁流の川へと真っ逆さまに転落していった。彼の身体は一瞬で波に飲み込まれ、闇の底へと消えていった。

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