第二十三話
洋館の書庫に充満するインクの臭いと、太郎の遺体から取り出された「三枚目の紋章」が放つ不気味な脈動が、私の五感を麻痺させていた。美鶴は私の腕の中で熱にうなされながらも、その瞳には鋭い知性の光を宿している。彼女はゆっくりと私から離れ、震える足取りで広間の真ん中へと進み出た。
「全員、よく聞いて。犯人が使った手口、そしてこの屋敷で起きた『姿の見えない殺人』の正体を暴くわ」
美鶴の声は掠れていたが、広間全体に響き渡るほど鋭かった。
「犯人は、魔法を使ったわけじゃない。**『時間のわずかなズレ』**を利用したのよ。犯人は被害者と同じ場所にいながら、時間をほんの少しだけ過去に遡って動いている。だから、誰にも姿が見えない。犯人は相手がそこに『現れる』のを過去から待ち伏せして、まだ誰もいない空間に刃物を固定する。被害者がその場所に来た瞬間、何もないところから刃物が現れたように見える。これが、姿の見えない密室殺人の正体よ」
私はその理屈を聞き、剣道の立ち合いで最も恐ろしい「相手が動こうとした瞬間の隙を突かれる」感覚を思い出していた。相手の動きが完成する前に、先回りして一撃を叩き込まれる絶望的な感覚。犯人は距離ではなく、**相手がそこに存在する直前の「時間の隙間」**を狙って、あらかじめ刃を置いていたのだ。
美鶴は手の中にある黒い龍の欠片を高く掲げた。
「なぜこれが三枚目の紋章だと分かったか。それは、太郎さんが最期に遺した**『龍王』の駒がすべてを語っていたからよ。あの駒に刻まれた『龍』と『王』。
一つ目は、宇曽口さんが地下で見つけた『緑の箱』。
二つ目は、莉月さんが持っていた、出力を強める『赤い結晶』。
そして三つ目が、この『黒い龍』**。この三つが揃うことで、この屋敷の装置は完成してしまう」
美鶴の言葉が終わるか終わらないかのうちに、屋敷全体が巨大な音を立てて激しく軋み始めた。三つの紋章が引き寄せ合ったことで、溜まった時間の力が限界を超え、物理的に壊れ始めたのだ。
「逃げなさい! この場所にあるすべての記憶が、一つに飲み込まれて消えてしまうわ!」
私たちは出口へと必死に駆け出した。地面が波打つ中で、私は美鶴の細い腰を抱きかかえるようにして外へと飛び出した。
外は猛烈な大雨だった。八月の真夏であるにもかかわらず、その雨は氷のように冷たく、私たちの体温を奪っていく。崩れ落ちる洋館を背に、私たちは森の開けた場所まで走り抜けた。全員が激しい呼吸を繰り返し、土砂降りの雨に打たれながら立ち尽くす。
ふと、私は目にした光景に息を呑んだ。雨に濡れた女性陣の姿が、あまりにも扇情的に、私の理性をかき乱したからだ。
莉月は薄い和服の合わせが乱れ、濡れそぼった生地がその圧倒的な肉体をさらけ出していた。重みのある大きな乳房が、雨を吸って重くなった布地を内側から強烈に押し広げている。透けた生地の向こうには、焦げ茶色の、大きくて弾力がありそうな乳首の輪郭がはっきりと浮き上がっていた。
(あの赤い結晶を持っていた莉月さん……。あの重厚な肉体美には、どこか人を惹きつけて離さない魔力がある。彼女が、この異常な状況を楽しんでいるのではないか……?)
そんな疑念を抱きつつ、私は隣に立つ北山乙子に目を向けた。彼女は雨の中でも気品を失わず、どこか遠くを見つめている。白いブラウスは完全に透明になり、Dカップの整った乳房がその奥に透けて見えていた。その乳房の横、白い肌には美しい龍の彫り物が雨に濡れて生々しく光っている。その中心にある乳首は、驚くほど鮮やかな紅を差し、まるで高貴な宝石のように透けて見えた。
(なんて綺麗な人なんだ……。クールビューティーとは北山さんに相応しいかも)
私の疑念の矛先は、野心家であるアマチュア将棋選手で産業スパイかも知れないの小野丞へと向く。
(小野さんなら、滝音太郎の秘密をどこかの企業に売り込んで一儲けを企んだかも?自分でも産業スパイ容疑を否定はしなかったな)
私のすぐそばにいる美鶴は、黒いワンピースが肌に吸い付き、まだ硬いつぼみのような、桃色の小さな乳首が布地を鋭く突き上げている。彼女のうなじにある「赤龍」の痣は、雨の中でも鮮烈な紅い輝きを放っている。
(龍王の駒の『龍』。そして美鶴の『赤龍』の痣。滝音太郎の龍王と何か関係があるのか?いや美鶴に、限って)
雨に濡れて透けた女性達の乳房の群れに、私は罪悪感を覚えながらも、誰を信じていいのか分からぬまま、その扇情的な光景に溺れそうになっていた。
美鶴が私の視線に気づき、ふっと妖艶な笑みを浮かべた。
「ソウ、こんな時でも男の子なのね」
彼女はからかうように言うと、私の耳元に顔を寄せた。彼女の熱い吐息が、雨の冷たさを一瞬だけ忘れさせる。
「でも、見て。あそこの空間……また、何かが動いているわ」




