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夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


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第二十一話

地下室から這い上がるようにして広間へ戻った私たちは、あまりに異常な光景に足を止めた。洋館全体を包んでいた緑色の光が消え、代わりに底なしの闇のような黒い霧が、床から這い上がっていた。その霧はただの暗闇ではない。目を向けると、霧の中に無数の文字の列や、見たこともない複雑な計算式、そしてバラバラな映像が、テレビの砂嵐のようにチカチカと浮かんでいる。

「時間のまとまりが壊れ始めている。三つの紋章が引き寄せ合って、この場所を情報のブラックホールへ変えようとしているのだ」

美鶴の声はかすれ、その肌は再び異常な熱を帯び始めていた。シャワーで濡れた黒いワンピースは依然として乾ききらず、熱くなった彼女の体に薄い膜のようにぴたりと張り付いている。激しく上下する彼女の豊かな胸元は、濡れた布の下でその柔らかな形をはっきりと主張していた。

冷たい空気と緊張のせいか、彼女の胸の先端にある乳首は小さくも硬く突き立ち、透けた生地を内側から鋭く押し上げている。私は彼女を支えながら、手のひらから伝わる吸い付くような肉の弾力と、その色っぽい曲線に意識を奪われるのを必死でこらえた。彼女の乳房が私の腕に押し付けられるたび、その柔らかさと熱量が私の脳を痺れさせる。彼女のうなじにある赤龍の紋章は、まるで彼女の命を吸い取って燃え上がる炎のように、不気味で深い赤色の光を放っていた。

美鶴はふらつく足取りで、校長・滝音太郎の遺体が置かれている書庫へと向かった。

「ソウ、手伝って。太郎さんの体をもう一度調べる。事件の本当の理由は、まだ解けていない」

「でも、調べは終わったはずだ。これ以上、何を調べるというんだ」

「いいえ、まだ一番大切なものが残っている。この時間の暴走を決める中心が、どこかに隠されているはずだ」

私たちは密室だったはずの書庫へ入り、冷たくなった滝音太郎の体と向き合った。美鶴はためらうことなく死体のあごに手をかけ、その口を大きく開かせた。

「見て、これだ。光を当ててくれ」

ライトの光が、太郎の喉の奥を照らし出す。そこには、肉に深くめり込むようにして、黒い龍の欠片が埋まっていた。それはまるで、自分の意志で喉の奥へと食い込んでいったかのように、周りの肉を黒く変色させている。

美鶴は震える指を死者の口の中へと差し入れた。彼女の指先が死者の冷たい口の中に触れ、生々しい音が静かな書庫に響く。彼女が苦労して引き抜いたのは、ドクドクと脈打つような不気味な光を放つ第三の紋章であった。

その瞬間、書庫の空間がガラスが割れるような音を立てて歪んだ。本棚にある何千冊もの本が、文字通り液体のように溶け始め、ページに書かれた知識がインクの黒い雨となって床に降り注ぐ。洋館の時間が完全停止したかのような、静止画的な「ブラックホール化」が部屋を支配した。

だが、美鶴の探索はそれだけでは終わらなかった。彼女は太郎が固く握りしめていた右拳に指をかけ、一指ずつ、その強張った指を解いていった。

「……ソウ、これを見て」

開かれた掌の中にあったのは、一枚の将棋の駒だった。飛車の駒、そして、

裏返すと「龍王」の文字がある。

しかし、その駒はあまりにも異様な色彩を放っていた。彫られた「龍」の文字は、深淵のような漆黒。だが、その頭上に配された「王」の一文字だけが、鮮烈な、滴るような赤で彩色されていた。

(赤……龍……)

私の心臓が、鐘を打たれたように激しく脈打った。

黒い龍の上に、赤い王。その不気味な符合は、目の前で荒い息をつく美鶴のうなじにある「赤龍」の痣と、嫌悪感を覚えるほどに重なり合う。

美鶴は「犯人は時間をずらして移動している」と言った。だが、もし、この情報の荒波を操っているのが彼女自身だとしたら。太郎が最期にこの駒を握りしめたのは、自分を殺した「赤い龍」を告発するためだったのではないか。

美鶴は激しい痛みに耐えるように私の胸に顔をうずめた。

美鶴の体からは、湯気が出るほどの熱が出ている。濡れた髪からしたたる水滴が、彼女の豊かな胸の谷間へと滑り落ち、その色っぽい光景が、壊れていく世界の中で唯一の確かな現実であるかのように私の目に焼き付いた。

彼女の熱い吐息が私の首筋を焼き、ぴったりと重なった彼女の柔らかな胸の感触と、その先にある乳首の硬い刺激が伝わる。

しかし、その温もりさえも、今の私には彼女の正体を隠すための偽装に思えてならなかった。私の腕の中で震える彼女の熱は、愛おしさではなく、底知れぬ恐怖へと変貌しつつあった。

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