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夏休みの山奥に洋館でタイムスリップしたら、死体が転がってた。〜棋士の紋章と因果の詰み〜  作者: lavie800


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第十三話

豪雨が洋館を叩きつける音に混じり、広間には田口のすすり泣きと、大内の刺すような殺気が充満していた。私は大内を制しながらも、不気味に脈動を続ける緑の壁に視線を向ける。この異常な空間が、私たちの理性を内側から少しずつ削り取っていくのを感じていた。

「開いたぞ。ついに見つけたんだ。あのクソ校長が隠し持っていたお宝をな」

広間の重い扉が乱暴に蹴開けられ、泥にまみれた宇曽口が飛び込んできた。その腕には、激しい雨に濡れてなお鈍い光を放つ小さな緑の箱が抱えられている。彼は荒い息を吐きながら、それを中央の将棋盤の上に乱暴に叩きつけた。

「宇曽口さん、それは」

若き二郎が顔を強張らせて身を乗り出す。

「校長の私有地を少し掘り返してやったのさ。兄貴が死んで悲しんでいる暇なんてねえだろう。遺産は有効活用してやらなきゃな」

宇曽口が下品な笑いを浮かべ、箱の蓋に指をかける。錆びついたような音を立てて蓋が開くと、中から現れたのは宝石でも金貨でもなかった。そこには、複雑怪奇な回路が刻まれた手のひらサイズの緑色の金属製チップが鎮座していた。鈍い緑色の地肌に、発光する線が血管のように走り、微かな脈動を繰り返しながら渦を巻いている。

「これだ。これこそが、すべての鍵。館を緑色の渦にする装置だ」

宇曽口が歓喜の声を上げる。その背後から、低く艶を帯びた声が響いた。いつの間にか北山乙子が私たちのすぐ後ろに立っていた。彼女の瞳は獲物を捕らえた猛禽類のように爛々と輝き、その白い指先が吸い寄せられるようにチップへと伸びる。彼女の頬は紅潮し、吐息がわずかに荒くなっているのを、私は見逃さなかった。

その瞬間、室内の重力が一変した。

胃の腑を直接掴み上げられるような、暴力的な重圧。床に置かれたコップの水が、不自然な振動と共に上空へと舞い上がり、透明な球体となって空間に浮遊し始める。

「な、なんだ。体が浮くぞ」

宇曽口が狼狽した声を出す。だが、私に起きた異変はさらに顕著だった。背負っていたリュックサックの中、備え付けの紐で固定していたはずの竹刀が、ガタガタと激しい音を立て始めたのだ。

次の瞬間、竹刀が生き物のように暴れて天井方向へと猛烈に引っ張り上げられた。まるで頭上に巨大な磁石が出現したかのように、竹刀の先が真上を指して固定される。重力法則が九十度ひっくり返ったかのような、視覚的にも異常な光景だった。私の体もまた、竹刀に引きずられるようにして爪先立ちを余儀なくされる。

「美鶴」

私が叫び声を上げると同時に、美鶴がその場に膝をついた。彼女の左手が、うなじの赤龍の紋を強く押さえている。黒髪の隙間から、鮮血のような紅い光が溢れ出し、彼女の白い肌を禍々しく照らし出した。

「ソウ、見えてる」

美鶴が虚空を睨みつけ、うわ言のように呟く。その瞳は焦点が合っておらず、いま目の前にある景色ではない何かを映し出していた。

彼女の視界に流れ込んだのは、崩壊する洋館の残像だった。緑色の光がすべてを飲み込み、二〇二四年の荒れ果てた書庫で、少女が狂ったように笑っている。その足元には、事切れたはずの顧問が横たわり、指先で何かを指し示している。


「こんな未来は、無いはず。歴史が書き換えられていくみたい」


美鶴の言葉と共に重力波が弾けた。天井へと引っ張られていた竹刀が強烈な衝撃と共に私の背中に戻り、浮遊していた水球が霧散して床を濡らす。宇曽口は無様に尻餅をついた。チップを握ろうとしていた北山の手が止まり、彼女は忌々しそうに美鶴を睨みつけた。

第一の紋章がもたらした超常現象は、この場所に集まった者たちの欲望と絶望をさらに加速させていく。私は震える手で美鶴の肩を抱き寄せた。彼女の肌は異常に熱く、その激しい拍動は私自身の指先にまで、消えない刻印のように伝わってきた。

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