月影の丘へ
ヴィントブルグの復興の最中、アージェントが現れ、ジェイドが皇帝ガイウスと繋がっていることをユリウスに話します。
その後、ジェイドは皆の前から姿を消してしまいます。
ユリウスとの関係に決定的な亀裂を残し、ジェイドが姿を消してから数日が過ぎた。
魔王城は、世界の最北に位置する絶海に浮かぶ孤島。
転移陣なしには辿り着くことすら不可能とされる禁忌の地である。
だが、私達には一筋の希望があった。
緑嶺の地下墓所でリウが手に入れた古の魔導書。
そこには、魔王城へと繋がる失われた転移魔法陣の手がかりが書き記されていたのだ。
「魔王城へと至る転移陣は複雑なもので、触媒である高純度の魔石と事前準備が必要だよ。」
リウはそう言うとケインと一緒に寝食を忘れて転移陣の準備に追われていた。
町の再建と、研究に明け暮れていたある日の朝、突如として空が紫暗色の魔力に覆われ、巨大な映像が全世界へと投影された。
『セフィーリアの民、そして勇者共よ。……聞こえるか?』
空に映し出されたのは、漆黒のアーマーに蝙蝠の翼を羽ばたかせた、痩身の男――魔王タクト。
彼は禍々しくもどこか芝居がかった仕草で、高らかに宣言する。
『今日は我が華麗なる百合軍団が誇る四天王を紹介しよう!』
世界中の民衆が恐怖にざわめく中、映像が切り替わり、煌びやかな衣装に身を包んだ美しい魔族たちが次々に映し出された。
『まずは――蒼海の巨刃、レナ・ゼラチナス!』
そう言われて登場したのは大剣を高く掲げる、凛々しくも美しい蒼髪の女剣士。
『続いて――赫奕たる大淫魔、ルカ・インフェルノ!』
ルナは桃色のツインテールをなびかせ、こちらに向けてウィンクしている。
(この町を襲った百合カップルか。二人ともあの時よりも魔力がかなり増してる……。)
『そして、我が補佐官――常闇の万華鏡、アージェント・ノワール!』
その瞬間、世界中が、そしてユリウス達までもが息を呑んだ。
あの地味な青年だったはずのアージェントが、長い蜜色の髪をなびかせ、吸い込まれそうなほど妖艶な「美女」の姿へと変貌していたのだ。
(ちっ、アージェントめ……。民衆に魔王への畏怖と羨望を植え付けるために魔族の「姿を変える」特性を利用して『変身』したのね。
狡猾なあいつが考えそうなことだわ。)
『ふははは! 残る最後の四天王は……まあ、次のお楽しみだ。』
アングルがすっと切り替わり、黒い鎧を身にまとった「騎士の後ろ姿」が一瞬だけ映し出された。
その背中を見たユリウスの顔が痛みをこらえるように歪む。
『さあ勇者パーティよ。果たしてお前達は、我が元に辿り着けるかな……?」
張り詰めた空気の中、静寂をぶち破ったのは私の怒声だった。
「ちょっとおおおおお!!! そんな中二病全開な痛いあだ名付けて悦に浸ってないで、あんたが直接ここに来なさいよ!!
私がその間抜け面、ボコボコにぶん殴って目を覚まさせてやるんだから!!」
両手をメガホン代わりにし、空の映像に向かって思いきり叫び散らす。
全世界が驚愕する中、映像の中の魔王があからさまに素に戻って慌て出した。
『う、うるさい!!ったくお前は昔から暴力的だな!
四の五の言わず、魔王城に来い!!
……あ、コホン。
光の女神ディーテが召喚したおまえが勝つか、闇の神アトラが召喚した俺が勝つかはすべて魔王城で決まるのだ。
……勇者ども、我が魔王城で待っておるぞ。』
ブツン、音がして映像は消え、空には元の澄んだ青が戻ってきた。
あとに残されたヴィントブルクの群衆は、「女神ディーテ様がモエ様を召喚した?」と別の意味でもどよめいている。
ユリウスはすぐさま民衆の前に立ち、その動揺を宥めた。
「皆、聞いてくれ、モエは女神ディーテが遣わしてくれた真の『勇者』だ。
俺は皇帝ガイウスと教会が作り出した偽物の『勇者』に過ぎない……。
しかし、俺にはこの魔法剣とモエ、リウ、ケイン、……そしてジェイドという仲間がいる。
俺達は最北の地、魔王城へと赴き、魔王の野望を打ち砕く!!
魔王タクト、そして魔王軍がこのセフィーリアを混沌に陥れようとするならば、そのすべてをこの剣で切り裂くだけだ。
セフィーリアの民たちよ、俺たちの勝利を信じて待っていてくれ!」
民衆はどよめき、歓喜の雄叫びを上げた。
そして、ユリウスは決意を込めた瞳で仲間たちを振り返る。
「モエ、リウ、ケイン……。行くぞ、魔王城へ。
あの狂った魔王を倒し、世界を救う。
ついでにあのバカ(ジェイド)を泥沼から引きずり出してやる!」
ユリウスの演説後、急いで準備し、今は馬車で荒野を進んでいる。
リウによると、転移陣を起動できるのは、ヴィントブルグから約100キロ北にある『月影の丘』。
しかも、光が完全に遮られる「新月の日」に転移陣を起動しなければならない。
夜、焚き火を囲んで小休止をとっている時、ずっと気になっていたことをユリウスに尋ねてみた。
「ねえ、ユリウス王子。……アージェントにあんなこと言われて、ジェイドのこと、今はどう思ってる?」
ユリウスは、炎に照らされる剣の鞘をそっと撫でながら、静かに息を吐いた。
「……ジェイドが俺を利用し、復讐しようとしていたのは知っていた……。
兄が裏で魔王軍と繋がっているのも。
魔王補佐官アージェントと組んでいたのは知らなかったが……。」
そういって少しうつむいた後、顔を上げたユリウスの瞳に光が宿る。
「ジェイドが俺に向けたあの過保護なまでの不器用な優しさや、命を懸けて俺を兄の手から守ろうとしてくれたこと……あれはどうしても演技(嘘)だとは思えない……。
たとえ始まりが復讐だったとしても、俺は信じたい……。」
「ユリウス王子……」
「それに、アージェントはジェイドの事を『俺を狙う狼』だとか言っていたが、飼い主を置いていく悪い狼は連れ戻して躾し直さないとな。」
その言葉に、私の目はみるみる潤んでいく。
(……王子ィィィ!何その圧倒的なスパダリ〔受け〕の器のデカさは!!
拗らせたクソデカ感情〔愛〕を持った 狼を飼い慣らす光の王子……。
最高の供給をありがとう〔涙〕)
数日後、4人は目的地である『月影の丘』へと到着した。
折しも、空には月の一片すら見えない、完全なる新月の夜。
「では、始めるよ。皆、魔力を集中させて。」
「はい、先生!」
「ああ。」
「わかった!」
リウの呼びかけに3人が答える。
リウが丘の頂の地面に、複雑な古代の魔術式を刻んでいく。
新月の闇に呼応するように、描き出された魔法陣が静かに、しかし確実に力強い白銀色の輝きを放ち始めた。
「……成功だ。魔王城の座標を捉えた!」
リウの声と共に、転移陣から溢れ出た光柱が4人の体を包み込む。
(ジェイドさん、今行くからね!
ついでにタクト、首洗って待ってろ!!)
視界は爆発的な閃光に染まり、4人の体はセフィーリアの大地から消え去った。
目指すは最北の孤島。
そこには、魔王タクトと四天王が待ち受けている――。
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中二っぽい名前を考えるのは面白かったです(*^^*)




