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腐女子、魔王城に挑む

月影の丘の転移陣から魔王城へと移動します。

新月の闇を切り裂き、転移の光が収まったその瞬間に感じたのは、凍てつくような北海の潮風。

そして目に入ってきたのは圧倒的なまでの「純白」だった。

「……これが、魔王城……?」

ユリウスが呆然と声を漏らす。

想像していた、血と骨で築かれた暗黒の城ではない。

荒れ狂う漆黒の海を見下ろす断崖の上に、まるで一輪の巨大な白百合が咲き誇るかのように美しくそびえ立つ『純白の塔』だった。

禍々しい黒雲の天井を突き破らんばかりに天へと伸びるその塔は、月のない夜だというのにそれ自体が微かな光を放っている。

だが、その美しさはどこか不気味で、一切の汚れも不純物も寄せ付けないという、魔王タクトの病的なまでの美学と狂気を現しているようだった。

「千年前と造形がまるで違う。魔王タクトが作り替えたのか……。」

リウが杖を握り直し、白亜の壁を見上げる。


「フハハハ! よくぞ来たな、我が妹、そして不浄なる勇者どもよ!」

純白の塔の最上階から、魔王タクトの拡声魔法が響き渡る。

「どうだ、この汚れなき聖域は!

男同士のむさ苦しい恋愛(BL)などという不純物が一滴も混ざる余地のない、至高の百合楽園リリィ・パレスへようこそ。

さあ、この美しき白の迷宮を踏破し、我の元へ来るがいい!!」

放送は切れ、辺りには波音だけ響いている。

「ったく、あいつめ……。

とんだディストピアを作り上げたもんだわ。」

これから何が待ち受けているのか……。考えるのも怖いが進むしかない。


モエたちは用心しながら魔王城の上層部を目指して進んでいく。

ほとんど魔物の襲撃もなく、不気味な静けさが広がる。

二階の広間に着いた時、百合軍団が誇る四天王――レナとルカが現れた。

「よくぞここまで来たわね、不浄なる者ども!

魔王タクト様の美学に仇なす者は、私たちがここで粛清するわ!」

大剣を構えた蒼髪の女剣士レナが凛とした声を響かせる。

その傍らでは、サキュバスのルカが桃色のツインテールを揺らし、あざとい笑みを浮かべながらレナの肩にそっと寄り添った。

「そうよ、私たちの『尊い絆』の前には、あなたたちの泥臭い反抗なんて無意味。

さあレナ、私たちの愛の力を見せてあげましょう?」

一見、魔王タクトが狂喜乱舞しそうな完璧な百合カップル。

しかし、ユリウスたちの前に一歩踏み出した瞬間、二人はお互いにしか聞こえない声で火花を散らした。

(ちょっとルカ、ベタベタ触らないで。

タクト様が見てるのは私の美しい剣技よ、あんたの安っぽい色気じゃないわ。)

(はあ? タクト様が本当に好きなのは、私の[あざとかわいい]でしょ?

あんたなんて私の引き立て役だわ。

足引っ張たら承知しないからね。ビジネスカップルなんだからビジネスを全うしなさいよ。)

『地獄耳』で二人の会話を聞く。

二人は魔王タクトへの憧れから魔王軍に入り、彼の「性癖」に合わせて恋人同士を演じているだけの壮絶なライバル関係だったのだ。

(へぇ、二人はビジネスカップルなのね……。そこに隙が生まれそうだわ。)


「――燈れ、黎明のレイ・ブレード!!」

ユリウスがまばゆい光の魔法剣を抜き放ち、突撃する。

「させないわ! 激流よ、全てを押し流せ!」

レナが大剣を振り下ろし、激しい水の刃を放つ。

だが、それを正面から受け止めたのはケインの拳だった。

「はああああっ!」

強烈な体術の衝撃波が水の刃を粉砕する。

「ルカ、援護しなさい!」

「わかってるわよ!

燃え上がりなさい、紅蓮の炎!」

ルカが放った炎術に対し、リウが冷徹な瞳で杖を掲げた。

「その程度の火遊びで、私を焼き尽くせると思うな。」

リウの周囲に見たことのない高度な魔法陣が何重にも展開していく。

「太古の眠りより醒めよ原初の劫火、天を焼き、地を融かす烈火の円環となれ。—―炎帝の抱擁プロミネンス・フレア!!」

リウの圧倒的な炎魔法がルカの火を飲み込み、さらに横から影のように飛び出したモエが、目にも留まらぬ暗殺技の刃でルカの衣服を切り裂き、魔封じの呪文を刻み込んでいく。

「な、何よこのパーティ……強すぎる……っ!」

四人の完璧な連携の前に、二人は完全に圧倒され、膝をついた。


「くそっ、このままじゃタクト様に失望される……! これでも喰らいなさい!」

追い詰められたルカが、最後の魔力を振り絞って禁忌の幻惑術を放った。

魔王城の天井が歪み、そこへ禍々しく輝く「偽りの満月」が浮かび上がる。

「あ……、あ、あああ……っ!!」

それを見た瞬間、ケインの目が血のように赤く染まった。

彼の内なる野獣の血が騒ぎ、衣服を破り裂いて屈強な人狼へと姿を変えていく。

理性を失ったケインは、敵味方の区別なく、凄まじい咆哮を上げて攻撃を始めた。

「ケイン……!? 嘘、人狼化しちゃったの!?」

「くっ、これでは迂闊に攻撃できない……!」

周囲を破壊し尽くさんとする巨躯の狼に向かって、リウは杖を静かに下ろし、歩みを進めた。

「待ってリウ! 近づいちゃダメ!!」

私を無視し、リウはただ優しく、穏やかな声を響かせる。

それは、幼い頃のケインをいつも眠らせていた、静かな子守歌だった。

「……恐れないで、ケイン。私はここだ……。」

しかし、理性を失った狼の爪が、容赦なくリウの体を切り裂いた。

鮮血が舞い、リウの華奢な体が床に崩れ落ちる。

「……せんせ……い……?」

その血の匂いと、目の前で倒れたリウの姿に、ケインの脳裏に激痛が走った。

赤かった瞳が次第に琥珀色の元の輝きを取り戻していく。

人狼の姿が解け、人間に戻ったケインは、自分の両手を見て愕然とした。

その手は、自分が誰よりも慕う『先生』の血で濡れていた。

「あああ……、先生! 先生!嘘だ、僕が、僕があなたを……!!」

リウの傷は深く、息は絶え絶えだった。

「ケイン泣かないで……。」

リウはそう言うとケインを優しく抱きしめた。


血を流して倒れる、千年を生きる賢者リウ。

その傍らで、絶望に涙を流し、彼を抱きしめる一途な年下わんこケイン……。

(……リウは命をかけてケインの暴走を止めた……。

先生を傷つけてしまったというケインの絶望、そして傷つけられてなおケインを慈しむリウの聖母のような瞳……。

…愛が、あまりにも尊すぎる……っ!

なにこの切なすぎる師弟愛(ガチ恋)はぁぁぁぁぁ!!!)

脳内に、二人のこれまでの歩みと、いちゃラブシーン(半分近く妄想が含まれている)のスライドショーが超高速で駆け巡る。

私の内に眠る『腐女子パワー』が、限界突破オーバーロードしてチャージされていく。


「二人の……二人の尊い絆を、こんなところで終わらせてたまるもんですかぁ!!

――昇華せよ、極光アークレイ!!!大回復魔法リザレクションンンン!!」

放たれたのは、もはや回復魔法の領域を超えた、概念すら書き換えるレベルの極大回復魔法。

まばゆい黄金の光がリウを包み込み、深い爪痕を一瞬にして完全に癒した。

「……え? 痛みが、消えた……?」

起き上がるリウに、モエは涙と鼻血を拭った。


ケインは、床に額を擦り付け、ボロボロと涙をこぼしながら謝り続けた。

「先生、すみません……。僕は、あなたを殺してしまうところだった。

それだけじゃない……

僕は子供の頃からずっと、あなたのことを……愛してました……。

こんな醜い化け物の僕が、あなたを愛してしまって、本当にごめんなさい……!!」

謝罪と、秘め続けていた恋心を吐き出し、泣きじゃくるケイン。

そんな彼の前に、リウがそっと膝をついた。

そしてケインの顎を優しく持ち上げると、その震える唇に、そっと自分の唇を重ねた。


「え……。」

呆然と目を見開くケイン。

リウは小さく微笑み、彼の涙を指先で拭う。

「泣かないで、ケイン。

私は先の魔王戦後、千年近く一人で放浪していた。

仲間を失った悲しみで、他人を疎み、人を遠ざけていた。

……一人のほうが気楽でいいと思っていたんだ。

でも、私は君に会って共に生活しているうちに、君のことをとても大切に思うようになっていた。

君を救えるのなら死んでもいいとも思っていた……。

ずっと、これはただの『親心』だと思って自分を誤魔化してきたけれど……。

……どうやら違うみたいだ。」

リウは幸せそうに微笑む。彼の目には今まで見たことのない情熱の灯が燈っていた。

「これは恋だ。私も、君を愛しているよ、ケイン。」

「……先生……っ。」

ケインの目から再び涙が溢れる。だが今度は絶望の涙ではなかった。

リウはもう一度、今度は深く、お互いの愛を 確かめ合うように、ケインの唇へと自身の唇を重ね合わせた。


(……はい、現場のモエです。

現在、我がパーティの純愛枠が『年下人狼×千年賢者』として完全公式カップリング化いたしました。

何これもう結婚式??皆の前で二回もキスしたわよこのカップル!!

見てる?タクト!

あんたがビジネス百合で喜んでいる間に、こっちは命がけのガチ恋で完全勝利よ!!)


レナとルカはポカンとしている。

目の前の光景に圧倒され、戦意喪失しているようだった。

やっとリウとケインが両想いになりました。

リウ先生は合法ロリ賢者なので助かり?ます(笑)

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