魔王襲来
緑嶺の地下墓所から出た一行は、城塞都市ヴィントブルグの方角から黒煙が上がっているのを見つけます。
野営していた私達は朝方、遠くで獣の叫びのようなものが聞こえて飛び起きる。
見上げた北の空に黒煙が立ち上っている。
「あれはヴィントブルクの方角だな。」
黒煙の方を睨みながらユリウスは言う。
ヴィントブルクは風の城と呼ばれる高台にある城塞都市で湖水地方の中心都市である。
「モエ、先に行って偵察してくれないか?
俺たちもすぐに向かう。危険だと思ったらすぐに引け。」
「はい!!」
私はスキル神速で駆け出し、あっという間に森を抜けて平野に出る。
そうしてしばらく走っていくと高い城壁が見えてくる。城塞都市ヴィントブルクだ。
高い城壁には翼を持った魔物が群がり、そして門の入り口では大きな丸太を持った巨人達が門を破ろうとしていた。
魔物たちの軍勢は全部で千は居るだろうか。
ヴィントブルクの兵たちは必至に城壁の上から応戦しているがかなり分が悪い。
(魔物たちの中心には魔族らしい姿が見える。
あいつらが的確な命令を下しているから統制がとれているんだわ。)
魔物たちの中心にはフリルの付いた服を着た二人のかわいらしい女の子がいた。
一人は青色の髪を肩で切りそろえ、軽鎧に短いスカートを穿いている。
柄に大きな宝石のついた長剣を持っているので戦士タイプだろう。
もう一人はピンク色の髪をツインテールにし、先端に星のついたロッドを持っている。
二人とも日本だと中学生くらいの歳に見える。
まだ幼さが残る少女の姿だが、立ち上る魔力量で魔族だとはっきりわかる。
(なにあれ……。ふたりとも魔法少女みたいですごくかわいいけど、なんだかあいつの持っていた本に出てくる少女みたい。)
私は隠密スキルで瞬時に2人の魔族に近づく。
緑嶺の遺跡でレベルが上がったお陰で、まわりの魔物たちも全く気付いていない。
2人のうち魔術師の方の背後に立ち、喉元に毒針を当てる。
「動くな、動いたら刺す。」
「ルカ!!」
短い髪の魔族が叫ぶ。
「くっ何者だ!?全く気配を感じなかった。」
長い髪の魔族は冷静を装っているがかなり動揺しているのが気配でわかる。
「兵を引き上げれば殺しはしない。どうする?」
「モエ!!」
ユリウス達が追いついたらしい。
ユリウスは魔法剣、リウは炎魔法で敵をどんどん殲滅する。
ジェイド、ケインはユリウス達を守りつつ、的確な攻撃を繰り出している。
みるみる形勢は逆転していき、魔王軍は数を減らして陣をじりじりと後退させている。
「魔王様!!どうかお助け下さい!!」
短い髪の魔族のほうが天を仰ぎ魔力を放出させる。
すると紫色の靄が空を覆い何かが姿を現した。
そこに映し出されたのは、玉座に深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべる美しい魔族の男。
その男の横には鎖で封印された剣が宙に浮いていた。勇者の墓で奪われた聖剣だ。
そして彼の背後には、溜め息が出るほど美しい魔族の美少女軍団がズラリと並んでいる。
(あれはまさか魔王??あの姿……。)
「愚かなる人間共よ、私の美しき僕、レナ、ルカを放せ。
そしてひれ伏してこの美しき魔族たちを崇めるが良い!!」
魔王の声が街全体に響き渡る。
ヴィントブルグの人々はその姿と圧倒的な魔力に震え、うずくまっている者もいる。
「お前が魔王か!!」
ユリウスが空に向かって叫ぶ。その隣には剣を構え、ユリウスを守るジェイドの姿があった。
ケインはリウを抱きしめている。
「お前が勇者か、アドニスの悪癖にならい、お前らも男同士で密着しよって。
男同士の汗臭い密着など、反吐が出るほど気色悪い!
世界に必要なのは、可憐な乙女たちが手を取り合い、慈しみ合う清らかな光景のみ。
私は人間の男を根絶やしにし、魔族による真に『美しい』社会を築いてやるのだ!!」
魔王が指を鳴らすと、美少女軍団が一斉に微笑みを浮かべる。
「見よ! この凛々しき女戦士と、儚げな美少女魔導士の軍団を! これこそが芸術! これこそが至高! 貴様らのようなむさ苦しいパーティなど、存在そのものが解釈違いだ!!」
人々が恐怖に震える中、モエだけは、別の意味で震えた。
(……は? 何その「解釈違い」って言い回し。それにあの、自分に酔いしれると早口になって声が大きくなる感じ……。)
「……拓人……? あんたなの……!?」
映像の中の魔王が、ガタッと玉座から立ち上がる。
「……え? 今、タクトって……。……おい、まさか。その、気配を消しても隠しきれない『腐のオーラ』、そしてその執念深い目つき……。萌か!? お前、萌なのか!!?」
「やっぱりタクト、あんたなのね!! なんでここで魔王なんてやってるのよ!
しかも転生してまで百合趣味をこじらせて世界征服!? 相変わらず救いようがないわね!!」
魔王(兄)は驚愕の表情から一転、苦虫を噛み潰したような顔で身を乗り出す。
「うるさい! 妹のくせに呼び捨てにしやがって!救いようがないのはお前の方だ!!転生してまで男同士のカップリングを追いかけ回してるんだろう!!
見てみろ、お前の隣にいる勇者、騎士、それに魔導士と狼男!!
あいつらが密着するたびに俺の魔力センサーが『不浄』のアラートを出して不快極まりないんだよ!」
タクトの暴言に私は呆れかえって反論する。
「何言ってるのよ!ユリウスと ジェイドの『執着の主従愛』、リウとケインの『種族を越えた師弟愛』はこの世界の宝よ!
タクトの百合軍団こそ、中身は性別変えられる魔族じゃない!!所詮偽物よ!!」
「黙れ!! 姿が美しければそれで良いんだよ!!
この聖剣を持っていない勇者などわが敵ではないわ!!
モエ、命が助かりたくば、その男共を全員女体化させてから来い!
さもなくば、私の尊い『百合軍団』で塵にしてやる!!」
映像がブツッと途切れ、私を目がけて巨大な雷撃が放たれる。
「くっ!!」
わたしは間一髪で身を躱すがその間にレナ、ルカと呼ばれた二人の魔族は居なくなっていた。
(……信じられない。
魔王が、前世でGL本とBL本の置き場所を巡って三日三晩喧嘩した、あの実の兄だったなんて。
ユリウスとジェイドが「どういうことだ?」って顔でこっちを見てるわ……。
リウなんて「 百合? 異世界の言語か……?」って考察モードだし、ケインは「先生に手を出そうとするなら魔王でも噛み殺します」って感じで半分狼化してる。
……いいわよ、タクト。受けて立つわ。
あんたがこの世界を「百合の園」にしたいなら、私はこのパーティで魔王軍に勝ち、あんたの性癖ごと更生させてやるんだから!!覚悟しなさい!!)
兄が魔王というのは最初から考えていました。なんだかギャグ要素?が増えて読み辛くなってなければよいのですが……。いちおBLのつもりで書いてます!!




