第百八十二話 到着前から非常事態!?――アルヴェリア学園、最終警戒態勢!!
アルヴェリア王立士官学園――。
本来ならば、規律と静寂に満ちた学び舎。
今日もまた、整然とした空気が流れている――
はずだった。
「……来るんですか?」
整備班仮設指導室。
アシュリーが、紙を持ったまま固まっている。
「……来ます」
リリア、即答。
「……二人で?」
「……お嬢様も一緒です」
沈黙。
全員、ゆっくりと顔を上げた。
「……終わったわね」
アネット、ぽつり。
「……いえ」
カティア、静かに首を振る。
「――まだ終わっていません」
「え?」
「これからが本番です」
その一言で、
全員の顔色が変わった。
(そうだ)
(終わりじゃない)
(むしろ――)
(増える)
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「状況を整理します」
カティアが、黒板の前に立つ。
チョークを持ち――
カツ、カツ、カツ。
書かれていく文字。
――ノア
――レオン
――アレクシス
そして。
――レイナ
――アリア
「……増えてるぅぅぅ!!」
アシュリー、頭を抱える。
「五人よ!? 五人!?」
「しかも質が悪いのが三人……」
アネット、遠い目。
「いえ、五人とも危険です」
リリア、冷静に訂正。
「……ミーナ?」
「……あ、あの……」
ミーナ、小さく手を挙げる。
「アリア様は……その……」
「うん?」
「……一番すごいです」
全員、納得。
「ですよね」
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一方、その頃。
「ぐああああああ!!」
「まだ終わらねぇぇぇぇ!!」
ノアとレオンは、今日も元気に――
反省文地獄の真っ只中であった。
「あと何枚だ!?」
「……二十七……」
「減ってねぇ!!?」
「誤字で戻された!!」
そこへ。
「騒ぐな」
低い声。
振り返ると――
アレクシス・レイフォード伯爵。
腕を組み、仁王立ち。
「集中力が足りん。
戦場なら死んでいるぞ」
「ここ戦場じゃないよね!?」
「精神の戦場だ」
即答。
「いや重い!!」
「父上、なんでそんな
適応してるんですか!?」
「簡単だ」
アレクシス、静かに言い放つ。
「――アリアに会うためなら、この程度は鍛錬にもならん」
「重い!!(二回目)」
その時。
バンッ!!
扉が開く。
カティア、入室。
「報告です」
全員、ピタッと止まる。
「――レイフォード伯爵夫人、ならびにアリア様。
現在、こちらへ向けて移動中」
「……」
「……」
「……は?」
ノアとレオン、固まる。
「え、待って」
「なんで」
「え、なんで」
「迎えに来るに決まっているだろう」
アレクシス、冷静。
「むしろ遅いくらいだ」
「いや違うそうじゃない!!」
「母上!?
母上が来るの!?」
「アリアも!?」
「終わったぁぁぁぁぁ!!」
二人、崩壊。
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一方、メイド隊。
「……最終確認を行います」
カティア、指示を飛ばす。
「整備区画、完全封鎖」
「危険物、全撤去」
「兄様方の行動範囲、制限強化」
「あと」
全員、顔を上げる。
「――伯爵様の暴走対策」
「それ一番大事!!」
満場一致。
「さらに」
カティア、静かに続ける。
「レイナ様対策」
「……それ必要?」
アシュリー。
「必要です」
リリア、即答。
「理由は?」
「――すべてを終わらせる力を持っているからです」
全員、震える。
「……じゃあ」
ミーナ、おずおず。
「アリア様は……?」
沈黙。
そして――
「……祈りましょう」
アネット、静かに言った。
「祈るしかないわね」
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こうして。
アルヴェリア王立士官学園は――
かつてない規模の警戒態勢に突入した。
迎える側が、震え。
迎えられる側が、崩れ。
そして――
近づく、母と娘。
嵐は、まだ遠い。
だが確実に――
来ている。




