第百八十話 ついに王宮召喚!? ――レイフォード家に届いた“限界突破の手紙”
レイフォード伯爵家の朝は、概ね平穏である。
……だいたいは。
「お嬢様、本日の紅茶でございます」
メイベルが静かにカップを置く。
「ありがとう、メイベル」
アリアはいつものように微笑み、
――そして、その横に置かれた封筒の束に気づいた。
「……ずいぶん、今日は多いのね」
「はい。
アルヴェリアより、一通。
それから……こちらは王宮からです」
「……王宮?」
アリアの手が、ぴたりと止まる。
まずは、見覚えのある封。
アルヴェリア王立士官学園――
整備班メイド隊の公式封印。
「……いつもの報告書、よね?」
ぱき、と封を切る。
――次の瞬間。
「……」
アリアの表情が、無になった。
そして、読み上げる。
「レイフォード伯爵家御中
業務報告――
……の前に、
もう限界です(涙)」
「……え?」
「伯爵が参加してから、
アルヴェリア王立士官学園が
物理的にも精神的にも
崩壊しそうです」
「…………」
「ノア様、レオン様、
そしてアレクシス伯爵様の
三位一体過保護連携により、
・整備区画の再設計
・妹基準の安全確認
・“妹が来るかもしれない”対策
が、際限なく増殖しています」
「………………」
「お願いです。
どうか……
どうか……
この三人を、
お引き取りください……」
――最後の一文。
(カティア以下、全員より)
紙を持つ手が、震えた。
「……これは……」
「ええ」
メイベル、深刻な顔。
「正式な泣きが入っております」
その時。
「奥様」
控えめな声とともに、執事が一礼。
「王宮より、
レイナ様宛てのお呼び出しの手紙が届いております」
「…………」
居間に、沈黙。
そして――
「……なるほど(この王宮からの手紙も同じ件ね)」
アリアの脳裏に、
すべてが一気につながった。
(あの三人……
やっぱり、
やりすぎたのね……)
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王宮。
執務室前。
「……ずいぶん、
大ごとになっている気がするのだけれど」
母、レイナ・レイフォード伯爵夫人。
天井を見上げ、静かに息を吐く。
「お母様……」
「ええ。
嫌な予感しかしないわ」
扉が開く。
「レイフォード伯爵夫人、
アリア・リュミエール・レイフォード嬢、
お入りください」
中には――
王。
宰相。
そして。
「やあ、アリア。
久しぶりだね」
淡い銀髪、澄んだ蒼の瞳。
穏やかな笑み。
「……アルヴィン殿下」
その笑顔の奥に、
少しだけ腹黒い光が宿っているのを、
アリアは見逃さなかった。
(あ、この場にいるってことは……
相当、なのね)
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「単刀直入に言おう」
王が咳払いを一つ。
「――アルヴェリア国より、
正式な要請が届いている」
宰相が書類を差し出す。
「内容は……
“謝罪とお願い”ですな」
「謝罪……?」
「はい」
宰相、淡々と。
「 “ノア殿、レオン殿、
そしてアレクシス伯爵殿の
滞在により、
学園運営に多大な支障が出ております”
とのことです」
アリア、思わず目を伏せる。
(そりゃそうでしょうね……)
さらに。
「 “これ以上の受け入れは困難であり、
誠に勝手ながら、
早急にご帰国いただきたく存じます”
と」
つまり。
「――厄介払い、ですな」
王、あっさり。
レイナ夫人は、
ゆっくりと天井を見上げた。
「……そうでしょうね」
「母上?」
「ええ、アリア。
予想より、早かっただけよ」
アルヴィン殿下が、
くすっと笑う。
「正直に言うとね」
アリアとレイナを見る。
「アルヴェリア側、
本気で泣いていたよ」
「……でしょうね」
「“学園が妹中心思想に染まりつつある”
って言ってた」
「…………」
「それはそれで、
ちょっと見てみたかったけど」
殿下、さらりと毒。
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「というわけで」
王、まとめに入る。
「レイフォード伯爵夫人。
ご家族をお迎えに行っていただけるか」
「……承知いたしました」
レイナは、微笑んだ。
――穏やかに。
しかし、決定事項として。
(……あの人)
(そして、あの子たち)
(覚悟、してもらいましょう)
アリアは、そっと思う。
(……お父様が行って、
学園が悲鳴を上げて……)
(それを止めるのが、
お母様……)
――これはもう。
「……嵐、ね」
アリアの小さな呟きに、
アルヴィン殿下が意味深に微笑んだ。
「うん。
とても楽しそうな嵐だ」




