第百七十八話 父、過保護に覚醒す!? 武闘派伯爵参戦で、学園が三倍うるさい件
そして翌日……。
アルヴェリア王立士官学園・整備班区画。
反省文の山と、魂の抜けた兄ィズを残して――
場の空気が、わずかに張り詰めた。
それは、先ほどまでの
「地獄」「教育」「修行」
とは、少し質の違う緊張感だった。
アレクシス・レイフォード伯爵が、
ゆっくりと背筋を伸ばす。
――その瞬間。
整備班区画の空気が、武の気配を帯びた。
(……あ)
(これ、まずいタイプの“父親”だ)
メイド隊、全員が同時に悟る。
「ノア」
「レオン」
低く、腹の底に響く声。
「はいっ!!」
「は、はい父上!!」
兄ィズ、反射で直立。
――体が覚えている。
この声は“叱責前”の音だ。
「お前たちが、
この学園で問題を起こした理由は聞いた」
コツ――
伯爵の靴音が、一歩近づく。
「妹に会いたかった」
「家族が恋しかった」
「帰国したかった」
「――理由としては、理解できる」
兄ィズ、ぱっと顔を上げる。
「父上……!」
「わかってくれるのか……!?」
だが。
「理解できるが、許可はしていない」
ズドン。
重い一言が、床に落ちた。
「軍でも、学園でも、家でも同じだ。
命令と規律を破れば、必ず責任が生じる」
その眼は、
戦場を知る武人のそれ。
兄ィズ、完全に震え上がる。
「特に――」
伯爵の視線が、
反省文の山に落ちる。
「“妹のため”を免罪符に使うな」
「っ……!」
その一言に、
ノアとレオンは言葉を失った。
――だが。
次の瞬間。
「だがな」
伯爵の声が、
ほんのわずか、柔らかくなる。
「妹を想い、守ろうとし、
心配して暴走するその気持ち――」
ぐっ、と拳を握りしめ。
「それ自体は、
レイフォード家の誇りだ」
「父上……!」
「お父様……!」
その瞬間。
「――アリアが泣くような結果だけは、
絶対に許さんがな」
ピシィッ!!
兄ィズ、背筋が音を立てて伸びる。
(あ、これ……
溺愛の方向が完全に同じだ)
メイド隊、内心で頭を抱える。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「というわけで、だ」
アレクシス伯爵、腕を組む。
「ノア、レオン。
帰国の可否は、成果次第とする」
「成果……?」
「整備班の……?」
「そうだ」
伯爵、断言。
「ここで与えられた任務を、
“模範的に”“無事故で”“短期間で”完遂しろ」
「そ、それができたら……?」
「私が母さんを説得する」
兄ィズ、目を見開く。
「父上が……!?」
「母上を……!?」
「できるかどうかは――
お前たち次第だ」
ズン。
希望と絶望が、同時に降ってきた。
「――やるぞレオン!!」
「おう兄貴!!」
一気にやる気になる兄ィズ。
「妹に誇れる兄になる!!」
「そして帰国する!!」
「よろしい」
だが、伯爵は続ける。
「なお」
にこり。
「私も、ここに滞在する」
「「え?」」
メイド隊、凍る。
「視察という名の――
監督役だ」
「父上も一緒に!?」
「三人で!?」
「当然だ」
そして、
誰よりも危険な一言が放たれる。
「――アリアの兄として、
父として、
見逃すわけがないだろう?」
沈黙。
次の瞬間。
「対策会議、緊急招集です」
カティア、即断。
「敵戦力が“兄二人”から“兄二人+父一人”に増えました」
アシュリー、真顔。
「……数ではなく、質が問題です」
リリア、冷静。
「これはもう……長期戦……」
アネット、ため息。
「……が、がんばります……」
ミーナ、小さく拳を握る。
――メイド隊、迎撃態勢へ。
一方。
兄ィズと伯爵は、
すでに並んで整備計画を覗き込んでいた。
「ここ、効率が悪いな」
「兄貴、父上の言う通りだ」
「ふむ、工具配置を変えよう」
――妙に息が合う。
(……これは……
アリア様がいないから、
まだこの程度で済んでいる……)
メイド隊、全員同じ結論に達した。
そして遠く、ルヴァリア。
アリアはくしゃみを一つ。
「……なんだか、
とても騒がしい未来が見える気がしますわ……」
それは正解だった。




