第百七十七話 父、学園へ到着! まず最初に見たのは――“反省文山積みの兄ィズ”だった!?
アルヴェリア王立士官学園――。
規律正しい静けさ、優雅さ、凛とした空気。
本来ならそうであるはずなのだが――
「――……なんだろう。
妙に“精神的な疲労”の香りがするな……」
晴れやかに笑いながら門をくぐったはずの
アレクシス・レイフォード伯爵は、ものすごく複雑な顔になっていた。
(うん、静かだ。
だが……“沈黙しているのに妙にうるさい空気”とはこれいかに)
学園案内兵の先導で、伯爵は真っ直ぐ目的地へ。
そして――
「こちらが、“整備班仮設指導室”です」
扉の前。
――中から聞こえる。
「ぐあああああ!! もう手がぁぁぁ!!」
「兄貴、泣くな……泣いたら負けだ……!」
「負けていいから逃げたいぃぃ!!」
父、眉をひくつかせる。
「………………間違いなく我が家の息子だ」
扉が開かれる。
そこに広がっていた光景は――
机。机。机。
そして机の上を、雪山のように積み上がった紙、紙、紙。
ノア。ペンを握り、魂が抜けかけている。
レオン。肩で息をしながら必死に文字を書いている。
その背後――
静かに立つ影、五つ。
「――あと三十枚です。がんばってくださいね、ノア様レオン様」
カティア(低音)
「ねえ、ペン止まってるよ〜?」
アシュリー、やや笑顔。
「書けば終わります。終わらなければ……終わりません」
リリア、事務的に残酷。
「誤字はやり直し。内容が薄いのも却下」
アネット、容赦ゼロ。
「……こ、ここ……句読点……甘いです……」
ミーナ、小声で追撃。
兄ィズ。
完全に涙目。
「…………」
そして――
「お、お父様ぁぁぁぁぁ!!!???」
二人の視線が同時にこちらを向く。
反射的に腕を広げるアレクシス。
「よくぞ耐え――」
「助けてええええええええ!!!」
思いきり “救済対象” として抱きつかれた。
「父上!! 俺たちは悪くないんだ!!」
「俺たちはただ、妹に会いたかっただけで!!」
「――言い訳は聞きませんわ」
すっ…と前へ出るカティア。
父と兄ィズの間に、壁のように立ちはだかる。
「カティア殿?」
アレクシスはにこやかな笑みで声をかけた。
「お疲れ様です、伯爵様。現在、**レイフォード兄弟 “教育指導期”**でございます」
「教育指導期ってなに?」
「“妹に会いたい衝動を理性で抑える”ための精神鍛錬です」
「なにそれ怖い!!」
だが、書類の山を見るだけで理解してしまった。
(…………うん、必要だね)
父親、冷静に納得。
「お父様ぁぁぁ!? 味方ぁぁぁ!?
ねぇ!? 家族だよね!?」
「父上!? “必要だね”って顔した今!? 見たぞ俺!!」
「息子たちよ。父はな……
母さんの怒りを知っているんだ。」
――説得力、絶大。
メイド隊、こくこく頷く。
「では伯爵様。
視察という名の“現実確認”は済みましたね?」
「うむ。十分に理解した……
――君たちがどれだけよく働いてくれているかをね!」
父、深々と礼。
メイド隊、少し照れる。
兄ィズ、絶望する。
「父上ぇぇぇぇぇ!!?」
「完全に敵にまわったぁぁぁぁ!!」
しかし――
「ただし」
アレクシスの表情が、少しだけ父親らしく柔らぐ。
「お前たちの“妹を想う気持ち”だけは、私は誇りに思っている」
「父上……!」
「お父様……!」
が――
「――だが、それと“暴走して周囲に迷惑をかける”のは別だ」
ズドン
二人、撃沈。
「というわけで――カティア君」
「はい」
「“教育指導期”続行を認めよう」
「了解いたしました」
メイド隊、満面の笑顔。
兄ィズ、床に崩れ落ちる。
「父上ぇぇぇええええええ!!!」
「伯爵様、判が早くて助かります」
(アシュリー微笑)
「では兄様方、続きをどうぞ?」
(リリア冷静)
「逃げ場はありませんよ?」
(アネット静かに重い)
「……が、がんばってください……」
(ミーナ一応応援)
ペンの音が――
「カリカリカリカリカリカリカリカリ!!!」
――再び戦場の音に戻る。
そんな息子たちの背を見ながら、アレクシスは静かに呟く。
「……帰ったら、アリアに“今は元気です”とだけ言っておこう」
それが一番平和な報告だから。
――アルヴェリア整備班、今日も平常運転(騒動含む)であった。




