第百七十六話 アレクシス伯爵、旅立つ!――国境でまさかの大騒動!?
ルヴァリア王国は今日も穏やかな青空に包まれていた。
その空の下、レイフォード伯爵邸の正門前には、妙な緊張感と期待と諦めの入り混じった空気が漂っている。
「――では、行ってくる、レイナ。アリア」
やけに爽やかな笑みを浮かべ、無駄にキラリと歯まで光らせたのは、当然アリアの父――
アレクシス・レイフォード伯爵である。
その様子を見送りながら、アリアはにこやかに微笑んでいたが……
(……お父様、どうしてそんな“遠足に行く子ども”みたいに嬉しそうなのですかしら……)
娘の心配など露ほども知らぬ父は、軽快な足取りで馬車へ。
「旦那様。
こちら、王国からの正式通行証、外交書類、そして“絶対に落としてはならない”案件一式でございます」
メイド長代理のメイベル……ではなく今回は屋敷の執事長が、
ずっしり重たそうな封筒と箱を抱えて説明する。
「うむ! 任せたまえ! 私はこう見えて責任感は強いのだよ!」
胸をどーんと叩くアレクシス。
「(こう見えて、の部分が不安要素でしかありませんわ……)」
アリアは静かに心の中でつぶやいた。
「あなた、決して寄り道などしてはダメですからね?」
レイナは笑顔だが、背後に黒いオーラがゆらり。
「もちろんだとも!」
(絶対寄り道する人の顔ですわ……!)
アリアの胸の不安は倍増した。
こうして――
レイフォード伯爵、隣国アルヴェリアへ向けて出発!
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馬車は順調に進み、ルヴァリアを離れ、やがて国境付近へ。
そこには壮麗な門と堅そうな兵士たち、そして――
「うおおおおっ!? なんだこの長蛇の列は!!」
商人、旅人、冒険者、荷馬車が延々と並ぶ国境待機列。
アレクシス伯爵、早速洗礼を受ける。
「くっ……なんということだ……!
列に並ぶ……だと……!? 私は、ただの普通の伯爵なのだぞ!!」
(普通の伯爵なら並ぶのが普通ですわお父様)
アリアがいないので突っ込んでくれる人はいない。
しかし、そこへ兵士が駆け寄る。
「失礼。あなたは……ルヴァリアの――アレクシス伯爵殿ですね?」
「おお、知っていたのかね!」
「本日、アルヴェリア王立士官学園より通達がありまして……
“伯爵様が来られるなら、どうか丁重に迎え入れよ。ただし――”」
兵士は書簡を読む。
“ただし、自由に動かすと面倒なことになりそうだから、
しっかり監視して国境通すこと”
「…………」
「…………」
アレクシス伯爵、固まる。
「……なにか、言いたい事がある人がいたら手を挙げなさい」
「いえ、ありません」
「即答かね!?」
とはいえ、伯爵である。
特別通行手続きがすぐに整えられ、列から外れ、専用ゲートへ案内される。
「やはり私は影響力のある男だからね……!」
「監視付きですけどね」
「ぐっ……!」
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そして――**国境検問所の“問題ゾーン”**へ。
「はい、では危険物検査を――荷物をすべて開けてください」
「えっ」
「外交案件でも規則は規則ですので」
アレクシスの馬車から、次々に荷物が下ろされる。
「これは服ですね」
「これは書類ですね」
「これは……」
兵士は眉をひそめる。
「……なぜ伯爵様の荷物から、
アリア嬢の幼少期写真アルバムが三冊も出てくるのでしょうか?」
「いや、それは……その……
遠く離れても娘を感じられるようにだよ――」
「さらに、これは?」
兵士が掲げたのは――
“ノアとレオン説教用資料ファイル”
タイトルどーん☆
「お父様ぁぁぁぁぁ!!?」と
幻聴のようにアリアの悲鳴が聞こえる気がした。
「ち、違う! これはだね!
父親として息子たちを――」
「ふむ、では中身を確認しましょう」
ぺら……
“第一章:兄としての自覚とは”
“第二章:妹依存症を克服する方法”
“第三章:あなたたちのせいで父は胃が痛い”
国境兵士たち、肩を震わせる。
「笑ってないかね君たち!?
今、肩、震えたよね!? わざと小刻みにしたよね!?」
「し、失礼しました、良い教材だと思いま……ゲホン!
問題なしです!」
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検問は無事(?)終了。
「では伯爵様、アルヴェリア入国、許可します。
ただし――」
兵士はぱん、と手を叩く。
すると、どこからともなく現れる屈強な案内兵士団。
「あなた専属の“迷子防止案内隊”です」
「迷子じゃないよ!?
私は大の大人だよ!?
伯爵だよ!? 父親だよ!?」
「――学園からの正式依頼ですので」
(ノア、レオン……
あなたたち、どれだけ信用失っているのよ……)
アリアの遠い目が、空の向こうから見えた気がした。
「よし! 案内よろしく頼む!!
父は息子に会いに行く!!」
伯爵、前向き。
こうして――
**アレクシス・レイフォード伯爵の“アルヴェリア突入作戦”**は、
予定通り……いや、だいぶ騒がしく進行するのであった――!




