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その9 死者の時間
死者とはもう会えない
生きている者は
死者と過ごした時間を
思い起こすことしかできない
死者の時間は
思い出の中に埋まっている
もうその時から
さまざまな事が起こってしまって
死者はそれらの事柄の堆積の彼方に
遠のいてしまって
すっかり取り残されてしまって
だから
死者と共に過ごしていた自分も
とても昔の自分のようで
今浮かんだ思いなど
その頃の自分が
抱いたはずもないように思えて
だから死者にそんなことを
語ったことがあるだろうかと思えて
もし語っていたのなら
そんな時間を共有していたのなら
なおさらに愛しく
死という断絶が納得しがたくて
もう一度会いたく
手を握りたく
(父の三回忌に)




