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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅳ 第四詩集『蟻と土』     1997年刊

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その8 網の目

定期を落とした

半年の定期で

半分しか使ってなかった


女房には秘密にした

自分が嫌悪された


風呂に入って考えた

明日になれば  

拾った人から連絡が入るかも

人間は信ずべき存在では

〈そんなことあるはずがない〉

という囁きを聞きながら


翌朝出勤すると

落とした定期が

机の上に置いてあった


不思議なものを見るように

何度もそれを眺めた 

得をしたような

充実した気分になった


その日は一日幸福だった


それから九日して

今度は財布を落とした

同じ駅のホームに  


現金の入っているものだから

今度こそは観念した


が

腹立ちまぎれに

駅に問合わせると

財布は届けられていた


人間の善意の網の目に

定期と財布は落ち

すくい上げられてきた


私の迂闊さについては

何をか言わんやだが







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