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その10 気持ち 犬
気持ち
いつもより
二時間遅くなった
勤め帰り
乗換えの駅に着くと
接続まで三十分
夜の闇に消えていく時間を
じっと見送ってはいられない
少しでも自宅に向かって
近づいていたい
バス停まで歩きながら
〈結局、列車の方が早いのではないか
すぐにバスが来たとしても同じになる〉
確かにその通りなのだが
バスは十五分後に来て
やはり列車より遅くなった
ほとんどの行為が
気持ちを済ますためのもので
目的を果たすためではない
犬
おう
そう言えば
犬がいた
あの犬は
優しい目をしていた
ちょうど人が
知人を認めた時のように
顎を上げたので
片手を上げて応えた
犬はゆるやかに尾を振った
穏やかな表情だった
しばらく歩いて
振り返ると
おっというように
犬も視線を戻した
曲がり角で
もう一度振り返ると
お前は目が離せない
というように
大丈夫
というように
奴はまだ私を見つめていた




