空きビンとアルミカン PART 5 そのささやきに祈りを
PART 5 そのささやきに祈りを
マイヤーはヴィヴィと再び、低温の部屋とやってきた。
「これは飲み物かな」
金属製の缶に入った飲料物が紙製の箱に入れられている。
ただ、少女達の知る世界からすれば、これ自体すごい代物である。何せ、金属製の入れ物に小分けされた飲み物を、さらには紙で作られた箱に入れられているのだ。
そう、資源が少なく、自然由来の製品を潤沢に使われていることはあり得ないここだから。
たとえ、金属製の入れ物であっても、使い捨てなどあり得ない。また、紙製で箱など耐久性がなく、短期間の消耗品でしかない。
これは少女達の価値観では無駄使いである。
「こうしてみると地上で生きていた時代はどんな暮らしをしていたのだろうね」
ヴィヴィはここにある品を見ながら、そう語る。低温の部屋自体は基地にも小規模ながらあるからそれ自体は不思議に思わないが、この規模と保管されている内容に驚きを隠せない。
「飲料物は結構残っていますね。参考に持って帰りますか」
食料でないため、あまり手を付けられることが、こうして残る結果になったのだろう。
「あ、これはコーヒーだ」
ヴィヴィは紙製の箱に書かれた旧世代の文字を翻訳して、内容物を確認する。
「それはいらないですね」
「苦いというか苦痛だからね」
今でも擬似的なコーヒーは存在し、一部では飲まれている。当然使われるのはコーヒー豆ではない、代用品を焙煎したモノ。だが、その味は色とあいまって炭とまで形容される。
甘い物を好む、少女達には苦いという言葉だけでは足りない
「こっちは炭酸飲料……」
こちらは旧世代ではありきたりな飲み物であるが、今では知る人ぞ知る飲み物。
また、一説にはアルミカンの名前の由来は『錬金術師による缶入り保存炭酸飲料水』とも言われている。
だが、何も知らずに低温で保管されたため缶は破裂しており、中身は吹き出て、凍っている。
「これは何が起こったのかしら」
ヴィヴィは不思議な現象に頭を悩ませる。コーヒーの方では起きていない現象だからだ。
「恐らく、中身が低温で凍ったことで破裂したのでしょう。炭酸水は気体と液体の飲み物ですから、状態変化の違いが缶内部から力を与えたのでしょう」
「そう聞くと本当に錬金術師の飲み物ね」
昔ではありふれたことであっても、今ではすべてが知らない世界の話。逆にこの時代に生きていた住人には今は望んでいた時代ではないことは間違いない。
「それで持ち帰りますか」
味に関しては興味はあるが、長時間過ぎたことで期待できない面もある。
「中身もだけど、保管している容器も素材としても使えるわね。いくつか、飲料物と保存食は持ち帰りましょう。お土産にはちょうどいいわ」
ヴィヴィは少しぐらいの持ち帰りは邪魔にならない判断した。それにゴミすらアルミカンで利用できる時代で、資源も少ないとくれば、ゴミすら価値がある。
むしろ、今の時代にはゴミという存在はない。
「あと、主の方を」
マイヤーは無言でうなずくと、この倉庫の主だった者の方へと歩き始める。
「彼がここの主だったと」
ヴィヴィは主を目の前にして、手を合わせる。それは敬意としての仕草だ。
「ご先祖様とはいえ、これも価値があるわ」
「えー、薬にでもするのですか」
古来ではミイラは薬として扱われたこともある。その際にできた言葉すらあるほどに人はミイラを求め、探索をしたという。
「しないわよ。とはいえ、その方が幸せかもね。この状態なら、蘇生は可能だから」
「確かに、それはありますね」
ファミネイは人工生命体である。
その製造ノウハウは人類の医療にも相互に応用されて、使われている。
遺伝子さえあれば再生は可能で、ミイラ化ならそのままで蘇生することもできる。記憶だけはいささか無理であるが、コアなどの外部媒体で記憶されていれば完全な復活も容易なこと。
この死体にはコアは身につけられていないし、そういった外付け記憶デバイスもない。
あったのは紙で書かれた日記とツールとしてのデバイス。
デバイスにそういった情報があれば、既にマイヤーが掌握しているし、隠された部分が旧世代のフォーマットである以上、記憶のバックアップはないだろう。
後は日記や体に染みついた記憶を読み解けば、それを元に擬似的に本人と思わしき人格や記憶も作ることもできる。
だが、そこまでしてこの人物は蘇生を望んでいるのだろうか。地下に潜ることをよしとせず、地上で生き続けた人物が、この時代で何を望むのだろうか。
「ひとまず、このままにしましょう。後は都市なり基地の判断に任せましょう。幸いここなら、保管に適してはいるし」
この低温の空間なら、変化は少ない。
もし、人類が滅亡してもコアが稼働している限りは、ここの主として居続けることになるだろう。
「恐らく、これほどの宝の山。もう一度、ここへは誰かが来ることになるでしょうね」
ヴィヴィはそう言う様に、ここで持ち帰った情報は都市にとって大きな反響を与えた。
そして、調査団の派遣はすぐさま決定した、実行まではバカピックの動向を見てということですぐに行くことはなかった。
「……まったく、とんだ発見ばかりだ。まだ、バカピックと相手していた方が楽だわ」
その愚痴は幸い実現することはなかった。もっとも、遠足の最中に襲われても仕方がないのだが。
「ともかく、外の通信機器が終わっていれば、後は自由時間よ。そうでないと、やっていられないわ」
ヴィヴィは投げやりにそう語った。




