第2話 秋子のバイト先
神埜秋子。西暦2513年第八防衛高校に女子として初めて首席で入学し、魔法のみならず、体術でも特に高い成績を残している。
日本における魔法の大家は八家と言われる。八犬伝にちなんで、仁野、鷹義、礼部、武智、忠恵、信太、考頭、悌路の八家である。
今年の八高の新入生では、魔法科次席の忠恵彰子、三席の礼部智隆が直系としている。その他、傍系として数名魔法科、魔法戦士科に在籍しているが、その彼らを差し置いて、何の関係もない秋子が首席というのは大きな衝撃であった。魔法には遺伝的な才能が必要であるということが世界の常識であったが、秋子の両親を含め過去三十代に渡り調査をしても、魔法の才能を有するような人物はいなかった。
突然変異として、主に大人たちから見られていたが、彼女の学校生活には、忠恵、礼部の両家の子供たちがついていたので、大きく調査することも出来なかった。彼等は秋子が周囲の好奇の目に晒されることを嫌っていたのだ。
「あ~、やっと終わったよ。午前中の授業はホント面倒臭いよ。」
智隆が、首をボキボキと鳴らしながら秋子の席に近づいてくる。と同時に、反対からは彰子が抱きついてきた。
「秋子、早くお昼に行きましょ!今日は私の特製ランチを用意してあるんだから。」
そのまま、秋子をズルズルと引きずっていく彰子を智隆があわてて追いかける。
「なに?隆?あなたなんでついてきているの?私と秋子のランチタイムを邪魔するつもり?」
彰子の不満そうな顔に、智隆がキレる。
「いつも、俺も一緒だろうが!」
「まあ、怒鳴るなんて野蛮ね。」
彰子が秋子をかばうように智隆から距離を取ると、秋子が慌てたように言う。
「彰子ちゃん。ま、まあ、可哀想だから入れてあげようよ。隆くんは友達がいないんだから、婚約者の彰子ちゃんが優しくしてあげなきゃ可哀想だよ。」
秋子のその言葉に、智隆がグハっと言って胸を抑え倒れる。
「秋子、いつもながら俺を言葉だけでここまでダメージを与えるのはお前だけだ。」
え?え?と智隆の突然の行動に、はてなマークを頭から出している秋子を彰子が引っ張っていった。
「いいのよ、秋子。あんなのに気を使わなくても。早くランチに行きましょ。隆、今日も秋子に免じて同席を許してあげるわ。来るなら早く来なさい。」
結局、いつもどおりの三人での昼食となった。
「秋子、今日は私の家に来てくれるわよね?」
彰子の特製ランチを三人で食べながら、彰子が尋ねた。
「えっと、ごめんなさい。今日もバイトがあるから・・・。」
秋子が恐縮しながら答えると、彰子はため息をつきながら言った。
「秋子、いつも言ってるけど、働き過ぎよ。あなたの家の事は知っているけど、そんなにお金が必要なら、私があげるって言っているでしょ?忠恵家は才能ある人間への投資は惜しまないんだから。」
彰子がミートボールの刺さったフォークを振り回しながら言うと、秋子はフフッと笑って言う。
「うん、ありがとね。だけど、これもいつも言っているけど、私と彰子はずっとお友達でいたいのよ。忠恵家からお金を貰ってしまうと、それが崩れちゃうし、何より、私があなたを対等の友と思えなくなっちゃうから。ごめんね?」
「う~~。じゃあ、私のこの気持をどうすればいいのよ。にしても、秋子はいい子ね。ああ、秋子が男だったら、あんな奴との婚約なんか速攻破棄して、秋子と結婚するのに!」
そう言って秋子に抱きついた彰子は、まるで汚いものを見るような視線を自分の婚約者に向ける。
「俺だって、こんなじゃじゃ馬願い下げだよ。少しは秋子のように人に気を使うことを覚えやがれ。」
彰子の発言に智隆が反論する。そして、ギャイギャイと口喧嘩が始まる。それをみて、やっぱり二人はお似合いだなと思う秋子であった。今日もまた、いつものような昼休みが過ぎていくのであった。
放課後、まだ未練たらたらな彰子に謝りながら、秋子はとある店に辿り着く。
「店長!遅れてごめんなさ~い!」
メイド喫茶“アミテール" 秋子のバイト先のお店である。
「秋子ちゃん、いいところに着たわね。今、丁度新作できたから食べてみて!」
店長の初音は、ケーキ作りが趣味でこうしてしばしば新作を作ってはご馳走してくれる。
「店長~!おいしいです~!」
秋子の満面の笑みを向けられ、思わずジュルっと舌を舐めた初音であったが、そんなことはおくびにも出さない。
「じゃあ、食べた分は働いて消化しましょうね。おデブちゃんは私嫌いだから。」
「も~!店長~!わたし太ってないですよ~!」
メイド服に着替えた秋子は、頬をふくらませながら仕事へと向かっていったのである。




