エリザベスを殺した女
――『エリザベスは死んだのか』とは、絶対に聞かないでください。
――その質問をすると、祖母は必ず『私が殺した』と答えるからです。
佐伯玲奈の言葉が。
翌日になっても、朗の頭から離れなかった。
「アキラ」
「ん?」
「また考えています」
電車の向かい。
ロキシーが顔を覗き込んでいる。
「まあね」
「美津子さんのこと?」
「ああ」
今日は。
佐伯玲奈の案内で。
東京都西部にある高齢者施設へ向かっていた。
そこに。
九十八歳になった佐伯美津子が暮らしている。
五十年前。
十九歳だったエリザベス・ウォーカーを月峰病院から引き取り。
東京で匿った女性。
そして。
エリザベスが公式には「帰国した」とされた日まで。
彼女と一緒にいた人物。
「緊張します?」
ロキシーが聞く。
「するよ」
「私も」
「珍しいな」
「失礼ですね」
ロキシーは頬を膨らませた。
「九十八歳ですよ?」
「うん」
「五十年前を知っている本人です」
「そうだな」
「なんだか」
彼女は窓の外を見る。
「歴史の中に会いに行くみたいです」
その言葉は。
少しだけ。
朗にも分かる気がした。
◇
最寄り駅。
佐伯玲奈が待っていた。
「昨日はありがとうございました」
朗が頭を下げる。
「こちらこそ」
玲奈はロキシーを見る。
「昨日のこと、本当に申し訳ありませんでした」
「もう大丈夫です」
「でも」
朗が横から言う。
「閉じ込めたのは許してません」
「アキラ」
「そこは別問題」
玲奈が苦笑する。
「当然ですね」
「どうしてあんなことを?」
「誰かに見られていたからです」
「誰に?」
「分かりません」
「……」
「でも」
玲奈の表情が真剣になる。
「この事件について調べると、必ず誰かが動く」
「大学の人間?」
「たぶん」
「五十年前の関係者がまだ?」
「本人ではありません」
「じゃあ」
「子や孫」
玲奈は静かに言った。
「あるいは」
一呼吸。
「大学という組織そのもの」
◇
高齢者施設。
明るく。
静かな場所だった。
庭には季節の花。
窓際には本。
ピアノ。
朗が想像していたよりも。
ずっと普通だった。
「祖母は」
玲奈が歩きながら説明する。
「記憶に波があります」
「認知症?」
「年齢相応です。でも」
「でも?」
「五十年前のことだけは」
玲奈は立ち止まった。
「驚くほど覚えています」
◇
個室。
窓際。
一人の老女が座っていた。
白い髪。
細い身体。
膝には毛布。
手には。
一冊の古い洋書。
「おばあちゃん」
玲奈が声をかける。
「お客様よ」
老女が顔を上げる。
「玲奈?」
「そう」
そして。
朗を見る。
「こんにちは」
「こんにちは」
ロキシー。
その瞬間だった。
老女の目が。
大きく見開かれた。
「……リジー?」
ロキシーが固まった。
「え?」
佐伯美津子は。
震える手を伸ばす。
「リジー」
ロキシーへ。
「帰ってきたの?」
玲奈がそっと肩へ触れた。
「おばあちゃん」
「……」
「この人はロキシーさん」
美津子の目が。
少しずつ現在へ戻る。
「……違う」
「そう」
「そうね」
美津子は。
小さく笑った。
「ごめんなさい」
ロキシーが首を振る。
「いいえ」
「よく似てる」
「エリザベスに?」
「ええ」
美津子は。
ロキシーを見つめた。
「顔じゃない」
「?」
「目」
「目ですか?」
「何でも知りたがる目」
朗が。
思わず笑いそうになった。
ロキシーが横を見る。
「何です?」
「いや」
「今、笑いました?」
「少し」
◇
「あなたが高瀬君?」
美津子が朗を見る。
「はい」
「玲奈から聞いてる」
思った以上に。
しっかりした声だった。
「エリザベスのことを調べているそうね」
「はい」
「どうして?」
朗は。
一瞬。
答えに迷った。
「最初は」
正直に言う。
「ただの好奇心でした」
「……」
「でも」
ロキシーを見る。
「今は違います」
「どう違うの?」
「エリザベスが」
言葉を選ぶ。
「本当にどうしたかったのか知りたい」
美津子は。
じっと朗を見る。
「大学の名誉とか」
「はい」
「事件の真相とか」
「はい」
「そういうことより?」
「本人が何を望んでいたのか」
少し沈黙。
美津子は。
小さく頷いた。
「いい子ね」
朗が困る。
「二十歳を越えて『いい子』って言われるの久しぶりです」
ロキシーが笑った。
「アキラ、かわいいです」
「君は黙って」
◇
玲奈が椅子を用意した。
四人。
向かい合う。
「美津子さん」
朗が言う。
「十月三日」
「……」
「月峰病院から、一人の外国人女性を引き取っていますよね」
「ええ」
「エリザベス?」
「そうよ」
即答だった。
朗とロキシーが。
顔を見合わせる。
ついに。
本人の証言。
「山で何があったか」
美津子は。
首を横に振った。
「全部は知らない」
「エリザベスから聞かなかった?」
「聞いたわ」
「では」
「でも」
美津子が止める。
「全部は話さなかった」
「なぜ?」
「怖がっていたから」
◇
「病院にいたとき」
美津子が言う。
「最初、あの子は名前を言わなかった」
「診療記録にありました」
「そう」
「どうして美津子さんには?」
「英語で話しかけたから」
美津子は当時。
英語教師だった。
「私は学校から地域交流の手伝いで病院へ行くことがあったの」
「そこで?」
「ええ」
ベッド。
外国人女性。
傷。
怯えた顔。
「英語で」
美津子が。
静かに再現した。
「Are you safe?」
「安全か、と?」
ロキシーが聞く。
「そう」
「エリザベスは?」
「泣いたわ」
「……」
「それから」
美津子の声が。
少し震えた。
「Please don't send me back」
ロキシーが訳す。
「戻さないで……」
「大学へ?」
朗が尋ねる。
「そう」
◇
「なぜ大学を怖がったんです?」
「葛城先生」
美津子の顔が。
険しくなる。
「やっぱり」
「でも」
彼女は続ける。
「葛城先生だけじゃない」
「他にも?」
「大学の理事」
「理事?」
朗の表情が変わる。
「名前は?」
「言わなかった」
「エリザベスが?」
「ええ」
「なぜ?」
「証拠がない、と」
◇
木箱。
月姫の祠。
写真。
すべて。
そこにつながる。
「箱には何が入っていたんです?」
ロキシーが聞く。
美津子は。
少し考えた。
「古い書類」
「大学の?」
「たぶん」
「何について?」
「土地」
「土地?」
朗が聞き返す。
「月影荘のある地域?」
「ええ」
五十年前。
大学は。
月姫山周辺で。
大規模な研修施設の建設を計画していた。
「初めて聞いた」
朗が言う。
現在。
そんな施設は存在しない。
「計画は中止になりました」
美津子が答える。
「なぜ?」
「あの事件のあと」
「……」
「表向きは予算不足」
「本当は?」
美津子は。
ゆっくり答えた。
「土地取得の方法に問題があった」
◇
地元住民。
神社の土地。
共有林。
大学関係者。
仲介業者。
「エリザベスは民俗調査をしていて」
美津子が言う。
「偶然、昔の土地台帳を見つけた」
「木箱の中?」
「そう聞いた」
「大学に不利な資料?」
「ええ」
「だから葛城先生が取り戻そうとした」
「最初は」
美津子は首を横に振る。
「葛城先生自身も、エリザベスに協力していた」
「え?」
二人が同時に声を上げる。
◇
「葛城は敵じゃなかった?」
朗が聞く。
「最初は違った」
「じゃあ」
ロキシーが言う。
「途中で裏切った?」
「……」
美津子は。
答えなかった。
「分からない?」
「エリザベスは」
美津子が静かに言う。
「『先生は怖がった』と言っていた」
「何を?」
「大学を」
朗は黙った。
葛城宗一郎。
単純な悪人ではない。
その可能性が出てきた。
◇
「十月七日」
朗が話を戻す。
「美津子さんはエリザベスを東京へ連れてきた」
「はい」
「学校の宿舎へ」
「そう」
「大学から人が来た」
「十一日に」
「覚えてます?」
「忘れるものですか」
美津子の表情が固くなる。
「誰でした?」
「葛城先生」
「……」
「一人?」
「いいえ」
「誰と?」
「大学の事務局長」
朗がメモする。
「名前は?」
美津子は。
目を閉じた。
「神谷」
「神谷?」
「神谷隆三」
「大学職員?」
「当時の事務局長」
◇
「何を話したんです?」
「私は会わせなかった」
「エリザベスに?」
「そう」
「なぜ?」
「怖がっていたから」
美津子は二人を帰した。
その夜。
エリザベスは。
初めて。
美津子にすべてを話した。
「何を?」
美津子の手が。
少し震えた。
「山で」
沈黙。
「人が落ちた」
ロキシーの顔が変わる。
「誰が?」
「神谷の部下」
「死んだ?」
「分からない」
「エリザベスが?」
「違う!」
美津子の声が。
急に強くなる。
「エリザベスは何もしていない」
「……」
「逃げようとしただけ」
◇
月姫の祠。
言い争い。
葛城。
久世誠一。
大学関係者。
木箱。
「男が」
美津子は続ける。
「エリザベスから箱を奪おうとした」
「それで?」
「久世さんが止めた」
「誠一が?」
「揉み合いになって」
崖。
足場。
雨。
「男が落ちた」
「……」
「エリザベスは」
美津子が。
胸に手を当てる。
「自分のせいだと思った」
◇
「写真220」
朗が。
静かに言った。
美津子の動きが。
止まった。
「知ってるんですね」
「……」
「何が写ってるんです?」
美津子は。
長く。
答えなかった。
「美津子さん」
ロキシーが。
優しい声で呼ぶ。
「お願いします」
美津子が。
ロキシーを見る。
「あなた」
「はい」
「本当に似てるわね」
「エリザベスに?」
「ええ」
「だったら」
ロキシーが。
少し笑う。
「彼女が知りたかったことを、私も知りたいです」
美津子の目に。
涙が浮かんだ。
◇
「写真二二〇には」
美津子が言う。
「エリザベスが写っている」
「それは」
「十月三日の早朝」
朗が息を呑む。
「山を下りているところ?」
「そう」
やはり。
写真220は。
エリザベスが生きて山を下りた証拠。
「一人?」
「いいえ」
「誰と?」
美津子が。
答える。
「葛城先生」
朗も。
ロキシーも。
固まった。
◇
「葛城も生きて山を下りた?」
「ええ」
「でも」
朗が資料を思い出す。
「月影荘には戻ってない」
「戻れなかったんでしょう」
「どうして?」
「大学の人間が」
一瞬。
「待っていたから」
「……」
「だから葛城先生は」
美津子が言う。
「エリザベスを旧道まで連れていって」
「置いていった?」
「助けを呼びに行った」
「それが写真220?」
「ええ」
◇
つまり。
写真220は。
殺人の証拠ではない。
エリザベスが生きていた証拠。
そして。
葛城宗一郎が。
少なくとも最後まで。
彼女を守ろうとしていた可能性を示す証拠。
「じゃあ」
ロキシーが言う。
「どうしてエリザベスは手紙に」
――葛城先生を信じないで。
「そう書いた?」
美津子が。
悲しそうに笑った。
「その手紙を書いたときは」
「……」
「まだ」
少し間。
「葛城先生が戻ってきたことを知らなかったからでしょう」
◇
「久世誠一は?」
「写真を撮った人」
「220も?」
「ええ」
「じゃあ」
朗が考える。
「誠一は葛城がエリザベスを救ったことを知っていた」
「知っていました」
「それでも五十年間隠した」
「理由があります」
「何?」
美津子は。
目を伏せた。
「二二〇には」
「……」
「もう一人」
朗の目が変わる。
「誰が?」
「落ちたはずの男」
ロキシーが息を呑む。
「生きていた?」
美津子が頷く。
「崖の下」
「……」
「動いている姿が写っていた」
◇
「じゃあ」
朗の頭が回り始める。
「殺人じゃない」
「そう」
「誰も死んでいなかった」
「少なくとも」
美津子が言う。
「その夜には」
「それならどうして」
大学は。
事件を隠した?
エリザベスを帰国扱いにした?
葛城を黙らせた?
そして。
写真220を。
隠した?
「殺人じゃないなら」
ロキシーが言う。
「もっと大きな何か」
「……」
美津子が。
静かに答えた。
「そうよ」
◇
朗は。
一つの疑問にたどり着く。
「美津子さん」
「何?」
「さっき」
一瞬。
ためらう。
玲奈から。
聞いていた。
聞くな。
と。
でも。
聞き方を変える。
「あなたは」
「……」
「どうして、自分がエリザベスを殺したと思っているんですか?」
玲奈が。
驚いて朗を見る。
「高瀬さん」
美津子は。
しかし。
怒らなかった。
ただ。
長い。
長い沈黙。
そして。
微笑んだ。
「上手な聞き方ね」
◇
「私は」
美津子が言う。
「エリザベス・ウォーカーを殺した」
「……」
「でも」
朗は。
何も言わない。
「人を殺したわけじゃない」
ロキシーの表情が変わる。
「名前?」
美津子が。
ロキシーを見る。
「そう」
◇
十月十二日。
夜。
東京駅。
エリザベスは。
美津子。
そして。
久世誠一と別れた。
「京都へ行った」
「久世さんの手紙と同じ」
「ええ」
「何のため?」
「新しい人生を始めるため」
「……」
「エリザベス・ウォーカーは」
美津子が。
静かに言った。
「その夜、死んだの」
ロキシーが。
息を呑む。
「代わりに」
「……」
「別の名前の女性が生まれた」
◇
「偽名?」
朗が尋ねる。
「そう」
「美津子さんが用意した?」
「私一人じゃない」
「誰が?」
「教会の人たち」
聖和女子学院。
ミッションスクール。
当時。
海外から来た女性や。
家庭の事情を抱える若者を。
非公式に支援する人々がいた。
「今なら」
美津子が苦笑する。
「許されないこともした」
「身分を変えた?」
「完全ではないわ」
「じゃあ」
「大学から追えないようにした」
◇
「新しい名前」
ロキシーが聞く。
「何ですか?」
美津子は。
答えようとした。
だが。
「……」
止まった。
「美津子さん?」
「約束したの」
「誰と?」
「リジーと」
エリザベス。
「名前だけは」
首を横に振る。
「墓まで持っていく」
◇
「では」
朗が言う。
「エリザベスはその後も生きた?」
美津子は。
ゆっくり頷いた。
「生きたわ」
「どのくらい?」
「長く」
「今も?」
ロキシーが聞いた。
玲奈が止めようとする。
だが。
美津子が答えた。
「分からない」
「連絡は?」
「最初の十年くらい」
「手紙?」
「ええ」
「その後は?」
「途絶えた」
◇
「最後の手紙」
美津子が。
玲奈を見る。
「持ってきて」
「おばあちゃん」
「いいの」
「でも」
「この子たちなら」
朗と。
ロキシーを見る。
「いい」
◇
玲奈が。
鞄から。
古い封筒を出した。
消印。
京都。
四十年ほど前。
「開けても?」
朗が聞く。
「ええ」
ロキシーが。
英語を読む。
「Dear Mitsuko」
美津子へ。
「私は元気です」
「……」
「あなたが私を殺してくれたから」
朗の目が。
少し大きくなる。
ロキシーが続ける。
「私は生きられました」
美津子の目から。
涙が落ちた。
◇
「だから」
美津子が。
笑った。
「私はあの子を殺した」
「……」
「エリザベス・ウォーカーという名前を」
「でも」
ロキシーが。
美津子の手を取る。
「助けたんですね」
「……」
「殺したんじゃない」
「いいえ」
美津子は首を振る。
「名前も、その人の一部よ」
「……」
「私は」
自分の手を見る。
「彼女から家族も」
「……」
「国も」
「……」
「過去も奪った」
「でも」
「それでも」
ロキシーが言う。
「彼女自身が選んだんでしょう?」
美津子が。
ロキシーを見る。
「……ええ」
「だったら」
青い瞳。
「あなた一人の罪じゃありません」
長い沈黙。
美津子は。
ロキシーの手を握り返した。
◇
「写真220」
朗が。
静かに本題へ戻した。
「今どこにあるか知っていますか?」
美津子の表情が。
変わった。
「持っているのは」
「誰?」
「葛城先生」
「え?」
朗が固まる。
「でも五十年前の人ですよ」
「もちろん」
「今も?」
「本人ではない」
「じゃあ」
美津子は。
一つの名前を言った。
「葛城家」
◇
「葛城宗一郎には」
美津子が言う。
「息子がいた」
「今何歳?」
「七十代でしょうね」
「その人が写真を?」
「分からない」
「でも」
「葛城先生は」
美津子が。
朗を見る。
「亡くなる前」
一通の手紙を私に送った」
「内容は?」
「写真220を」
一息。
「家族に託した、と」
◇
「葛城家を探せば」
ロキシーが言う。
「220がある?」
「可能性はある」
「そして」
朗は。
さらに気づいた。
「今も事件を隠そうとしている人間」
「……」
「葛城家?」
美津子は。
すぐに首を振った。
「違う」
「なぜ分かるんです?」
「葛城先生は」
静かに。
「最後まで」
「……」
「エリザベスに謝り続けたから」
◇
では。
誰が。
今も。
脅迫している?
大学?
神谷家?
落ちた男の家族?
それとも。
まだ。
知らない誰か。
◇
施設を出る。
夕方。
朗とロキシーは。
並んで歩いていた。
「アキラ」
「何?」
「今日は」
「うん」
「少し悲しいです」
「僕も」
「エリザベスは生きた」
「うん」
「でも」
「エリザベスとしては生きられなかった」
「はい」
二人。
少し黙る。
「ロキシー」
「はい?」
「君は」
「?」
「君のままでいてね」
言ってから。
朗は止まった。
「……」
ロキシーも。
止まった。
「アキラ」
「今のは」
「もう一回」
「言わない」
「聞こえませんでした」
「絶対聞こえた!」
ロキシーが笑う。
そして。
朗の腕に抱きついた。
「近い!」
「これが私です」
「……」
「嫌?」
朗は。
一度。
ため息。
でも。
腕を振りほどかなかった。
「嫌じゃない」
「はい」
「むしろ」
「むしろ?」
「……何でもない」
「逃げました」
「うるさい」
◇
その夜。
大学。
誰もいない研究棟。
一人の男が。
古い資料庫へ入った。
棚。
箱。
古いファイル。
その中から。
一冊を取り出す。
表紙。
神谷隆三 個人記録
男は。
中身を確認する。
そして。
一枚の写真。
古い。
白黒。
裏面。
数字。
220
男の手が。
止まる。
「ようやく見つけた」
その声。
若い。
写真には。
夜明けの山道。
傷だらけのエリザベス。
彼女を支える葛城宗一郎。
崖の下。
立ち上がろうとする男。
そして。
画面の端。
もう一人。
大学の徽章をつけた。
神谷隆三。
こちらを。
はっきり見ていた。
「これさえ消せば」
男は。
写真220を握った。
「全部終わる」
第15話 エリザベスを殺した女 了




