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彼女は純粋に楽しんでいる様で、その様子にミナモは眩しさを覚える。
(うっ、純真無垢なその光が、い、痛っ)
心の中で呻きながら、ぎこちなく微笑み返し売却場所を尋ねた。
「ど、何処で買い取ってくれるんですか?」
「物によっては私が買い取るわよ」
「じゃあ頼みます」
「任されたわ」
女性は露店前まで移動すると、いらっしゃいと手招きする。
ミナモは露店に触れると交渉モードという枠が表示され、その中に売る予定のアイテムを移動させる。
「あら珍しい。確か人気の無い狩場のアイテムよね、道中にある素材も目ぼしい物が無くて、取りに行く人本当に居ないのよね」
マイナーなアイテムではあるが、女性はしっかりとした知識を持っていた。
「ひょっとしてアイテム殆ど覚えてるの?」
「ええ、そうじゃなきゃ買い取らないもの」
片っ端から次々と鑑定していき、査定を表示させる。
予想以上の値が付いたことに驚き、正気なのかと視線を送ると。
「大丈夫よ、これでも昔は結構人気の素材だったのよ。
30レベルくらいまでの素材としては逸品だったんだから」
「今も通用するの?」
「無理ね。
人気の狩場で同等の性能の素材が手に入るもの。
ちなみに使い道が無いわけじゃないのよ、色々と研究してる人が居るから、そういう人が買ってたりするの」
「研究?」
「そう。何時何処で何に使うかも分からない、そして人気がない物ほど研究で使い道が増えるかもしれないからね」
「なるほど」
温情で買ったわけではなく、先行投資的な意味合いで買い取りをしていた。とは言え二束三文な値段には変わりがない。
「最近なんか、型落ちの素材を一部に使う事で性能が向上して、過疎地に人が増えた例なんてあるのよ」
楽しそうに喋り続ける、本当に見るものすべてが楽しいとしか思えないほどであった。
「なんか、とても楽しそうですね」
「え? そうね、楽しいわよ。
貴方はどうなの?」
「私? 正直まだ分からないです、昨日始めたばかりだし」
「それじゃ右往左往で大変でしょうね」
「そうですね」
別の意味で右往左往していてる状況だ。本来なら新しいゲームの仕様を堪能しつつ右往左往して楽しみたいのだが、その過程が抜けている状況であった。
「う~ん」
女性は目を細めて眉をハの字にし、何か思いついたのかある提案をする。
「そうだ、今暇かしら?」
「え? まあ、これからどうしようかと考えてたので、非常に暇ではありますね」
「じゃあ一緒に旅なんてどうかしら?」
「旅ですか?」
「そう、旅、と言っても北西にある街まで馬車で移動だけれど」
ミナモはこれと言った目標も無い為、退屈潰しにその提案を受ける事にした。
「いいですよ」
二つ返事で返したものの、何故見ず知らずの相手に旅の誘いをしたのか疑問に思った。
(初心者を利用した詐欺か何かかな?
とは思ったもののなんか違う気がする、……むしろ私に気を遣ってる様な?)
女性はミナモの顔色を窺っている様子であった。
何故初対面の相手に気を遣っているのか不明であるが、その様子から推測し。
(……ひょっとして楽しませようとしてる?
私ってそんなにつまらなそうな顔してたかな? 返答は素っ気なかったけど)
あまり疑うのも悪く思い、考えるのを止める。
「そうだ、まだ自己紹介がまだだったわね。
ああ、メニューを開けば見えるって言うのは野暮よ、私はエルニカ」
「ミナモです」
「ミナモちゃんね、よろしくね」
「よろしくです」
お節介を受け入れ、差し伸べたエルニカの手を握り返した。
「じゃあ準備しましょ、何か分からない事があったら言ってね、何でも教えてあげるから」
エルニカが歩き出したのを見てその後ろを歩く。そして街の大通りへと向かうのであった。
人が多くなってくると、はぐれない様にパーティー(以後PT)を組む。PTを組む事でマップにメンバーの位置表示される為、はぐれる事は無い。
他にも専用のチャットで会話も可能で、その会話が外に漏れる事がない。
「まずはギルドに行きましょ」
「ギルド? ってなに? このゲームではちょっと分からないです」
ギルドについては他のゲームにも登場していて意味は理解できているが、このゲームにおけるギルドというものについては理解していない。
「え? 一度も行った事ないの?」
「ないです」
「えっとね、物を預けたり、クエストを受けたりする場所なんだけど」
「ああ、倉庫兼斡旋所」
「そうそう、纏めて冒険者ギルドなんて言われてるの」
「へぇ」
「さらに大きな街の冒険者ギルド間での転移が可能なのよ」
「やっぱり転移はできるんだ、まあ、無いと不便で仕方ないでしょうしね」
広い世界だからこそ移動手段と言うのは重要である。一々遠征となれば苦労という言葉では済まない。
しかし問題がある。
「けど、ギルドの信頼を勝ち取らないと使えないのよね」
「えぇ?」
利用に当たってクエストを熟していき、ギルドの信頼を得て初めて利用可能となっていた。
つまりそれまで徒歩移動が必須であり、そして街を離れる事が難しい。
「クエストも常に転がってるわけじゃないし、早い者勝ち、本当に大変なのよね」
「地獄じゃないですか」
「それでも街でポイント稼ごうって思う人が多いの」
不便な仕様に訝しんでいると、エルニカがフォローを入れ始めた。
「あ、心配しないで、ある程度ギルドから信頼を得ていると紹介制度があるの。
私が紹介してあげるわ」
有難い話ではあるのだが、ミナモは首を横に振った。
「紹介後は一蓮托生みたいなものでしょ? そういうのなら遠慮させてもらうよ」
「え? ひょっとしてバンディットプレイするの?」
バンディットはその名の通りで、盗賊などアウトローな存在達を呼ぶ名称である。
基本自由なプレイという事で、人を襲い略奪するなど、盗賊や海賊などに身を堕とすプレイヤーも存在していた。
「いや、まだ決まってないですよ。
このゲームじゃ大人しく普通のプレイでもしようかなって思ってますし」
その普通はミナモ基準の普通であり、時に物を奪うなどと言う可能性もある。
「なら問題ないわ。
それに何かあっても別にそこまで私は重い罰は受けないもの、だから気にしなくていいわよ」
「そうなんだ、……じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「甘えられたわ、さ、ギルドに行きましょ」
本人が気にしないなら素直に受け入れる事にした、のだが。
(なんでそこまでやるんだろ?)
その親切が少し不気味であった。
☆
冒険者ギルドは三階建ての石材と木材で作られた建物、大通りの建物の中では一番大きい。一階は食堂、受付、依頼なのが張られたクエストボードの三区画で別れている。
中はプレイヤーでごった返しており、食堂で屯い、一部のプレイヤーがクエストボードの前で張り付いていた。
「こっちよ」
できるだけ人の少ない受付へと向かい、そこでエルニカと共に冒険者ギルドに登録を始める。
「はいカード」
受付の女性にエルニカがカードを差し出すと、それを見て目を見開き驚く。エルニカとカードを交互に見ながら慌てて頭を下げた。
「この子をギルドに招待したいの、登録一式してくれるかしら?」
「は、はい、直ちに致しますっ」
NPCは慌てて登録に使う用紙を準備する。
その様子からエルニカがギルドにとって位の高い人物と察した。ただ紹介されたミナモに対して関心を抱く事は無かった。
登録を進め、転移装置の利用許可も貰い、作業が終わったところで、一枚の会員証を貰う。
「どうも」
「け、決して、この方に迷惑をおかけにならない様に、お願いしますね。絶対にですよ」
「お、おう」
NPCが念を押され登録を完了する。
これで用事が終わりではなく、エルニカは受付にギルドに来た一番の用件を尋ねた。
「後依頼を見せてほしいのだけれど」
「かしこまりましたっ」
普通はクエストボードに張られている依頼を確認し、自分に合ったものを選び、それを受付で精査し受理するという流れがある。
エルニカが特別なのか、特別な依頼書を取り出し、それをエルニカへと見せた。
「あっ、丁度良いのがあるじゃないの、これ、受けるわ」
「えっと、セレンへの護衛依頼ですね、かしこまりました」
受けたのは北西にある、隣国の都市ヘレン。その護衛依頼であった。
ミナモはそこまで遠出ではないと思っていた。しかし地図で探せば、徒歩で何日もかかる場所だ。
「大丈夫よ、街道をずっと行くだけだもの、半日程度で着くわ」
「そんな早いの?」
「早いわよ」
半日と言っても現実で半日、つまり湿地帯に向かう時同様ゲーム内で二日かかる。
用事もない為素直に受け入れ、護衛対象の出発前まで準備を整える事にした。
「依頼の前金よ、さ、これで準備を整えましょ」
「あい~、食料だぁ」
「不測の事態に備えて食料は欲しいけど、護衛依頼側が出すから大丈夫よ」
「へぇ、じゃあこれといってないかな」
しかしエルニカは首を振った。
「ミナモちゃんの装備を整えましょうか」
「装備? いや、別にいいよ、これで十分だから」
「とても失礼かもしれないけど、見た目が駄目よ」
「あー、まあ、そうだよね、そうだよね……」
ミナモはファッションセンスに関してはかなり壊滅的である。性能面や機能面を重視するあまり、デザイン性など二の次にしていた。
段ボールとポリバケツが最強装備と言われれば、恥ずかしげも無く身に着けてしまうだろう。
現在身に着けている装備の見た目は、即興で作ったわりに、悪くない出来栄えと思っていた。
「これでも頑張って自作したんだけど」
「性能はどうなの?」
パーティーの機能から、装備の一部を公開して見せると、エルニカは装備のちぐはぐさに首を傾げた。
「……テトラエリドの革って、別大陸で入手するものよね?
こっちもそうだけど、何処で手に入れたの?」
「袋から拾った」
「デスペナ品ね、というと昨日のユニーク騒ぎの時……。
ま、まあそれはいいとして、けど本当に自作? これなんか加工に向かないわよ、低レベルなら無理に近いわ」
「自作、油に付けて燃やして一時的に柔らかくしたりして作った」
「鉄みたいなやり方ね」
大体な行動に驚き感心する。
「性能面がとても良いわ、レベル40までずっとこれでも良いくらいね。
見た目をしっかりとしたかったのに、これじゃ下手に変えれないわね」
しっかりとした見た目で、同等の性能に変えると前金だけでは足りない。
しかしエルニカはどうしてもミナモの見た目に手を咥えたいようで、1人唸っていた。
「あら?」
そんな唸ってる間にもミナモは一人露店に立ち寄り、奇妙な物を手に取り購入していた。
「な、何を買ったの?」
「じゃきん」
徐に装備したのは狐の顔を模した、鼻から下がないドミノマスクであった。
エルニカに心配された為、感情を隠すための装備であった。
「あ、……うん」
より壊滅的な見た目になったところで、エルニカは見た目改革を諦める事にした。
「見た目で意外と精神面とか変わるのよ、気分を変えるのには良いのに」
「善処はする」
善処が出来るとは言っていない。




