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出てしまった魔法は仕方がない。今はその魔法について考察が必要だ。
(完全にどんな魔法が思い出せなかった。
イメージが形になって魔法になったわけじゃないから、……あるのか、やっぱりあっちゃうのか)
ヴァルアクの魔法が存在していた。
今まで何故誰もそれを発見できなかったのか、そんな疑問が浮かんだ。
(見つからない理由って言っても、このゲームの魔法発動がゲームぽいからなぁ。アイコンタッチ系だし)
覚えているアーツならば、そのアイコンをショートカットに登録して発動も可能、初心者はその方法でアーツを使用していた。
魔法を使う際にその魔法の名前を口にし、目の前に表示されたアイコンを手、ないしは杖で押して、その押した媒体から発動させる。杖など魔法の効果が増幅させる物の場合効果も上乗せされる。
(対してヴァルアクの魔法ってやたら特別視してたよな、中級者くらいからじゃないと使えないし、わりと発動も複雑)
ヴァルアクの魔法は他のネットゲームとは違い少し特殊だ。初心者のうちは紙に書かれた魔法陣や触媒を利用して発動させることが一般的となっていた。
「にしても、がっつり減ったな、このゲーム用に調整してるのかな?」
消費MPも高く、現在最大MPが200を超えているのだが、180ものMPを消費しての発動であった。
(このゲームの魔法は精々10程度、なのにこれじゃ使いものにならん)
MPを自然回復させ、試しに近くに居るカエル型に魔法を仕掛ける。
魔法で風の刃を作り出し攻撃、6発42MPを消費し撃破に成功する。
再度回復し、先ほど使った風の牙魔法を実行する。
「はい、生き残ってます」
風の牙に食らいつかれたが一撃では倒せず、風の牙が消え去ってしまう。
なけなしのMPを使い、風の刃で攻撃を仕掛けると一撃で撃破できたが、それでも燃費は悪い。
(いや、今重要なのは魔法の威力じゃない、ヴァルアク要素の方だ、やべぇ魔法とかあるんですが……)
過去のSSを確認しているときに思い出した魔法は多い、その中で危険な魔法も両手で数えられないほど存在している。
(大量破壊系の魔法とかもあったよな、……やべぇ思想の天使も居たし、マジで全部あるの?
……あれ? 全部って事は、もしかして)
さらにある事を思い出した。
ヴァルアクを辞めるきっかけとなった事態、そして今も尾を引く心残り。
「……物は試しだ、どうせ、いや、絶対に無い」
存在するはずがない。それは言い聞かせる様な言葉だ。
(やる、しか、ない)
ミナモはその場で『舞った』。
「よしっ、……――――――――」
『何度も頭に叩き込み暗記した呪文』を唱える。
体が自然と動き出し、指先から光の尾が伸びていく。弓の様に体をしならせ優雅に踊れば、同じように世界が不思議と廻る。
舞えば舞うほど一本の線は紋様を成していき、光の軌跡から零れる粒子はミナモと共に踊り、空へと消えて行く。
描いた紋様は蔦のように成長し、一つの紋章を作り出していった。
「来たれ来たれ、彼方より来れ、祖は我なり我が天上の矛盾にして我がワケミの一部なり、目覚め、目覚め、……我が元に集え」
刹那、紋様は一瞬で弾け消え、そして。
「……ない、わけないよな」
ミナモの目の前の空間が断たれた。
真っ二つに割れ世界が歪む、断ち切られた世界は暗黒の空間を生み出し、その場から光の球体が二つ飛び出てくる。
(神拳、ヘカトンケイル)
球体がミナモの両腕に張り付くと形を変えていく。
「複雑だよ、お前は何時までもあり続けるんだな」
それは白金色の洗練されたデザインのガントレットであった。装飾も繋ぎ目も無い、のっぺらとした金属が少し不気味に見える。
ヴァルアクで作り上げた、この世に唯一無二の神器である。
この神器のせいでヴァルアクを引退する事となり、ファンタジー作品から遠のくことになった曰く付きの逸品だ。
(作る時も召喚の時も必要だし、取られるわけないよなぁ)
強力な装備だから外すという選択肢がないはずだが、『遠くから召喚』する儀式の舞が存在していた。
(なんでなんだろ? 製作者意外に扱えない物なのに)
疑問を解消する前に辞めてしまい、結局その疑問が今になって襲い掛かる。
(そもそもこのアバターでなんで呼び出せてたんだ?
アカウントのデータとかバイタルデータとかで判断してるのかな? もしくは最初呼び出せたもん勝ちみたいな?)
儀式などの情報は一切公表していない。公表する事すら嫌になる状況に追いやられた。
(公表もしてないし呼び出せないのにも納得だけど……)
蘇る当時の記憶に憂鬱になる。
喜んだのは最初だけ、翌日から奇妙な噂に悩まされ、モチベーションも無くなり一週間後には引退した。
「ほんと、複雑」
この事をフィーネには伝えない。
信用していないわけではないが、話す気力が無かった。
「じゃあ検証再開、再開!」
現実逃避する様に、本来の目的であることを始めた。
様々な事を試み、ある程度結論が出た。
「別にそこまで頭を悩ませなくても良い様な?」
新規のゲームに過去あったゲームの要素があるだけ。
危ない物もあるが、存在していてもミナモにはさほど関係は無い。
「うん、知らん、このゲームがどうなっても知らんわ」
頭を悩ませる意味もなく、『どうでもいい』と吹っ切れた様な結論に至った。
「悩んでいても仕方ないし、うん、仕方ない仕方ない」
踵を返し、街へ帰還していった。
☆
ミナモが街に舞い戻り、これからの事で悩み続ける。
道中何度も考えていたが、答えを見つける事が出来なかった。
(そもそもシャルがメインで調べる事だし、魔法が使えるってだけ教えたんだ、私の役目は終わり)
やれることはやった、後はこれからゲームを続けるか、そのまま辞めるかの二択だ。
さらに辞めるべき理由も一つ追加されている。
(この神器も影響出てるし、これ以上縛りを追加するのも嫌だな)
現在ヘカトンケイルはガントレット型からただの腕輪へ変わっていた。見た目の変化も機能の一つである。
しかし問題は『強さが無い』事だ。
(攻撃防御力、他何の効果もない、つける意味がない、だというのに外す事も出来ない……)
完全に呪いの装備だ。
装備は特定の箇所のみにできる。頭部、胴、腰、腕、手、足など細かく設定されていた。その上から物を身に付けられるが、効果は一切発揮されなくなる。
(おまけにスキルスロットも一つ埋まってるし)
スキルスロットが強制的に固定されていた。アーツはヘカトンケイルを使用した技や、ヴァルアクにあった技全般がある。
(ヘカトンケイルくん、封印されてる癖に専用アーツが使えるみたいだが、封印とはこれいかに?)
現状不明な事ばかりだ。
そもそもヴァルアクの時すらまだ検証をろくに済ませていない。未知数な性能や能力が隠されているのだろう。
(付けられないものは仕方ない。
後のスキルスロットの残り一つも斧関連のスキル付けるし、余裕が一切無いよ……)
戦斧がメインウエポンである以上、斧のスキルはほぼ固定状態であった。
残り弄れるのはメインジョブで強制されてる精霊術スキルのみ。
(とりあえず斧スキルセットしておこ、何処かな?)
スキルが数は多く、探すのすら嫌になる。
検索機能が備わっているのを見つけ、斧と打ち込む。
(手斧スキルと……殲滅戦斧術、なにこれ?)
戦斧スキルがいつの間にか消えていた。何度検索を繰り返しても結果が変わらない。
(これって、戦斧のスキル? 変化した?)
すでにシステムログで追える範囲を超えていて、何時変化したのかが不明である。
スキルの中身を確認すると、初期状態のアーツ以外にも増えているが、何が増えているのか分からない。ネットの情報と照らし合わせ確認する。
(大切断と、ハイパワースラッシュ、スピナー、クイック、意外と自作したのが多い)
いつの間にか増えていた物ばかり。アーツの説明を見て何時覚えたのかを予測する事は出来た。
(多分猪に打ち上げられたときとか、モンスター攻撃した時だ。
なんとなくアーツ化される原理は分かった)
行動がアーツ化されるかどうかは、技の様な行動をすればアーツ化されるという、少し曖昧な方法であった。
(もう戦斧の事はどうでもいいや、精霊関係調べないと)
期待していない為興味が沸かない、今調べないとまた存在を忘れる可能性が高いため、急いでアーツを確認しはじめる。
(精霊契約、精霊探知、え? これだけ?)
現在使えるのはその二種のみ。それ以外は契約を行った後に解放される様だ。
(精霊探知にヒントが書かれてる、……自然がある場所で使うと精霊が多い。
つまり町中じゃなくて外で使えって事か、めんどくさぁ)
契約は一度後回しにする。
街に戻った以上、その目的を果たすのが一番優先される。
(何をするにしても行動資金は必要だし、拾ったアイテムを売っておかないと)
遠出をする資金調達、そしてアイテムの整理が主目的である。
(露店で売れるって聞いたけど、どこも買い取りしてないし、これは普通にNPC売りかな)
プレイヤーの露店でアイテムの買取を行っている。
しかし人気の素材ばかりを買い取り、ミナモが入手したアイテムに関して買取を行っている場所は見つからない。
「うちじゃ駄目だね、買い取れないよ」
買取を行うNPCの雑貨屋に行ったのだが、買取を拒否されてしまった。
「何故?」
「そういう素材は飽和してるんだよ、売りたいなら別なの持ってきな」
まるでゴミでも見る様に追い払われる。
(なんだこのクソ店主)
納得いかない為、即座に外部ツールの検索エンジンを起動し、WLM内部の売却について調べる。
「……プレイヤー達がこぞって売ってるから、NPCの買取は近年できない様にって、えぇ、なにこれ? んな現実じゃないんだから」
「物流がある世界なのよ、売り時も買い時をしっかりと見極めないとね」
「ん?」
近場で露店を出す準備をしていたプレイヤーが話しかけて来る。
大人びた20代後半ほどの女性。右側頭部に生えた赤い稲妻の角が目立つ。
「こんにちは」
「こんにちは」
フリルの付いたワイシャツとロングタイトスカートを着こなしている。紫の長い髪を後ろで纏めた姿はさらに大人びた雰囲気を醸し出していた。
「初心者ちゃんはこういうの初めて?」
「物流があるというのは初めてじゃないですけど。
人が多くて買取拒否というのは新鮮です」
「でしょ、こんなゲーム全くないもの。
大変だけど、買取してるところもあるのよ」
表情はニコニコと変わり、楽しそうに話していた。




