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「昨日ジプシー近くに居たんだってよ!」
「マジ? うわぁ、なんで早くログアウトしちゃったんだろ……」
「今からでも遅くないから探しに行こうぜ」
ワイワイと初々しいプレイヤー達が草原へと向かって行く。
すれ違ったミナモの顔はそれとは真逆に暗く落ち込んでいた。
(何が楽しいんだか)
プレイヤーが最初に降り立つ街、メルテトブルクでは少し騒ぎになっていた。
近場でジプシーモンスターが現れたというだけで大ニュースだ。
(ヴァルアクの魔法とか試してみようと思ったが、何処もかしこも人が多い、何処か過疎地はないものか)
当時の記憶と、残っていたヴァルアクの攻略サイトを参考にしながら、ヴァルアクの魔法を試してみる事にした。
しかし昨日の出来事で人が至る所に居て実験が出来ず、過疎地を求めて地図と睨めっこしていた。
(ええっと、街の入り口がここで、南東に向かって、麓を潜り抜けて湿地帯が良いか、ご丁寧に不人気狩場なんて書かれてるし)
マップにはワンポイントアドバイスが書かれている。
(しばらくはこの地図に頼りっぱなしになりそうだ)
フィーネと地図製作者に感謝しつつ、装備を整えるためにプレイヤーが出している露店を周る。
(食料、調理道具も必要かな? 後は20レベルくらいの装備か。
あ~、もう、なんで勝手にレベル上がるかなぁ)
猪を無力化後、レベルが一気に上がり19となっていた。
順に上がっていけば困る悩みではないのだが、過程が抜けてしまっている為知識がない。
(レベル帯に対する装備の基準が分からねぇ)
道の脇に露店が並んでいた。地面にシートを広げた店や、屋台風な店などが並んでいる。
(店員とか居ないけど、これ盗めないの?)
店主は居ないがアイテムを盗めない様になっていた。アイテムに触れても、詳細や値段が表示されるだけ。
(相場も分からん、しばらくは見て回るしかないか、……もどかしい)
目的とは違う事をしなくてはいけないと思うと、焦り自然と歩幅が大きくなる。
(……もどかしいか)
嫌なゲームを調べようとする行為でも、子供の様に探索している気分だ。その事に気が付き自嘲した。
(腐ってもゲームだしな、うん、楽しい、こうしてる時間も、空気も、好きだよやっぱり)
周囲の雰囲気、楽しそうに見て回るプレイヤー、難しい顔で吟味する者、それらを眺めているだけでも楽しい。
素直に楽しむ事は出来ないが、今この瞬間を楽しみながら、買い物を続ける事にした。
(金槌が置いてる、自作も視野に入れるか)
買い物の最中、物を作る時に必要なアイテムが目に入る。
(ふーん靴を作る時の型とかもある、こっちは皮を切る道具。
買うよりも安いかな?)
近くに工房を見つけ、ミナモは吸い込まれる様にそちらの方へと向かった。
工房の中に受付があり、奥から聞こえる金を打ち付ける音をBGMに、眠りそうなNPCが頬杖付いていた。
「い、いらっしゃいませ」
ミナモを視界に入ると慌てて椅子から立ち上がり、髪を軽く手で整え笑みを浮かべる。その表情に羞恥心が混じり少し焦っていた。
(普通の店系NPCは別にこういう高性能AI必要ない気がするけど)
NPCには感情があり、本当に生きて行動してるように見える。
ゲームのNPCにまでコミュニケーションが大変という理由で、感情のあるNPCが嫌いなプレイヤーも居るが、それでも評価は良い。
特にWLMはNPCが世界を形作る大事な存在となっており、NPCが一番の主役と口にする者も少なくはない。
「見学したいんだけど、いいかな?」
「はい、どうぞお好きに」
ぎこちなく笑みを作り手を入り口の方へと手を向ける。
奥には作業台で、革の鎧や靴手袋などを作っているプレイヤー達が居た。
(ほーん、スキルでできるんじゃなくて、自分の手で作り上げるのか)
アーツを使い、即座に装備を完成させることができるが、自分で作り上げた方がより高性能な物となる事が多い。
ただし。
「うっ、オート製作よりも性能が低い……」
高性能になるかはその人の腕次第であった。
人が失敗している様を見るとどうしてもチャレンジ意欲が湧いて来る。
(制作道具貸し出しできるなら作ってみるかね)
見学をそこそこに受付へと戻り、作成に必要な道具の貸し出しについて尋ねた。
「工房の場所を借りる際に道具の貸し出しはありますか?」
「はい、貸し出しは致しております。
ただし素材についてはお客様の持参になり、貸出時間内に作業を終えてもらう必要があります」
「ありがと、じゃあ少し素材を集めてくるよ」
礼を言い、ミナモは再び露天巡りへ、必要そうな素材を買い集め始めた。
素材の良し悪しは不明で、値段で判別するしかない。強度や柔軟性など未知数なものばかりであった。
(まあ、慣れていくしかないか)
後は検索エンジンの力で調べるだけだ。
そしてある程度値段と相談しながら妥協し、素材を一式そろえる。
揃えた素材をさらに別な場所で加工していき、また別な工房へ。
最終的に最初に立ち寄った工房に戻ると、作業場を借りて作業の準備を始めた。
「お、初心者ちゃんか、スキルはセットしたかい?」
準備をしていると、初心者衣装に釣られてお節介焼きがやってくる。
「ああ、そういえば付けてなかった」
スキル欄から慌てて靴を作る為のスキルを探しセットする。
後ろには腕を組み微笑ましそうに眺めるプレイヤーが居たが、無視し作業を開始する。
(やっぱり覚えてるもんだな)
このゲームでの武具の製造方法は知らない。
しかし他のゲームで培った知識と腕が今もなお生き続け、悩む事無く手が動いていく。
後ろで見ていたプレイヤーは手慣れた作業風景に感心していた。
「硬い」
途中で手が止まる。
貸出の針では革が固く、加工が不可能と言えるほど作業が進まない。
「スキルレベルが足りないんじゃないか? それにこの工房の貸し出し品じゃ無理だと思うが」
いつの間にか見てる人物が二人に増え、そのプレイヤーの1人がアドバイスを送った。
「面倒なこった」
工夫で乗り切れないか考えつつも、一先ず別な作業を行う。
ブーツを完成させて、次に着衣の作業に移った。
「手馴れてるが、リアルで靴でも作ってるのか?」
「別ゲーで慣れただけ。
そうだ、あれをしよう」
別なゲームで思い出した手法を試す事にした。
先程失敗した革を取り出し、何故か仕上げ用の油を振り始める。
奇行を目にした見学者二人は首を傾げ見守る事にした。金属を熱するスペースに移動し火に当てようとしてるのを見て慌てて止めに入る。
「な、なにやってんだ!」
「あ、危ないって」
「大丈夫だって」
素知らぬ顔で火をつけると燃え盛っていく、取り出した火バサミで挟み、近くにあった丸みを帯びた石の上に置き、鉄のハンマーでたたき始めた。
鉄の様にあまりにも固い革、何をしても曲がなかったが、熱を加えてれば目論見通りに曲がっていく。
さらに熱した場所に針を通して穴をあけていく。
「なんて強引な、品質下がるだろ」
「別ゲーじゃこういうので性能が上った事もある」
「これはそのゲームじゃないぞ」
「けど手持ちこれしかないし、完成したのも比較できないから、別に気にしない」
奇行を見守り続け、何かするたびに心配になるが、ついに完成し胸を撫でおろす。見守っていた者は緊張してたのか出る溜息は大きかった。
完成したのはビスチェタイプの胸当てで、ワンピース型の着衣にそれを合わせて一つにしていく。
これで服と靴が完成し、それを早速装備し身体を動かし確認する。
「問題無し、疲れた」
「お、お疲れさん、見てる側がハラハラしたぞ」
「気にせんといて」
「で、性能はどうなんだ?」
「さあ? これが良いのかは分からないよ。
まあ品質と耐久はそこそこだから問題はないね」
比較するべき対象は無い。
初期装備など比べ、何十倍もの性能にはなっている。ミナモはそれだけで満足であった。
「じゃ」
全て作業が終わり、見学者に別れを告げて去って行った。
残された見学者は見よう見まねで検証を行う。
「……普通のやつと対して変わらんが、一応しっかりとした物にはなってるな」
「性能は低下してないのか……」
思いのほか普通に仕上がり、作った本人が驚いていた。
☆☆☆
装備を整え旅に出る。
何処もかしこも人が多く、遠く見えていた山間に辿り着き、やっと人の気配が無くなった所であった。
「この先かぁ」
大きな山を観察しながら、軽快に進んでいく。
襲い来るモンスターは片っ端から薙ぎ払い、何時しかレベルは21にまで到達していた。
(しっかし、思った以上に敵が弱い、これなら別に適正レベル通りに行動しなくても良さそうだ)
本来の適正レベルは25後半だが、ミナモにとっては格下のモンスターとしか感じない、もっと先へ移動する事も考えた。
麓の森は霧が出ていて、湿気が高く、いたるところに苔がむしっていた。
「やっとついた」
現実で合計半日かけてやっと湿地帯へとたどり着く。
「ゲーム内で2日、四倍加速状態で良かったよホント」
VRゲーム全般に、ゲーム内時間は現実とは異なる時間の流れとなっている。
脳とCPUの連動により、さほど負荷も無く高速で流れる時間の中でも行動可能となっていた。
現実との時間の齟齬のお陰で広い大地も進んでいけるが、二日と言う時間は途轍もなく退屈である。その退屈を埋める為に各自勉強をしたり動画に音楽を楽しみ退屈を潰す必要があった。
「この地図作った人はどれだけ調べたんだ。
300年前に街があった事が書かれてるよ」
地図にはかつてこの湿地帯には街があり、湿地帯ではなく草原が広がっていた事が書かれていた。
周囲に人の気配はなく、心置きなく実験ができそうだ。
「ふぅ、淡々といきましょうかねぇ」
まずはじめにヴァルアクにおける基礎的な魔法を発動させることにした。
「印を刻み、詠唱、陣は省略、でいいか」
どのゲームも魔法発動は千差万別、発動する魔法のイメージしたり、魔法陣を描いたりと様々な方法がある。
WLMは面倒な要素が排除されている。
「えっと、印の形は確かこうこう、こうでっと」
手を組み指を曲げ、一部を伸ばし印を汲む。
体内から力を指へ力を流し込む感覚を抱くと、指が軽く光りだす。それを確認してから口を開いた。
「切り裂くは天を穿つ悪魔の咆哮」
詠唱を口にし恥ずかしくなりつつも、魔法はしっかりと発動する。
「お」
吠える様な暴風と風の牙が幾重現れ、一寸先から50m先へと襲い掛かっていた。
「……そういえば、こんな魔法だったな」
発動してしまった魔法に驚くべきか、存在に驚くべきか、頭を抱えた。




