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ヴァルハラアクセスというゲームがあった。
懐かしくも、地獄の思い出となったゲーム。
『お兄さん、いつもありがとう』
『おう、気を付けて狩りするんだぞ』
『うん、じゃあいってきますっ』
目を輝かせ走り回った懐かしい日々。
『よっしゃ、ここは終わり、後はあっちの素材だけやろ?』
『うんっ、お姉さんありがとっ』
『気にせんといて、早く完成が待ち遠しいんや』
優しく抱かれていた懐かしい人々。
『お前、そんな事してたのか?』
『はぁ、そんなうちの事嫌い?』
知らない行動と、知らない噂話。
「ヴァルハラアクセス、……こんな所で」
フィーネの声にビクリと震える。
驚き顔を上げて見れば、彼女はエルフの方を見ていた。今の顔を見られなかった事に安堵して一息つく。
「……二年前の亡霊だ」
2人でやっていたネットゲームの名前に顔をしかめる。
「亡霊なんて言ってられないわよ、だって、だってあれよ!?」
「なんでシャルが慌ててるの?」
「君にトラウマを与えたゲームじゃないか!」
ファンタジー作品から身を引く事になった作品、それがヴァルハラアクセス。
「きっかけになったアイテムはもうないだよ」
「君は何でこんな時に冷静なの? 根も葉もない糞ったれな噂流されて」
(確かに腹立つけど、このゲームに痕跡がある事に驚いて感情が出ないよ)
二年経過しても手に取るように思い出す事が出来る。恨み辛みも残ったまま。
寝る暇を惜しんで作り上げたのだから、その感情もどす黒い物になっていた。
「あ~、もう、ストーリーも思い出しちゃったよ」
フィーネが頭を掻きむしり苛立ちを露にする。
「わりと酷いストーリーだったね」
「天使は天使以外の生命体を殺し回って、魂を掻き集めて素材に新しい天使を作り出す。
だったっけ?」
「後は、全容が見えなかったけど、ラグナロクの阻止だったかな」
懐かしい記憶の中で、今回使われた魔法の事もどんどんと思い出す。
「というか傀儡の聖痕の事よく覚えてたね」
「だって聖痕イベマップの端から端まで往復させられて覚えてたし」
「面倒だった……」
どんなに忘れていても嫌な記憶というものは奥底でこびり付く。
過去の話よりも、今は目の前で気絶して倒れるエルフの事について話し合う事にした。
「傀儡を使ってたって事はこの子、使い捨てだよね?」
「長時間使うと同化する危険な物、だったよね?」
「そう」
傀儡の聖痕を付け、その中に潜り込み自由に操る術。聞こえはいいがデメリットと釣り合わない、好き好んで身を捧げる者は少ない。
「はぁ、このゲームがまさかヴァルアクと関係してるだなんて、……めっちゃ憂鬱」
別なゲームなら気分も悪くはならなかっただろう。
よりにもよってヴァルハラアクセスというのは不運でしかない。
「開発会社が同じなんだろうか? でも違ったような気がするんだけどなぁ」
「あるならあるって運営が言ってほしいもんだ」
「調べた」
「早いな」
「検索すればすぐなんだから。んで、ボクが調べた限りじゃ、別会社」
「ええ?」
ミナモも改めて調べるが、WLMとヴァルハラアクセスは同じ会社ではなかった。
しかし別会社の場合、同じ魔法がある事が不可解である、必ず何処かに繋がりはあるはずだ。
「ヴァルアクの会社って潰れたとかない?」
「う~ん、ちょっと待ってね」
さらにお互い調べるが、ヴァルハラアクセスの開発と運営会社は同一で、活動を停止しているという情報しか出てこない。
「もう活動してないぽい、けど、これってどういう事?
パクリ?」
フィーネの顔が青くなり、声を震わせ尋ねた。入れ込んでいたゲームが、他のゲーム要素を無断で入れていると思いたくないのだ。
「権利は流石に無いとヤバいよ。
WLMの運営開発に吸収されたとか? 権利貰ったり、もしくは使用許可を貰ったとかいう線もある」
「スタッフが移籍、開発AIとかデータ提供の可能性もあるかもしれない、よね?」
開発AIはただ使うだけでは高品質な作品は作れず、ノウハウやデータを必要とする。有名ゲームの開発データを蓄積したAIを利用し、制作した事を売りにしているゲームも存在していた。
「そっか、そういうのもあるか。
スタッフのクレジットとか見れば分かるかな?」
「開発AIとデータを利用した場合は載らないよ」
「う~ん、じゃあ直接運営にメールか?
ヴァルアク運営の許可取ったのかとか」
「そう、なるよね。
けど答えてくれるかどうか」
「答えてくれないなら拡散して炎上させるだけだし。
見出しは、有名タイトルまさかの無断盗用、とか」
「怖い事をさらりと……」
「このままじゃスッキリしない。
一応聞くけど、他のゲームとかの要素はないよね?」
「分からない。
似通ったのはあるけど、他のゲームでも同じだし、ここまで明確なのは知らないよ」
フィーネの知る限り他のゲームに関する情報は無く、今回の事が初めてであった。
二人は運営へのお問合せフォームに疑問を書き込む。明確な答えが返ってくるか不明だが、今は運営の返答だけが唯一の答えであった。
待っている間暇な為、ミナモはフィーナに疑問を尋ねる。
「ところでさ」
「何?」
「袋ってプレイヤーのデスペナ品?」
「ん? ああ、そうだよ」
戦闘中に拾ったアイテムの事だ。
武器を探していたが、お金と素材の様なアイテムが入っているだけであった。
「四時間以内に拾った貴重品じゃないアイテムすべてばらまいちゃうんだよ」
「へぇ、じゃあ取っても問題はないな」
「……まあ、問題はないけどさ、トラブルの元にはなる」
「またローカルルールかい。
知らんがな、自己責任だろ、死にたくなければ触らなければ良いだけ」
「確かにそうなんだけどね、まあ気づかれないようになら」
ミナモは悪い顔を浮かべ、即座に全てを回収し始めた。
さほど量は無いが、プレイヤー達が持っていた資金の一部を回収すると、初心者では到底稼げない額にはなる。
「いやあ、がっぽがっぽ、しかし武器が無いのが難点か」
「デスペナのアイテムは武器とか防具とかそういうアイテム系は落とさないよ」
「なんだ、そういう仕様か」
「当たり前だ、もし落とすなら即PKして奪い合いが発生する。
……けど、まあ例外もある」
「例外?」
「封具だよ」
「封具?」
「耐久の無い、封印された装備、解放条件が不明で誰も本来の力を出し切った人が居ない、そんな装備」
「その封具だけはデスペナで落とすのか」
「あれは時間関係なしに持っているだけでデスペナルティで落としてしまうの」
耐久が無い、さらに封印されているとなれば、興味はそそられる。
「何処で手に入るの?」
「遺跡とかからの出土品。
他にも一度きりのユニーククエストで入手くらいかな」
とても希少品であった。プレイヤー達の手垢の付いた世界ではもう手に入る事は難しいだろう。
「レアって事か」
「レアなんてもんじゃない、喉から手が出るほど欲しい人が居るくらいだよ。
地雷武器種類でも値段は高い、大きなホームが買えるくらいにはね」
「ホームは多分プレイヤー個人の家だよね? 値段は分からんけど高い事は分かったよ」
フィーネは周りを見まわたし少し焦り出す。
「一先ずここから逃げようか、回収しに来られたら困る」
「んじゃ行こうか」
駆けだそうとした瞬間、思い出したかのように立ち止まり、倒れているエルフに視線を移した。
「あのエルフ」
「どうせあれは使い捨てよ、良い様に洗脳されて利用されただけでしょ」
「確かに」
「聖痕でプレイヤーならもしかして強化になるんじゃ……」
「扱えなくて袋叩きにあいそう」
「けど同化時どうなるか見てみたいな、誰かやってくれないかな」
さらりと怖い事を言うフィーネ。誰かを労わる優しさが無かった。
そんなフィーネに呆れてミナモは傀儡の聖痕の発動方法を口にする。
「そもそもストーリーで、天使の……、天使の血肉が、……必要で」
思い出しただけで嫌気で足が止まる。
「この世界に天使が居るのかぁ」
「そ、そう、だった……」
呆れるミナモとは打って変わって、フィーネは顔をこの世の終わりと言わんばかりに真っ青。
放心するフィーネを持ち上げ、木々をかき分け森を進んでいった。
「なんだか色々あり過ぎた」
新規のゲームなら発見という刺激が心地よいが、内容が衝撃的な事ばかりだ。
今まで入れ込んでプレイしていたフィーネのダメージは計り知れない。
「……ボクまたあのゲームしたくない」
「奇遇だね、私もだよ」
さらに追い打ちをかける様に運営からのメールが返って来た。
二人同時に確認し、二度見三度見と同じ文章を確認して頭を抱える。
「仕様やストーリーはすでに権利をいただいております。問題は一切ございません。今後ともワールドライクメイクをよろしく云々かんぬん。
……まじかよー」
似せて作られたけではなかった。WLMの世界がヴァルハラアクセスと繋がっている事が確定してしまった。
ミナモはこのゲームを辞める気持ちが強くなっていた。
「――する」
「ん? なんか言った?」
「徹底的に調べ尽くす」
「は?」
「気持ち悪い、こんな臭わせておいて、詳細が無いのは気持ち悪い。
納得いくまですべて調べ尽くす!」
フィーネは自暴自棄に近い状態になっていた。
気持ちよく続けていたゲームが、完全に別なジャンルのゲームに変ったか気分だ。そんな状態で楽しく遊べるはずも無く、何処まで『ヴァルハラアクセスに汚染』されているのかが気になってしまった。
ゲーム開始直後から始めた古参プレイヤーだからこそ、このゲームを捨てれず、そして気に入ってるからこそ、これからもプレイしていたいという執着が強い。
「あ、そう、じゃ、がんばって」
プレイ歴の浅いミナモ執着もなく、逃げようとしたのだが逃げる事も叶わずフィーネに肩を掴まれた。
「頼む、ボクと一緒に調べてくれ!
リリーだって気持ちよくなりたいだろ!」
「語弊がある言い方止めろ。
というか別にそこまでこのゲームに入れ込んでない」
「君だって気になるはずだ」
気にならないというのは嘘になる、フィーネ同様にこのゲームがどれだけヴァルハラアクセスの内容が関与しているのかが気になっていた。
しかしプレイを続行したいという気持ちがあまりなく、踏み込めない状態であった。
「そりゃ、そうだけどさ」
「頼む! こんなの人に言えないよ、手伝ってくれ!」
「言えないってどういう?」
「信じてもらえない、他のゲームの内容と言われても絶対にそんなはずないとか否定されて、最悪アンチ扱いされる」
「んなあほな」
「信者が多いんだよ。WLMは神様だって感じの奴等多いの!」
WLMを神聖視し、まるで自分の居場所を守る様に、少しでも否定的な人物を疎まい攻撃する。
自分が好きな物を汚されない様に、泥を付けない様に、そんな思いが暴走し、盲目的な存在を生み出してしまう。
このWLMとって駄目な部分はしっかりと存在する、それを話せばアンチとして排除される傾向にあった。
「頼む!」
フィーネの熱意は本物だ。
今のミナモはその熱意に毒されるほど気薄で、雰囲気にのまれてしまい、無言で頷くしかなかった。
☆☆☆
ため息一つ吐きVRデバイスを剥ぎ取り起き上がる。
「あー、プレイしなければよかった。
せめて日付を変えるべきだった」
今日WLMをプレイしたことに後悔しつつ、癒里は自分のパソコンのモニター前まで移動する。
モニターに指で触れ、ストレージの中にあるゲーム内画像を漁り始め、未だに残っているヴァルハラアクセスのスクリーンショットを見詰める。
「……はぁ、ほんと、こうしてみるとどんどん記憶が蘇る。
乗りかかった以上気合を入れるしかないか」
過去に背を向けず、不快な記憶を思い出しながらも、当時の記憶とストーリーを調べ始めるのであった。




