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決着がついた。
エルニカはポーションを飲み干し、おっかなびっくりに姉の元へと駆け寄る。
衝撃波により吹き飛ばされたが、体力は問題ない。
(後は姉さんの力で皆を)
壊滅状態のクランを救うために姉の元へ駆け寄る。
その途中、ふと、ミナモに言われていたことを思い出した。
『何かあったら連絡頂戴、そこのお姉さんとか』
余裕が少しできたのだろう、思考が正常に動き出す。
(そう言えばそうだった、ミナモちゃんはこれを予見していたの?
すごいわね、やっぱり只者じゃない)
何者なのか知りたい気持ちが強くなる、ただ今は目の前の事に集中しなければならない。
(けど今はミナモちゃんに連絡なんてできない、この件を片付けないと)
姉の元へ瓦礫を抜けて辿り着き。
「……え?」
そこで白い女性、ナガレに似た人型の生物が純白を纏い、神々しい剣を握りしめていた。
その背には化身にあったはずの翼を広げて、ただただ天を眺めていた。
「姉、さん?」
呼び掛けても反応が無い。
「姉さん」
再び呼び掛ける、するとカクっと不気味にエルニカへ視線を向ける、口が裂けて目が自立するように不気味に蠢く。
「ね、さ……」
理解した、理解してしまった。
ここに居るのは姉などではない、今まで対峙ていたただの獣なのだと。
そして自分がやらなければならない事が、真っ白な頭の中で一つだけ冴え渡って見えた。
「私が、やらないと――」
刀を抜きよろよろと近づく。
ケタケタ――。
そんな笑い声をあげて化身、いや、天使が剣を天へと掲げる。
「礼ダ、オ前ヲ浄化スルノハ最後ニシテアゲル」
「姉さんの声で喋るな!!」
近づき剣を振り上げるが、不可視の力で阻まれ抵抗もできずに吹き飛ばされる。
転がり、視界が空を捉える、そこには巨大で複雑な術式が刻まれた魔法陣が展開されていた。
(なに、あれ……)
見たこともない巨大な魔法陣、刻まれた術式もその発動する規模もあまりにも規格外であった。
普通ならば発動しない、発動するにはあり得ないほど膨大な魔力が必要だからだ。
だというのに天には構築することすら難しい魔法陣が描かれていた。
(あんなのが、発動したらッ!)
発動する魔法の種類は分からない、分からないが発動させてはいけない事だけは分かる。
「どう、して」
立ち上がり攻撃を仕掛けようとするが、攻撃は見えない壁に阻まれ再び吹き飛ばされる。
「……どうしてなの」
もう打てる手はなかった。
「見ルガイイ」
剣の先から一筋の光が昇っていく。
それが魔法陣に触れると、魔法陣が光り輝き。
「コノ街ノ終ワリダ」
「だめ――――」
エルニカの制止も虚しく魔法が発動した。
刹那、雨の様に光が不規則に降り注ぐ。
光が当たれば蒸発していき、周囲を消し去っていく。
『嘘だろ、こんな事って―――』
『嗚呼、NPCが……』
『き、消えていく! 何もかも消えていく!!』
『俺の大事な装備が、うわぁぁぁ!?』
『終わり、なのか?』
クランチャットでは悲鳴が轟きエルニカの心を蝕む。
だというのに自分だけは何も起こることは無かった。
「なんで、ここだけ、降ってくれないの……」
「最後ト言ッタデショ」
無情にも二人の居る所だけ降り注ぐことは無かった。
いっそ自分を消し去って欲しい。
しかしその願いが叶うことは無い。
「助けて」
自分ではもうどうしようもない。
だからもう誰でも良いから助けを呼んだ。けれど誰も彼女を救うことは無い。
『何かあったら連絡頂戴、そこのお姉さんとか』
「助け、て……」
ミナモの声が木霊する。
エルニカは縋る様に、震える手でメニューを操作し。
『ミナモ、ちゃん、……たすけて!』
『仕方ないなぁ』
赤い閃光が彼方より走った。
「助ナド来ヌ」
閃光は剣を構え。
「ッ―――!!?」
「異変起きたらって言ったのに」
振り下ろすと、天使の左半身が消し飛んだ。
倒れ伏す天使の頭をヒールで踏みつけて赤い姿のミナモが見下ろす。
「貴様ダレダ」
「誰でも良いじゃない」
ミナモは天使の頭をボールの様に蹴り飛ばすと、頭と体が別たれどちらも転がっていく。
「ミ、ミナモ、ちゃん?」
姿が似ているが、衣装も雰囲気も別物にしか見えなかった。
光明、だがミナモは攻撃を行う事無くそれを眺めていた。
「早く逃げないと、もっと虐めちゃうよ、ホ・ム・ン・ク・ル・ス」
「我ヲ舐メルナ」
「舐めてるから虐めてるんだ」
「我ノ覚醒セシ力、見セテクレル」
天使が剣を構えると金色に輝き光を纏う。
「ミ、ミナモちゃん!」
「フザケルナ」
次の瞬間天使が矢よりも早く迫りくる。
が。
「ナッ!?」
指先一つで剣先を止める。
止められた反動が来たのか、剣を握っていた腕が破裂しその場に崩れ落ちた。
「バカナッ」
「何そのテンプレ対応」
ミナモが溜息を吐くと、天使は吐息に氷漬けにされた様に身動きが取れなくなる。
「何カノ、間違イダ……、覚醒セシ、全力ノ一撃ヲ、我ガ……」
「あほらし、辞めたら天使ー、君向いてないよ、もう帰っていいから」
これでもかと煽るミナモであるが、天使は聞いてはいない。
再生した体で襲いかかるも、ミナモに軽くあしらわれて再び地面に這いつくばる。
「帰ってくれー」
そしてミナモはこれでもかと帰るように促す。
(……元々助ける気はなかったし、こんな惨状になるとは思わなかったのになぁ。
そろそろ挫けて親玉の所に帰ってくれればいいんだけど)
ミナモは逃げ去る天使を追って、親玉などの姿を拝むつもりでいたのだが、天使は一切逃げようとせずに再び立ち上がり挑もうとしてくる。
「あのさぁ、羽の生みの親に助けを呼んだら? そしたら合体できるじゃん、ホムンクルスならできるよね?」
「羽ノ、生ミノ親? 貴様ハ何ヲ言ッテイル、ホムンクルス?」
「……は?」
「天ガ我ヲ選ンダ、ダカラ我ヲ祝福シテ清メテクレタ」
「冗談でしょ?」
ミナモは左手で頭を軽く掻きむしる。
「……情報が一切与えられてないのかよ」
落胆し、振り返りエルニカの元へ向かう。
彼女はただ見上げ、きょとんとミナモが不気味の微笑んでいる光景を見続ける。
「ねえ」
彼女はただ笑い、手を差し伸べる。
立たせてくれるのか、そんな疑問をかき消すように、差し出した手には漆黒の刀が現れた。
「これあげる」
漆黒の柄、漆黒の鍔、漆黒の鞘、きっと刀身も漆黒なのだろう。
しかし黒いだけで見た目は刀という事には変わりがない、その纏いつく重苦しく湿り気のある雰囲気を除いては。
「これで力が得られるよ」
触れてはいけない、近づいてはいけない。
それがミナモからなのか刀からなのか分からない、ただこれ以上踏み込んではいけない領域がすぐ目の前にある。エルニカはすぐに分かった。
「お姉さん、助けたいんでしょ」
姉の為、その一言が無意識にその手を伸ばしていた。
(そう、助けないと……)
―――コツッ。
しかしその時石同士がぶつかる音がした。偶然、奇跡とも言える小さな音、それがエルニカの気を引き、その先に居る変わり果てたナガレの姿を捕らえた。
(――あんな姿になりたくない)
震える手をゆっくりとひっこめる。
(駄目、断らないと、それは駄目なの、踏み越えちゃいけない……)
首を振り、そして視界に入ったミナモの顔にゾッとした。
「口惜しや、……口惜しや」
開いた目は奥底など無く漆黒、歪んだ口は人の物ではない。
「もういいや」
身動きが取れなかった天使の身体が動き出す。
しかし天使の持っていた封具、耐久のない剣が一瞬にして消し飛んだ。
「君、消えていいよ」
そして天使は跡形もなく消え去った。
残されたのは、天使の居た場所に剣を向けるミナモだけ。
「帰ろ」
そして思い出したことがあったのか、へたり込んでいるエルニカの元へと移動し。
「お姉さんに異常があったら教えてね。
乗っ取られた後の変化とか気になるから、じゃ」
嵐は過ぎ去り、赤い流星がまた同じ方へと流れ戻っていった。
取り残されたエルニカは、訳も分からずぎこちなく笑みを浮かべて。
「は、ははは……」
訳も分からず笑うのであった。
☆☆☆
ミナモはぷかぷかと浮かぶイトウを眺めて声なき悲鳴を上げる。
「た、たった数分でまた沢蟹に負けてる、嘘でしょ……」
急いで回復魔法をかけて、その場にへたり込む。
回復を行うと再びピチピチと動き出して元気に泳ぎ始めた。
「収穫はないし、意外と蟹が強いしで、蟹をテイムした方が良かった気がする、流石に限度が……」
対蟹に至っては全戦全敗、イトウは小さな蟹に勝つこともできなかった。
ミナモは膝を抱えて、ため息をつきながらレネへと連絡を試みる。
『……やあ』
『やあじゃないよ!? 街がヤバいって聞いたけど、何で教えてくれなかったの!?』
『……街が滅んでも情報は得られなかったよ』
『は? え? どういう事?
と、というか、あれって、天使だよね? SS見たけど天使だよね!? 人工的に天使を模したホムンクルスだよね!? なんで黙ってたの!?』
『待ってくれ、言い訳を聞いてくれ』
『言い訳って』
『奴は羽が天からの贈り物だって言って何も知らなかったんだ。
私は悪くねぇ! アイツが悪いんだ! 私は悪くねぇ!』
『最低だよ!!
う~、居なかったボクが言えた義理じゃないけど、なんとかならなかったの?』
レネはそれでもレベル上げを優先してしまった。
人を責める義理は無く、このもどかしい気持ちを空にぶつけるしかなかった。
『……ました』
『ん? なんだって?』
『イトウさんの育成をして遠征してました』
『あのねぇ』
『だって退屈なんだもん! シャルだって退屈だからレベル上げ行ったじゃん』
『それを言われるとなんも言えねぇ……』
二人は無言となり、互いに居心地が悪くなったのか。
『そ、それよりも、調子どうよ』
『ま、まあ、それなりに』
適当な話題を作り話を変えていった。




