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スガサベリという街は交易の上に成り立っていた街であった。
国境を中心に両国の物流の流れの拠点となり交易を行い、互いの国の利益を与える重要な拠点であった。
「それがこの有様か……」
何もない更地が広がる大地、繁栄した街はその姿を一夜で消し去っていた。
周囲を見渡し、残るのは建物の残骸らしき物だけで、それ等は不自然に削り取れたような状態で残っている。
「プレイヤーは混乱状態です」
そんな光景を見た者は誰であろうと混乱する。
町が一つ消し飛ぶなどあってはならない、存在するはずが無いのだから。
たった数時間で全プレイヤーがその事実を知り驚愕した。
「混乱したのは何もプレイヤーだけではない、NPCもだ」
国境を越えた二つの国が頭を抱える。
情報を仕入れようと各国がスガサベリを目指し、その光景に目を疑う。
「嗚呼、頭が痛い」
「大事な交易の場所ですからねぇ」
「お前は呑気だな」
「そりゃ、私は護衛ですから」
「異世界の政治というのを楽しみたいが、……流石にこれは俺の手に余る。
こういうのはプレイヤーの仕事だろうに」
「中間管理職ご苦労様です」
シェドという貴族はプレイヤーである。立派な正装を纏い、似合わないオールバックをした悪魔の角を生やした男性。
傍には彼の護衛であるサンダルゴトウというネズミ耳の男性が、ひょうひょうとした様子でシェドを眺めていた。
「俺を見て楽しいか?」
「ハハハッ」
「……クッ、胃痛がしそうだよ」
「VR内部だから多少緩和してるでしょ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「私じゃないですよ、謎の敵性存在か、ここを守っていた人達に言ってください」
シェドは周囲をもう一度見まわし。
「……責められんだろ、こんなの」
「常識人なら当たり前です、ちなみに私は常識人です」
「ツッコミ待ちか?」
「こんな状況でよく冗談なんて言えますね、非常識な人だ」
「なぐりとばしてぇ……」
シェドはその場に腰を下ろして腹部を撫でる。
ふとしゃがんだ時に、一部景色が記憶と重なり、この街の思い出が蘇った。
「……俺はな、初心者のころ頑張ってこの街に初めて来たんだ、結構な遠い道のりで、四苦八苦しながら。
辿り着いた時に美味しい喫茶店に真っ先に行って、宿が取れなくて野宿で……」
「私もですよ」
感傷に浸りながら再びため息を漏らす。
しばし哀愁漂う雰囲気を漂わせていると、近づいてくる人物たちが居た。
「ダンガードの所と」
「花鳥風月のクランマスターですね」
やってきたのはダンガードのクランのミッドレアと花鳥風月のナガレだ。他にも数名後ろに居るが雰囲気は最悪だ。
ナガレは酷い状態で、今にも泣き崩れてしまいそうなほど顔色が悪い。
「シェド」
「ミッドレア、こっちに来てたのか」
「ああ、流石に現場は見に来ないと何も始まらん。
お前こそメルテトブルク、いや、メルシュ王国の使者か?」
「重役が居るなら救出だとさ」
メルシュ王国、首都メルテトブルクとし繁栄を広げる国家。
シェドはその国家に支える官僚となっていた。
かつての国に貢献したことでその功績を認められて、今の立場になっている。官僚と言っても小間使いにされる。
特にプレイヤー達との間を取り持つ事が主な役目である。
「ミッドレアはLo10の使いっぱしりか?」
「この場にほぼ全員集まってるから自発的に来た。
全く街の護衛はどうしたのやら」
「護衛なんて意味ないだろ」
「……違いない」
その言葉にナガレが震え、傍にいたエルニカが抱き着き慰める。
「責めてるわけじゃない、気にする事なんて一切ないだろ」
シェドがフォローを入れるが、ミッドレアは首を振った。
「結構事情があるそうだ。
それをお前にも話さないといけない」
「……聞きたくなるような内容じゃないだろうな」
「これからのプレイヤー全体に関わる情報だ、聞いておけ」
話し辛いナガレの代わりにミッドレアが語りだす。
壮絶な一夜と暴れ回る化け物、封じられた武器と化け物との関係を。
聞けば聞くほど頭を抱える情報にシェドは目を伏せた。
「……俺も封具持ってるぞ」
「奇遇だな、俺もだ」
「異常な力、化け物に取り込まれる、封具も化け物の一部の可能性がある、……胃が痛いね」
「おいおい、人間が化け物になる事を忘れるな」
「……普通の人間が突然化け物にって、シャレにならない。
もしも国の王がなって見ろ、……本当に洒落にならないだろ」
対策も何も思い浮かばない。
それまで黙って聞いていたサンダルゴトウが尋ねた。
「それでその化け物ってどうなったの? というかそこの人がなったんだから、どうなってるの?」
「さらなる化け物がそれをやっつけた」
「はい?」
「正義のヒーローでも来たって言うのかい?」
「俺にも分からねぇよ、ただ間違いなくそいつは全てを知ってる」
「なんで分かるの? 話したの?」
「話したらしいが……」
ミッドレアはエルニカに視線を向けると、いたたまれない様に目を伏せてポツリと呟く。
「ごめんなさい、多分細くてすぐに千切れる糸なの、だからその糸を途切れさせたくないから、深くは言えない……」
エルニカはミナモに色々と尋ねたい気持ちで一杯だ。
しかし関係性から深くは関われず、しつこく聞くと関係を断ち切られる可能性が高いと感じ、名前などを口にすることは無かった。
「頼みの綱でもあるんだ、交渉はこの子に任せたい」
ミッドレアも異常な力を持つその人物に下手に手出しをしたいとは思わず、エルニカに全てを任せた。
「それにさ」
「ん?」
「俺達が何もできないとは思えない。
訳の分からない奴に縋るよりも、出来る限り自分たちで解決しようぜ」
「随分前向きだな」
「そうじゃなきゃおかしいだろ」
これはゲームなのだから、その言葉は野暮で口に出すことは無かった。
「けど、出来るなら協力を仰ぎたい」
それはナガレの口から出た。
「乗っ取られて意識だけがあったから分かる、誰であろうと敵わない、だから私は協力を仰ぎたい」
ナガレの意識は乗っ取られた後もしっかりとあった。
だからスローモーションの中で見たミナモの『見えない幾多もの斬撃』を感じて確信した。
「あの子は地上最強、いえ、きっと地球上誰よりも強いわ」
誇張などなく、それがナガレが自信を持って言える事だ。
だがもしもミナモがその場に居たらこう言うだろう。
「あ、それは絶対に無いっす。
少なくとも20人以上は必ず私より強いの居るから」
とはミナモは言えず、遠くから答えた。
無論その言葉は誰にも聞こえることは無く、ミナモは恥ずかしそうに頬を掻く。
「ま、あの人に何の異常もないようだし、そろそろ移動するか」
ナガレに異常がない事を確認し、ミナモはメルテトブルクへと帰路についた。
「蟹にも強さがあるとはなぁ」
弱い蟹が居る場所で、滝を登るトレーニングするために。
☆☆☆
ゴルシホラ、その地下で、主神に乙女が祈り続ける。
その後ろには、今回の事件でメンバーが集まり、深刻な顔で話し合う。
「あの町の壊滅、それに封具、……我々は大丈夫なのでしょうか?」
「撮影した化け物の我々で勝てるのかどうか」
不安が伝播し、誰も答えが出せずにいた。
Lo10のシャスティナはただ目をつぶり唸る。
「……聖遺物は違う、だが、……実力者が居てあの力では、我々も聖遺物を覚醒しても対処できるかどうかわからない」
「もっと深く、聖遺物と同調できればいいのですが」
そこでフェルトが小さく手を上げて尋ねた。
「逆に相手をせず、本来の目的に打ち込むのはどうでしょうか?」
「見捨てろというのか?」
「現状ではどうしても手が届きません。
ですから、表面上対策を考え、今は力をつけるために特訓を、と」
「……確かにそれが良いかもしれないが」
反応は悪い。
しかしそれ以外で、彼等に出来る事は少ない。
「信徒を使うのはどうでしょうか?」
「下手に巻き込めない、我々で対応するしかないだろう」
「しかしこの街もただ事ではないのですよ」
その時ぴしゃりと、祈っていた少女が声を発した。
「大丈夫です」
思わず開いた口が閉じ、自然とそちらの方へ視線が集まる。
「主神様が言いました、この国が襲われる事は無いと、その為の結界を展開していると」
「……本当なのですか?」
今のところ戯言にしか聞こえない。
託宣は間違った事は殆ど無い、信頼はしているつもりでも、目に見えた効果を確認できないのでは、信頼するには難しい。
シャスティナも不安で、補佐する事は出来ない。
しかし目の前で奇跡が起きた。
突然何もない空間から一つの白い槍が輝き現れ、それが少女の元へ落ちてい来る。
「なっ!?」
「そ、それはいったい!?」
「……なんと、神々しい」
それを少女が両手で受け取り、そして膝をついたまま天へ掲げる。
「――確かに」
ポツリと呟き、そしてゆっくりと立ち上がり、振り返る。
皆を見回し、女神の様に微笑んだ。
「安心してください」
槍を床に付く、清浄な気配がそこから広がり、全員に安堵感をもたらした。
そして少女が純白の翼を広げる。
「お、おお!」
一瞬で魅了するその姿に、神を見た。
「この力も主神様が齎したものです、疑わず、ただ祈るのです。
さすれば、貴方達にも御力をお与えになるでしょう」
そしてまた振り返り、主神の像へ目を閉じて祈り始めた。
それに倣い、片膝をつき手を組む。
不思議と不安が消えて行き、力が溢れる様な感覚に襲われた。
「これは、……なんと温かな光」
「不思議と力が溢れます……」
「これが主神様の、御力」
疑いが消えて行く。
これから彼等は使徒となり、主神の言葉通りに行動する事だろう。
その中でシャスティナが立ち上がり皆を見回した。
「我々の目的は変わらない、NPCに仇なす者を排除する。
それがプレイヤーでも化け物でも変わりはしない」
その言葉を改めて心に刻み、ただ首を垂れる。
「そして民を導きましょう」
祈りの乙女が口にすれば、皆が団結した。
その乙女の歪んだ笑みを、誰も知る事は無い。ただ一柱の神を除いては。




