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「ねえ、なんで分かったの?」
「なにが?」
「あっちに何かあるって」
地面から延びた木の根に足を取られながら、フィーネは必死にミナモに食い下がる。
初めてのゲームだというのに、ミナモは一切足を取られる事無くぐんぐんとスピードを上げていく。
「そりゃこのゲームもアウトセンスが働くみたいだからね」
「アウトセンス……、心眼か」
心眼と言っても、VR空間の穴を突いたテクニックである。
「というかどういう原理? まるで意味が分からない」
「う~ん、思い込みが重要で、VRデバイスが誤認して実際に遠くの映像見せてる感じ」
ドローンで遠くの映像を見る様に、視点を移動させる事が可能だ。この技術を使い、地図を見る事無くフィーネを見つける事が出来た。
「撮影モードを何処までも制限なく視点移動できる、あれだよ」
「あれって言われても困る…」
人間の脳や思考を読み取るシステムの誤作動がアウトセンスの本質である。
納得のいかないフィーネが、試しに遠くが見えないか試してみるが、眉間の皺が増えるだけだ。
「無理なんですけど」
「なら努力でもしなよ」
若干棘のある言葉にフィーネが呻いた。
「何処まで見えるの?」
「スペコンとロボゲーで鍛えたから、このゲームでは軽く1キロ以上は」
「そこまで……」
「シャル、じゃなくてフィーネも使えたよね」
「ほとんど無理だよ、なんとなく相手の動きが遅く見えるかもしれないってくらい」
「軟弱者め」
「君が異常なんだよ、第一アウトセンス自体が世間一般じゃ都市伝説だよ都市伝説。
廃人の一部が存在知ってるだけでしょ」
「そりゃ訓練しないとできないし、デメリットもあるし」
「現実の肉体に影響出るってヤツ?」
「それが問題。慣れないと肉体の感覚がおかしくなるから。
簡単に広まっても困るよ」
「何故そこまでやるのかさっぱり分からない」
「負けるのって、嫌じゃん……」
ミナモがそっぽ向くが、フィーネにはその意味が分からずにいた。
どちらにしろ強い執念が無ければ、アウトセンスは発現できない。
「それでもよくやるよ」
「馴れればいいだけだし」
「どう馴れるのさ」
「肉体の感覚を失わない様に常に運動したり」
「運動って。そこまでするの?」
呆れて言葉も出ない。
ただの遊び、そこまでしなくちゃいけない事がフィーネには苦痛に感じた。
「で、何があるの?」
「ん? なんか大きな猪が、多分プレイヤー4人と戦ってるよ」
「大きい猪? ここにそんなモンスターは……、ジプシーモンスターか!」
フィーネは急に大声を上げ、走る速度がぐんぐんと増していく。
純粋なステータスが身体能力に影響しており、2人の距離が逆転し始めた。
「むむ、じゃあこっちも速度上げないと」
現在の肉体がどれだけ稼働するのか試してみたくなり、深呼吸後におもいきり地面を蹴った。
(ふむ、思いのほか動くな)
ぐんぐん加速していき、同速からさらに加速していく。
「は、早い、それもアウトセンスだよね?」
「まあね」
原理は火事場の馬鹿力と同じだ。窮地に追いやられた時に底力を発揮する。
その原理を意図的に引き出すのがアウトセンス。
「うわっ!?」
「ほら」
追いつこうと必死に走るフィーネだが、木の根に縺れ転びそうになる。咄嗟にミナモが支え、体勢を整えた。
「あ、ありがと」
「早く行こ」
腐葉土も相まって足場の状況は悪い。しかしミナモは舗装されてる場所の様に走っていた。
ミナモはフィーネを抜き、さらに引き離そうとしたのだが。
「空気読んでくれよ」
目の前に飛び込んでくる影に邪魔され速度を少し落とした。
「邪魔だっての」
現れたのは狼型のモンスターであった。
即座に武器を構え、走る勢いを殺さずに戦斧で薙ぐ。
狼は勢いと共に吹き飛ばされ樹木に激突する。
「え、一撃?」
打ち付けられた狼はぐったりと横になり、粒子となり天へ霧散していった。
残されたのは、突然現れた獣の皮のみである。撃破報酬のアイテムであった。
「ここのモンスターを一撃って、やっぱりアウトセンスっておかしい」
「雑魚敵だろ」
「一応ここって敵が固い、動きが早い、経験値が不味いの不人気狩場なんだよ、だからここに人が居ない」
好き好んでこの森で狩りをする者は少ない。
事情がある者以外は安易に踏み入る事はしないだろう。
「お、レベルが2上がってる、意外と入るじゃん」
「一応1.5ランクくらい上の狩場なんだ、普通なら次の次くらいにくる場所、これで全然経験値が無いなら価値は無いよ」
「今度はネズミみたいなのだ」
「あ、そいつは――」
フィーネが解説する前に、斧を振り上げて攻撃する。しかし攻撃は当たったが撃破には至らず。
ネズミモンスターは宙で態勢を整えミナモへ鋭い視線を向けた。
「ほいっと」
しかしネズミがミナモを捕らえることはできない。
何故ならば切り上げたと同時に地を蹴り飛び上がり、頭上にあった太い木の枝をバネにし、頭上から斧を振りかざしていたのだから。
「――当たり難くて、素早いし、軽いから……」
解説が終わる前に撃破し、ドロップアイテムのネズミの尻尾を無視して駆け出していた。
圧巻の速度に、本当に今日始めたばかりのか疑いたくなる。
「ああいうタイプの対処は分かってるから」
体が軽いほど衝撃で吹き飛びやすく、致命傷にはならない。
振り下ろす攻撃が一番だが、走ってる最中はどうしても振り下ろす攻撃が難しい。
「で、ジプシーモンスターって徘徊する強いモンスターって事で正解?」
「……正解、ユニークモンスターだったり通常の強個体だったりと、テイマーやドロップ狙いの人にはとても人気だよ」
「テイマーかぁ、テイムできるのか」
テイマーとは、モンスターを手懐け仲間にするジョブである。
仲間にしたモンスターと共に行動できる為、旅の良きパートナーにもなるだろう。
「進化したり、モンスター専用スキルもあったり、陸空海の移動用にもありと、かなり人気のジョブだよ。
最初は不遇だったのにな」
「じゃあ何で精霊使いが不人気なんだか、もっと研究されれば良いのに」
「昔は逆だったんだよ」
遠い目をするフィーネ、虚無な表情からは、嫌な事があったのは明白であった。
「各属性の魔法攻撃が一つに纏まってて、精霊を憑依させて自己バフを付けれる。
こんなのが弱いわけがない、……と思ってたんだけどね」
「弱体化でも食らった、ってよりは周りの強化スピードについて行けなくなったのか」
「そう。
精霊との契約も大変だし」
「契約? なにそれ?」
「え?」
「え?」
走る速度が遅くなり、互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「君、ちゃんとジョブは精霊使いにしたよね? チュートリアルで契約した?」
「チュートリアルは飛ばした」
チュートリアルをすることなくゲームの世界に飛び込んだ。
本来ならば操作などを覚える為に行うのだが、ネットゲーム馴れしているミナモは不要と思っていた。
「……ボクは詳しい事知らないから、自分で調べるか、スキルの詳細でも見て確かめて」
「そうする」
「ちなみに」
「ん?」
「契約しないと精霊魔法が使えないよ」
「私何も使えないじゃん。
ま、いいか」
フィーネは「良くない」と言ったが、ミナモのプレイヤースキルなら必要ないと結論に至った。
「そろそろだよ」
視界が開けていく。木々の隙間から差し込む光が強くなる。
茂みから飛び出すと、目の前には5mは超える大きな巨体の猪が暴れていた。
猪が相手にしているのは1人のみ。他のプレイヤーは既に力尽き、消えていったようだ。
「くっそぉぉぉ!!」
猪が口端から伸びた牙でプレイヤーを串刺しにする。HPが底をつきモンスター同様に光の粒子となると消えていった。
「ふん、雑魚か、イクゾー」
「何様だよ、まあいい、壊滅してもらって助かった、許可が無いなら横殴りになるからな」
横殴りとは、モンスターと戦っている最中に、他者が割り込んで戦う行為である。
「横殴り? それ公式ルール?」
「ローカルルール、けどかなり浸透してるし、許可なしで戦うのは流石に問題ある」
「なら知らん」
ミナモは斧を構え真っ先に飛び出した。
猪はミナモを得物と判断し突撃してくる、しかしミナモは軽々と横に飛び避ける。
すれ違いざまに猪は即座に顔をミナモの方に向けて牙で払うが、ミナモは空中で器用に体を曲げ避けた。
勢いで過ぎ去ろうとする猪。ミナモはまだ空中であるにもかかわらず、回避した時の勢いのまま体を回転させて斧の一撃を叩き込む、のだが。
「硬ったッ! 刃が潰れたぞ!」
分厚い鋼鉄の壁でも殴ったかのような強度で、猪に傷一つ与える事は出来なかった。
「当たり前だろ! 武器にだって耐久はあるんだ!」
いくら動きが異常でも、低レベルの初期装備プレイヤーだ。格上の相手に太刀打ちできるはずがない。
(ぬ? 何か来る)
通り過ぎていく猪から違和感を感じる。
その違和感はアウトセンスが掴んだものでゲームシステムのサポートではない。そしてその違和感はゲーム共通で悪い予感の前触れでもある。
(魔法か)
予感は当たっていた、突然牙付近からバチバチと帯電し始める。
「まほ―――」
フィーネが魔法と分かり叫ぶが、次の瞬間電は解き放たれ、四方に散っていく。
(遅い遅い)
雷撃は刹那の速さ、しかしアウトセンスによる恩恵でまるでスロー映像として映っていた。
自分の体も遅く感じてしまうが、回避自体は間に合う。
(これ次避けられんな)
しかし乱れる雷撃は一度だけではなく、回避した先にもまた飛んできていた。
体が動くならば回避は可能だが、肉体が応じようとはしない。




