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エルニカはミナモの言葉が気になって仕方が無かった。
ミナモの存在感が大きいからこそ、どうしても忘れる事が出来ず日に日に肥大化していった。
(ミナモちゃんは何か知ってたりするのかな? けどなんで姉さん?)
ミナモを不思議な子という認識のエルニカ、その不思議な子は何かを知っていそうという予感があるのだが、何故ナガレの話題になるのか意味が分からなかった。
(気になる……)
ナガレを注視していたら、何かが起こるのかもしれない。エルニカは見回りを中断して姉の元に向かった。
借りた家に向かうと、ナガレ以外は既に見回りに出ていて、一人退屈そうにリビングで寝転がっている。
「あら? まだ見回りの時間でしょ?」
「……姉さんを監視に来ました」
「え?」
謎の行動をするエルニカに困惑する。
理解に苦しんだナガレは苦笑いを浮かべながら訪ねる。
「わ、私を見ていても仕方ないわよ、ど、どうしたの?」
「姉さんに何かが起こる気がします」
「……そ、そう」
奇行を行うエルニカに頭を抱え、このままではいけないと思ったナガレが立ち上がる。
「異変ですか?」
「わ、私も気晴らしに外に出るわ、皆にばかり任せておけないから」
「姉さんはゆっくりロード達の話に備えてください」
「大丈夫よ、事態が動いた時くらいにしかもう呼ばれないから」
「そうですか」
(それにこの子の謎の行動をそのままにもしておけないし、……ストレスでも溜まったのかしら?)
エルニカの謎の行動をストレスのせいにし、気分転換に姉妹で行動し悩みを聞こうという考えだ。
「さ、行きましょ」
「はい」
二人は外に出て共に行動を始めた。
のだが。
「……ね、ねえエルニカちゃん、隣、歩かないかしら?」
「大丈夫です」
エルニカは少し引いた場所からナガレの後ろを着いて歩く。
歩くのもこの調子ではあまり休まらず、悩みを聞く事すらままならない。
(困ったわねぇ、何処かで食事をしてゆっくりとしないと)
しかし食事を取り始めたても、食べながらナガレを見守るだけであった。
食べ辛く、そして話しにくい、そんな状況に陥ったナガレは思う。
(もうこれでストレスが無くなるなら、私、我慢する……)
そして時間が過ぎていき、夜の帳が下りて来た時、クランチャットからはメンバー達の不満が昇ってくる。
『こう何もないと、暇っすねぇ……』
『最初は休日みたいで盛り上がってたのにね』
何も起きず、嘆くのは誰もかれも同じだ。
元の場所に帰りたいという話は、騒動からは出ていないが、内心全員が思い始めていた。
『ごめんなさいねぇ、けど明日で切り上げるって話はあるから、私達もそれに乗らせて貰う事にしたから』
『え? 大丈夫なんですか?』
『街を見守る組織を作って、そっちに委託する、という案が検討されてるの』
『検討? まだ確定じゃないんですね』
『なにせ敵の強さが未知数だから……』
敵は強く未知数、監視のみの組織を作り出すわけにはいかない。
組織に属すには強さや統率力が必要で、有象無象をメンバーに加えるわけにはいかない。
『必要に応じて出向して欲しいっていう話もあるけど、何処も渋い顔ね』
『そりゃ古巣を離れたい人居ないですものね』
『そうだそうだ、……古巣と言えば堅牢の件は本当なんですか?』
『もう広まってるのね。
本当よ、あのクランにはかなりの痛手よね、主力だったんだから』
『瓦解してほぼ機能していないって話は本当ですか?』
『あまり他のクランの事詮索しないの。
それに一応前線でプレイしてる人達、一人が抜けた程度で機能が崩れるっていうのは無いと思うわ』
堅牢フィーネ、そういわれた人物はかなりの実力者だ。
主軸に置く事で物事を進めていた為、クランには途轍もないダメージが入っていた。
『あ~あ、このまま何も起きずにさっさと戻りたい』
『俺この警備終わったら、前線で暴れるんだぁ』
『死亡フラグ止めろ、というかお前は支援メインだから暴れるな』
『ふふふっ、じゃあ見回りを済ませて休憩にしましょうか』
他愛もない話をしていると、フラフラとよろめく女性が居るのが見えた。
ナガレとエルニカが慌てて助けに駆け寄る。
「大丈夫ですか? あれ? 貴女は?」
「ああ、失礼、しました」
「姉さん知り合い?」
「ええ、何度かぶつかった事のある女性。
もう夜ですから家に戻った方が良いですよ」
支えられて顔を見上げた女性はそっとナガレの剣に触れる。
「ええ、そうします、家に帰りますよ」
壊滅した村に居た道具で働いていた女性がゆっくりと立ち上がり、ニコリと微笑んだ。
「だから」
彼女の笑顔は崩れていく。
「え?」
吊り上がった唇はこの世界の生物ですらなかった。
爆発音が断続的に鳴り響く、夜もこれからだというのに光が各場所から放たれる。
『な、なんだ!?』
花鳥風月のクランチャットからは驚愕の声が溢れていた。
周囲から巻き起こる悲鳴が狂乱を呼び、辺りは一斉にパニックを起こす。
『マスター! 何か起きてる!』
『そんなのマスターじゃなくても分かってる! 状況を知らせて! 空いてる人は控えてる人に連絡!』
クランメンバー達は各々行動を起こし始めたが、クランマスターだけはそれに応じることは無い。
『マスターはどうした!?』
ナガレからの返答は無くその代わりにエルニカが答えた。
『人に化けてたモンスターと交戦中! ……劣勢』
『っ!?』
ナガレとエルニカは交戦中であった。
対峙している相手は筋肉質で大人の身長二倍はある白い人型、清廉の化身であった。
「ハーケンッ!」
ナガレが剣劇を放つが、化身はそれを回避することなく攻撃を受け入れる。
「ソノ程度カ」
只管攻撃を入れるが、化身の体に傷一つ付くことは無い。
エルニカが渾身の力を込めた居合を試みて、やっとその表面に傷が出来る程度であった。
「フンッ」
小賢しいと化身が腕を振るう、回避が遅れ、エルニカは建物に叩きつけられ、壁を突き抜け室内に転がる。
「なんて馬鹿力……」
死ぬほどでないが、今まで対峙してきたモンスターとは一線を画す相手であった。
ポーションを体に振りかけ、即座に戦線に戻ると、ナガレが封具を構えて意識を集中して対峙していた。
「エルニカちゃん、発動させるまでの時間を稼いで」
「え?」
「お願い!」
「分かったわ」
何かをしようとしている事が分かり、エルニカは集中して化身に攻撃を再開する。
「イイ、イイゾ」
相手は言葉を話すが、その内容が理解できない。
言葉の意味が分からずとも、その意味を切り捨てる事も出来ない、戦闘に集中しながらも相手の言葉に耳を傾ける。
ナガレは必死に構えたまま、祈る様に焦り続ける。
(くっ、発動までもどかしいっ、皆は無事かしら……)
黙っている間にも、クランチャットからの悲鳴は続く。
『コイツやば―――』
『遠距離に離れても―――』
『前衛が壊滅した! 早く援軍を呼んでくれ!』
酷い惨状であった。
花鳥風月は自他共に認める実力者集団だ、トップかと言われれば違うが、それでも実力は確かなものであった。
だというのに今はそれが嘘の様に劣勢に立たされている。
(どうして……、思いあがっていたの?)
周りからもてはやされていたが、その自信が無くなってゆく。
(こいつは、一体何が目的なの?)
自分たちが生きているのが不思議なほど、クランメンバー達は壊滅状態に陥っていた。
何故今生きているのか、遊ばれているのか、相手の思惑が見えない。
(けど、その余裕が貴方の仇になる)
封具から光が発しまとわりつく。
ナガレの腕は震えだしたが、それは刀身が振動しているからだ、それを必死に力で抑え込む。
「もう少し持ちこたえて!」
エルニカは返事が出来ないほど追いやられていた。
(真面に攻撃もできない、食らえないッ!)
6本持っていた刀は残り二本にまで減っていて、すでに現在持っている物も刃こぼれがひどい状態だ。
攻撃するたびに阻まれ刃が損傷していく、しかし攻撃の手は休めるわけにもいかず、エルニカは死に物狂いで肉薄する。
「千恋歌ッ!」
いくつもの斬撃が化身に襲い掛かるが手ではねのけられる。カウンターの拳がエルニカ目がけて飛ぶ。
エルニカは即座に体をひねらせ回避し、化身の周囲を伺うように走り回る。
(多分遊ばれてる)
化身は強い、容易にエルニカを仕留める事が可能だ。それをエルニカは分かっていた。
目的が分からないが、今はナガレの時間稼ぎが目的だ、ならば逆手に取り時間稼ぐまで。
(悔しいなぁ……)
強くなったと思っていたエルニカであるが、強敵と対峙し遊ばれ手も足も出ない事が悔しくて仕方がない。
(だから、せめて)
せめて相手を少しでも焦らせたくなる。
「本気で行きます」
刃こぼれして使い物にならなくなった刀を一本殴り捨て、左手を鞘に、右手を柄に手を当てる。
そして一呼吸後、エルニカの速度はぐんぐんと増していく。
「ホォ?」
動きが変わったことで化身が興味を示した。
どれほどの力があるのか試すために攻撃を仕掛けるが、拳のスピードではエルニカに当てる事は難しい。
「エルニカちゃん、それは!?」
「反動がきつくても!」
エルニカの今の状態はアウトセンスに片足を突っ込んでいる状態だ。
(私は知った、アウトセンスを!)
エルニカがアウトセンスを知ったのはミナモと別れた後だ。
あの後ミナモと話すために姿を探したが、その姿を見つけることは出来なかった。
そんな時に馬車を護衛していた男の子の一人、セブラにアウトセンスの事を尋ねられた。
『アウトセンスって知ってるか?』
『アウトセンス?』
『知らないのか、……俺はそれを会得する、絶対に強くなってやる』
ミナモの事を訪ねたのだが、帰ってきたのはそんな言葉、それが気になり調べてみると、アバターの性能を引き出す事と判明した。
そして自分が護衛の時に陥った状態なのではないかと推測した。
(あの時は無我夢中だったから分からなかったけど、多分アウトセンスの領域に入ってた)
レベルの違いやブランクで勝てる相手ではなかった、しかしミナモに背中を押されて、本当にバフをかけられた気で思い切り動いたのだ。
結果通常より何割増しで動くことが出来たのだが、その後動いても通常通りにしか動けなかった。
(だから私は何時でもあの領域に入れるように頑張った)
化身が拳を突き出したのを見て切りかかる。
その拳の速さが少しだけ遅く見え、自分の動きがいつもより早くなっていた。
先ほどまでなら切り傷がなんとか入る程度であったが、明確な傷が化身に付く。
(けど、反動が大きい)
何度も何度も練習し、そしてやっと領域に入る事が出来た。
しかし入った反動が現実に伸し掛かる。
(体の感覚がおかしくなった、ずっとこのままなのかと怖かった……)
アウトセンスが何故広まらないのか、話題にならないのか理解した。
次第に体が正常に戻ったが、その後アウトセンスの領域に足を踏み入れることを躊躇する様になってしまった。
(だけれど今回ばかりは、私はこのまま何もできないのは嫌だ!)
踏み入れるのは怖い、しかし相手に好き勝手されるのが許せない。そして相手に一泡も吹かせられない事が耐えられない。
(けどあまり長くはもたないッ)
心拍異常を知らせる警告が表記され、視界を塞いでくる。




