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川のせせらぎを聞きながら、イトウに愚痴を零す。
「迷路以外に経験値稼げないもんかねぇ」
戦うこと以外で経験値が得られる要素は今の所無い。
「お、レベル6、ついにINTが10突破。おめでとうイトウさん」
レベルが上がろうが、マイペースに迷路から脱出し川を泳ぐ。
「……壁を破壊すぐギミックとかも必要か?」
わざと行き止まりにして、薄壁を破壊させてゴールを目指す方法を思いつく。
試しに作ってみる。最初は理解できないだろうから、イトウの前で指で突っつき壁を取っ払う。
イトウを知ってか知らずか、そこを通り抜けてゴールにある虫を食べて迷宮から抜け出す。
「……二回目で覚えてくれるかなぁ」
再び入り口に戻し、同じギミックの迷路を作りイトウを放つ。
しかし行き止まりで右往左往し続けるだけだ。
二回壁を壊して見せるが、虫を食べて満腹になり、迷路に挑む事は無かった。
「こいつほんま……」
餌で釣るのも限界がある。しかし他の方法で魚を褒めるのも難しい。
「犬猫なら褒めたり撫でたり、遊んだり? 色々できるのに、……魚なぁ」
他の方法が思いつかないため、その場に寝転がりただ只管空を眺める。
「……手間のかかるやつめ、せめて自分から色々動いてくれればいいんだけど」
自発的な行動はせず、ミナモに迷路に入れられた時にだけ動き出す。
水中から移動できるわけでもないため、常にミナモの介護が必要であった。
「……あっ」
ふとある事を思いつき、イトウに顔を近づける。
「此奴に魔法を覚えさせよう、そうしよう」
魔法が使えるだけで行動範囲は増える、水球を作ったり、移動させればさらに幅が広がる。
試行錯誤していくとどんどん日が傾いていく。そして思ったよりも早くレネが戻ってきた。
「早いね」
「それはそうだよ、走っただけでダメージを負うような状態で只管走っただから」
「……やっぱりシャルって隠れ天才だよね、前々から数時間で覚えて熟すし」
「そ、そう?」
「そして飽き性というか、壁に当たると無理だとあきらめてすぐに辞める」
「う゛っ」
シャルロッテという人物は、癒里にとって憧れであった。
何をしてもすぐに物事を覚えてそつなくこなす、癒里は何倍も時間をかけてやっと人並みにできるようになるのだ。
癒里が追い付こうとする頃には、シャルロッテは上手な人と比較し、壁を突破できず諦めていた。
飽き性ではなく、出来ない事が嫌で不貞腐れるタイプなのだ。
その事は本人は薄々自覚していて、それを直そうと最近志していた。
「ほんと、ずるい……」
望む才能があるくせに、それでも放り投げる事に嫉妬すら覚える。
「わぁ!? 胸を叩くな!」
「んだこの乳、もげろ」
一しきりレネを弄ったミナモは、再びイトウに魔法の使い方を見せる。
「何をしてるの?」
「魔法陣を見せて覚えさせてる」
「覚えるの?」
「知らん、だけど覚えさせないと此奴何もできないからね」
「体当たりとかはできるんじゃないの?」
「この魚に体当たりされてダメージ受けると思う?」
「……いや、まあ、うん、そうだね、魔法だね」
先ほどとは打って変わって、レネは真剣な表情になりミナモに尋ねる。
「それでさ、……あの花鳥風月のマスター」
「その話?」
「ひょっとしてあれって封具で、何かヤバイの封じられているか、あの剣そのものが危ない物だよね?
……しかもこの街に同じような変な気配がする」
「よく分かったね」
レネが街に戻ってきた時に街を集中して気配を探り、ナガレ以外からも似たような気配があるのを感じた。
「何なのさ?」
「それはこれからのお楽しみだよ」
「……ネタバレして」
「しないよ、頑張って暇に耐えてここに居続けると良い」
「むぅ」
この街に残り続ける事にメリットをあまり感じず、レネはすぐにでも別な場所でレベルを上げたかった。
しかしこの街で何かが起こるということは間違いなく、離れる事も出来ない。
「盗賊でも探して狩るよ、何かあったらすぐ呼んで」
「いってらっしゃい」
翌日からレネは暇つぶしに周囲の盗賊退治に出向く事になるのだが、有名クランが集結しているという事もあり、盗賊達は身を潜めて表には出てこない。
レベルを上げたいレネには、この長い退屈な時間に耐えかねてしまい。
「君に任せた」
「やっぱりか」
「事の顛末だけ教えて、旅に行ってくる」
レネは街を去った。
残されたミナモは一人寂しく監視すことになり、今日も今日とてイトウの世話だ。
「……おや?」
迷路を広げてイトウを設置すると、イトウはどんどん進んでいき、壁に頭をついては別な場所へと移動を始める。
そして一通り探索を終えると、壁に体を打ち付けて壁の破壊を試みていた。
「お前、やっと…」
何回も目の前で壁を壊したのが功を奏し、壁に体当たり出来る様になった。
ミナモは軽く感動を覚えつつ、イトウの様子を眺める。
体当たりするたびに体力が1減少するが、少し休んで次の場所を攻撃して薄い壁を探していた。
そしてついに目的の場所を攻撃し、見事薄壁を破壊して先へと進んでいった。
「かーっ、やったよこの子」
餌を取って食べる姿が少しだけ逞しく見え、ミナモはおまけにもう一つ餌を与えて褒めた。
「やっぱり成果がしっかりと出ると嬉しいもんだ」
イトウのレベルも上がり、ミナモは次の迷路の構造を考え始めた。
それからゲーム内で二日、変則的に壊れる壁を設置しては攻略させ、餌をやらなくても自発的に迷路に挑むようになった。
ついに念願のレベルが二桁へと突入する。
「祝レベル10、今日は生きの良いミミズだぞ」
攻略しレベルが上がったのを見てご褒美を与える。
ステータスは全体的にやっと二桁にも突入、ただしメルテトブルク周辺のモンスターと比べればそのステータスは低い。
「水生の生物なら行けるか? いや、行けるだろ」
周辺の魚よりも強いなら、その魚を相手に戦う事も可能なはずだ。
「さあ、イトウよ、今が戦いのとき!
魔法とかは覚えてないけど行けるだろ」
魔法はまだ覚えていない、INTが高く魔法使い系のステータスをしているが、覚えない以上仕方がない。
「さあ行くのだ、手始めにあそこに居る魚からだ」
ミナモは指さして指示するのだが。
「……あれ? イトウさん?」
イトウは言っている意味が分からないのか、その場で泳いだまま移動すらしない。
「イトウさんや、私の言っている言葉を分かるかね?」
やはり反応は無く、ミナモはその場にしゃがみ込み、膝を抱えて落ち込んだ。
「あー、そこからですか、あー、そう、そうっすかぁ……」
悲しい事にミナモの言葉はイトウには届かなかった。
「耳、無いもんね、そうだよね、匂いとか衝撃は感じ取れるけど、無理だよね。
今更だけど、そういうオチかぁ」
こればかりは解決できない、こうなれば手段は一つ。
「見て覚えさせるか、それしかないよね」
迷路同様にイトウに実践を見させて覚えさせる事にした。
なんとステータスが上昇した影響か、思ったよりも早くイトウは行動を移せるようになった。
ミナモは魚に近づき拳を叩き込み水中から叩き出す。イトウが真似を始め魚に攻撃を始めた。
「やればできるじゃん」
逃げる魚を追い詰めて体当たりをして、逃げたらまた同じ行動をして弱らせていく。
「……少し心苦しいが、成長には変わりないか」
同種ではないにしろ魚類同士の戦いは心が痛む。
「でも自分ですると何とも思わないんだけどなぁ……」
内心複雑に思いながらも、出来た事を褒める為に餌を与えた。
成果を上げたイトウと共に街に帰り、しばらく街を見て回る。
街の様子は初日と変わり、平常時と同じ平穏を取り戻していた。
花鳥風月のクランはまだ在中で、定期的に見回りをしている。
「ミナモちゃーん」
その見回りの一人エルニカがミナモを見つけると駆けてくる。
「まだこの街に居たんだ、どうしたの?」
「この街で面白い事が起きるまで待機中」
「え!?」
エルニカがかなり動揺して目を白黒させていた。NPCが化け物になるという情報が流出したのか不安になっていた。
「というのは冗談で、イトウさんを育成してました、川も近いですからね」
「そ、そうだったの……」
「その反応凄く分かりやすいですよ」
「……ミナモちゃんは詳細、知ってるの?」
「詳細って? 有名クランみたいだから、ここに居るだけで何かあるって言うのは誰でもわかると思うよ」
「そうよねぇ……、けど言えないわよ」
「大丈夫聞かないから」
「ごめんねぇ」
「頑張ってね、私も少しこの街に居るからたまに顔見せるね」
「ええ、またね……。
あっ、ミナモちゃん」
「ん?」
去ろうとするミナモをエルニカは呼び止め、そして心の片隅にあった疑問を尋ねた。
「どうしたの?」
「姉さんに何かあったらってどういう事なの?」
「う~ん、……まあ、感という事で」
ミナモの反応から何かある事は察せるのだが、それが何かは分からない。
喉に小骨が引っかかったかのように痛みと不安感を抱く事になる。
「それじゃあ~ね~」
「あっ」
ミナモはそれだけ確認し去る。
エルニカは見送るしかなく、自分も見回りに戻って行った。
「……はぁ、何もなさ過ぎて思わず言いそうになった」
ミナモの行動範囲が狭すぎて、退屈を持て余していた。
いっそ話してしまい事態を動かすことも考えたのだが、下手に行動すると事態を悪くする可能性がある。
「明日には動いてほしいなぁ」
ミナモのそんな願いは叶う事無く、翌日現実時間一日経過しても事態が動くことは無かった。
さらに翌日。
「……レベルが上がりにくくなってる、15にまで届かないかぁ」
丸一日使って迷路や壊せる壁で訓練をしていた。
他にも魔法陣を見せて覚えさせる事もしていたが、一考に理解してくれない。
「一から線を描くようにしてもダメだった」
魔法陣の基礎、魔力で線を描くという工程を何度も何度も見せたのだが、イトウは眺めるだけでそれを理解してはくれない。
「困った、沢蟹君がここら辺に居ないし、上流に行きたい」
幾つも案は浮かんでおり、激流を泳いだり、別な生物を相手にしたり、滝登りに挑戦したかった。
「けどなぁ、退屈過ぎるし、動きはないし……」
変化を起こせない事に鬱憤が溜まり、監視を放棄しようかと考え始めていた。
「そうだよな、動きが無いんだから少し離れるくらい大丈夫だよな」
自分に言い聞かせる。
頭の片隅で何か起きるかもしれないと警告するが、それでも衝動は止められなかった。




