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「マジ?」
「し、知らなかったの? ケーントゼッハ教団を襲ったって」
「ケーント、……ああ~、襲われた時のあれかぁ」
襲った覚えは無いが、襲われた時に相手側が捏造したのだと察した。
相手はプレイヤーの中でも有名な教団であり、知名度の無いミナモの立場は弱く、簡単に犯人にされた。
「襲われた?」
話が食い違っていて、エルニカは何か裏があるのだと察した。
「お願い、何があったか教えて」
「う~ん、どうしようかな、ネタバレになっちゃうし、内緒という事で」
「内緒って……、指名手配されてるのよ、一大事なの、呑気にしてる場合じゃないわ」
「え~、良いじゃない、指名手配、刺激的だし楽しいよ」
完全に二人の認識がずれていて、エルニカの求める要求は通りそうにない。
エルニカはミナモに恩義を感じていて、誤解なら手を尽くして指名手配を解こうと思っていた。
しかし本人は楽しむスパイスにしか感じない。昔ならば焦って怒り悲しんでいたのだろうが、今のミナモはそうはならなかった。
「常に狙われちゃうのよ……」
「別に良いよ、前やってたゲームでも宇宙海賊やってたし、その前の前は汚れ役の軍人だったし、刺激的だったから」
「この子に何を言っても駄目だよ、諦めなさい」
話に割って入ったのはレネであった。用事を済ましたようで、エルニカを眺めていた。
「昔は純粋な良い子だったのに、ネトゲに染まって汚れていったの」
「人を変な子扱いするんじゃないよ……、まあ事実だけどさ」
「けどケーントゼッハって天使関連だよね? 何時喧嘩売ったの?」
「この間巻き込まれて襲われた時だよ、いやぁ、もうじき戦争起こるみたいだし、裏で暗躍……あっと」
ノリのまま話していたら、戦争の事でつい口を滑らせてしまった。本来であれば内緒にしておくつもりであった。
二人は不穏なワードを耳にして、ミナモに詰め寄った。
「……ボク聞いてないぞ」
「え? 今、戦争って、え?」
戦争については一般的に知られていない。
一般のプレイヤーは愚鈍としたもので、戦争が起こる事など思ってもいない。
知っているのは政治に関りのある者や、情勢を調べている者か、偶然NPCから話を聞いた者くらいだ。
どの国もまだ戦争を起こすつもりもなく、ひっそりと軍備を増強して、表には出てはいない。
「ま、まあ、それは後のお楽しみという事で。
阻止されても色々困るし」
正義感のあるエルニカには見過ごせない話であった。
「そんな事できないわよ」
「まあまあ、落ち着いて」
詰め寄るエルニカを落ち着かせると、エルニカは周りを見て静かになり、ミナモの手を引いて裏路地へ連れ込む。
「と、とりあえず、変装とかできないの?」
「変装? う~ん、まあ、これくらいかな」
ミナモの姿が軽く光を放つと、瞬時に姿が変わった。
緑色のポニーテールと、ラフなシャツとジーンズの短パン、黒いオーバーニーソを履いた、活発な見た目そうな少女に変わる。
「……え?」
エルニカの変装と言うのは、フードを被ったりする変装の事だった。
完全に別人となり唖然とした。
「何その便利なの? ずるい」
「変装術を覚えるのに苦労したよ」
「それもう変装というか、変身じゃないの?」
「そうとも言う、ふふん」
勝気な表情をすると、生意気な悪ガキといった風に見え、レネは何処となく腹が立った。
「なんか腹立つ」
「何やっても腹立ちそう、カルシウム取れよ。
っとそうだ、適当に名前でも変えておくか」
プレイヤーネームがミナモからカルシウムに変わった。
名前すら変えられる事に驚くが、レネは名前にツッコミを入れた。
「適当過ぎない?」
「偽名を考えるだけ無駄だよ」
その後落ち着きを取り戻して、なんとか受け入れたエルニカと共に、近くの喫茶店へ向かい話をする事にした。
オープンテラスの雰囲気が良い場所だ。ちらほらとプレイヤーが居るが、多いわけではなく、静かに話が出来そうであった。
「……戦争って本当なの?」
「さあ? 私の虚言かもしれません」
はぐらかされ、もどかしくて仕方が無かった。
「自分で調べるしかないの?」
「はい、調べると新しい景色が見えて来るかもしれませんよ。
特に色んな方面から、様々な情報を手にしてみると、なかなか楽しいものです」
一つの情報のみでは偏りがある、複数の情報を得ればまた違った事実が見えてくる、ミナモはそれだけしか伝えられない。
「あ、そうだ、既に冒険者ギルドを抜けてるので、そっちに被害は出ないと思いますよ」
「え?」
「それが普通の反応だよ」
「って言っても、……いや、いい」
「なにその意味ありげな反応、めっちゃ気になるんだけど」
「何時か分かるさ」
仕返しと言わんばかりに、意味深な事を口にしてレネを困らせて、出て来た紅茶を口を付けて一息つく。
イトウにも何か上げようと思ったが、この場で虫を取り出して与えるのも問題だ。
「ミナモちゃんは、……魚釣りを始めたの?」
「テイマーを昨日から始めました」
「……何故魚?」
「弱いほど育てがいがあるので」
「そ、そう」
弱いにもほどがある。内心突っ込みを入れるエルニカだが、恩人の為あまり口には出せない。
それに常識が通じないという事も分かり、これ以上何か言っても無理だと察していた。
「お、来た来た」
NPCのウエイターが、注文したものをトレーで持ってくる。エルニカはちらちらとNPCを眺めてケーキを受け取った。
ミナモ達は出てきた物を警戒せずに食すが、エルニカだけは少しだけ警戒している様子であった。
「別に太らないからいいんじゃないですか?」
「え? あ、そ、そうよね」
エルニカはぎこちなく微笑みケーキを食べ始めた。
「うん、美味しい、お勧めって言われてたけど本当にそうね」
「そう言えば満足に旅先で食べられなかったなぁ」
「あれからずっと旅してまわってたの?」
「適当にぶらぶらと。
お金が共通じゃないですから、満足に食えなかったですけどね」
「え、交流のない国とかにも足を延ばしてたの? ずいぶんとまぁ」
このゲームは国によって通貨が違う。
国交が結ばれることで共通通貨が使える、ただし通貨のレートが違う為、プレイヤーを介入しない取引はあまりお勧めしていない。
そういう理由もあり、プレイヤー達の行動範囲は少しづつ勢力を伸ばしていた。
冒険をするためにミナモの様に飛び出る者も居るが、道なき道を進むのは相当な苦労であった。
「君が人恋しくなってメルテトブルクに戻ってきた意味が分かったよ」
「NPCだけってのも寂しいもんだよ」
「あはは……、私も分かるわ、別に悪くないけど、何処か隔たりというか、溝がある様な気がして」
相手がAIと思うと、コミュニケーションも虚しくなるという人もいる。本当に人間と変わりないのだが、NPCというだけで隔てりが出来てしまう。
「まあ、それ以外にも色々あるんだけれど――」
ミナモはふとアウトセンスの感覚に違和感を捕らえて、話を一時的に中断した。
「どうしたの?」
二人がミナモを不思議がっているが、ミナモは首を振って笑みを浮かべる。
「何でもないよ」
「そう?」
何でもないと言っているが、何かある気がして、レネは気が気でなかった。
会話が再開し少しすると、レネは違和感を覚えその場所に視線を向ける、そこにはプレイヤーが歩いており、その腰に帯剣した剣から強い違和感を感じた。
そのプレイヤーはレネが知る人物だった。
(花鳥風月のクランマスター……)
Lo10のメンバーであり、花鳥風月のクランマスターその人が喫茶店へやって来ていた。
「あ、姉さん」
「ん? あ、はろー。
あら? その子達は知り合い?」
「姉さん?」
ミナモはエルニカに姉と呼ばれた人物を眺める。気さくな金髪女性。黒い角の生えた優しそうなお姉さん、そんな印象をうける。
レネは警戒した様子で彼女を眺め、あまり良い気分ではなさそうだ。
「私は花鳥風月のクランマスターで、その子の姉、ナガレよ、よろしくね」
ナガレはため息を吐くと、エルニカの隣に座り込み、べったりと抱き着く。
「もう会議長かったー、エルニカちゃん、慰めて~」
「ね、姉さん、今はお話の途中で」
「妹がお世話になっています、……所でどちら様ですか?」
「なら割って入らないでよ。
こっちは、……お友達で、こっちがそのお友達です」
「そうなの? よろしくねぇ」
「よろしく~」
「けど寄るもの皆殺しって感じだったのに、丸くなっちゃって、おまけにカラ元気も治って、本当に助かったわぁ」
「姉さん!」
エルニカはタジタジで恥ずかしそうに身を縮める、姉妹関係という事もあり頭が上がらないようであった。
「そうだ、エルニカちゃんにお話があるの、すぐ終わるから待っててね」
「あ、いえ、私達もそろそろお暇します」
「そうだね、あまり長いも悪いし、用事があるみたいだから」
「そう? ごめんなさいね」
「ごめんねミナモちゃん、また今度出会えたなら御馳走するから」
「ええ、また今度」
二人は去ろうとした時、ミナモは思い出し振り返り尋ねる。
「連絡手段交換しません? 主にフレンド登録」
「え? そうね、私も色々話したい事あったから助かるわ」
フレンド登録を行うと、フレンド欄には偽名ではなく、しっかりとミナモと言う名前が表示されていた。
不思議そうにフレンド欄を眺めるエルニカを、ナガレは小突き弄る。エルニカは身をよじり笑いながら抗議する。
「ね、姉さん」
「じゃ、私達はこれで、っと、そうだ」
「ん?」
「何かあったら連絡頂戴、そこのお姉さんとか」
「え? 私?」
「じゃあね~」
首を傾げる二人を残し、ミナモ達は喫茶店を後にした。
店から出て少し歩いた所で、無言だったレネがミナモに尋ねる。
「ねえ」
「なに?」
「あの花鳥風月のマスター、あの人ってさ――」
「むふぅ~」
ミナモの顔は非常に腹の立つ顔をしていた。煽る様な笑みを見てレネが口を閉ざす。
「……その上から目線の顔、くっそ腹立つ」
「あれれ~? 尋ねないのぅ?」
「良い、自分で調べる」
「それが良い、ふぉっふぉっふぉっ」
「……ボク隣町に荷物を送る依頼受けてるから、急いで置いてくる」
「うい、じゃあ、私はしばらくこの街で屯ってるよ」
それだけ言い残してレネは走り去っていった。
残されたミナモは一度背伸びをして。
「さてと、この子の育成でもしておくか」
遠くに感じる気配へほくそ笑み、ゆっくりと街の外を目指していった。
☆☆☆
ナガレはエルニカと向かい合い席に座る。
先ほどの朗らかな様子は少しだけあるが、険しい雰囲気を醸し出していた。
「かなり揉めてるわね、全員が頭を痛めてるわよ」
「それはそうですね……、NPCに化けるモンスターってそれだけでこの平穏が一変する事実ですから」
二人の会話はフレンドチャットで行われている為、他の者たちには聞こえない。
一部プレイヤーは有名人のナガレを見て黄色い声を出しているが、普段のナガレなら手を振って返すのだが、今は余裕がなく反応はしなかった。
「……重症ね」
「姉さんはどうなんですか?」
「似たようなものよ。
本当に、こんなになるなんて思いもしなかったわ」
「溝が開いていきそうですね……」
「溝?」
「NPCとプレイヤーとのです、……先ほどウェイトレスさんをかなり警戒してしまいましたよ」
「あぁ、それもそうよねぇ」
「それで、どういった対応になるんですか?
情報を非公開のまま調べて行くんですか?」
「公表はするみたい」
「公表するんですか……」
「ただし、ちょっとだけ調べて、駄目だったら虚偽の事を含めて、なるべく混乱させないように、ね」
「仕方ないですね。
はぁ、なるべく早くこの件が片付くと良いんですけど」
「解決しなくても何時までもここに居られないから、公表をするって段階で戻るわ。
それが一週間は必要かもしれないけど……」
「仕方ないです。
皆も納得はしてくれます、むしろ彼等も気が気でないのでしょうし」
「そうね。
ふふっ、エルニカちゃんは周りが見えるようになったわねぇ」
「……恥ずかしいので、そんなまじまじ見ないでください」
「はいはい、かわいっ」
「ね、姉さん!」
「うふふふっ」
揶揄われてそっぽ向くエルニカ、話題を変えようと仕入れた情報をナガレ伝える。
「そ、そう言えば堅牢が突然クランを去ったっていう話は聞いてますか?」
「あー、堅牢のクランマスターが嘆いてたわ、全員ショックみたいね」
「それはそうでしょ、噂によればアバターを作り直すとか」
「あと少しで99、おまけに二つ名まであるのに凄い勇気ですね」
「なかなか出来る事じゃないわね。
今の環境が嫌だったのかしら? クランマスターをしているからぜひ声を聞かせてほしい物よ」
「環境、……ですかねぇ」
二人は思い思いに辞めた理由を考えながら、冷えた紅茶を啜り、ため息を吐くのであった。




