36
「で、どうするの?」
今後の予定は既に決まっている。
「一先ず倉庫に移して、プレイヤーを相手にしていくよ」
「いきなり対人戦?」
「経験値が入るからね。PKに会えればいいな」
「もう勝てる気でいるの?」
「装備がしっかりしてるからね、ある程度装備でブーストしてMPも増やせる、いざとなれば肉弾戦すればいいだけ」
やたらやる気のあるシャルロッテ。そのテンションにミナモはついて行けそうにない。
「まあ、暇だしついていくよ」
「じゃあ保護者よろしくね」
「私は何もしないぞ」
「会話相手にはなってくれ、久しぶりのソロだから」
「あいよ」
早速用事を終わらせて、別な街に向かうべくメルテトブルクを後にした。
しばらくしたのち、人気のない森の中で戦闘音が響き渡る。
「ボクに敵うとでも思ってるの?」
「んのっ!」
襲い来るプレイヤーを蹴散らしていた。
遠距離から放たれる魔法を魔法で撃ち落として、接近してくる相手には杖を振り回し的確に急所を攻撃する。
腹部に突き入れ、その後ろのプレイヤーごと突き上げて軽々持ち上げると杖の先から何発もの火炎玉を叩き込む。
「ふふんっ」
「ヤロウが! 囲んで一斉に行くぞ!」
「野郎じゃないよ」
勝気なその態度と、仲間がやられたことに腹を立てたのか、一斉に取り囲み攻撃を仕掛ける。
シャルロッテは尻尾で飛び上がり、空中で器用に回転し攻撃をする。彼女の持った杖の先端には尖った氷が魔法で作られ、それで攻撃していた。
壊滅にそう時間は必要なく、打撃や魔法を叩き込んでバンディット全員を撃破した。
ミナモは一人木の上でその様子を退屈そうに眺めていた。
「で、いくら上がった?」
「凄いね、今36だよ、凄いハイペース、しかももう500以上のステータスが殆ど」
(あれ? 私の時よりもステータスが上がってる。私より動いてないのに何故? ひょっとして種族が関係してる?)
シャルロッテは周囲を確認して戦利品を回収し始めた。
目ぼしい物は無かったが、資金源になるのは変わりなく、残さずすべてを回収していた。
「しかしよく盗賊に出会うね」
「出没するって噂を仕入れてたからね。
けど相手はレベルだけ高くて全然だね」
別な街に行くよりも、盗賊を倒すことが一番の目的だった。
「あ~あ、けど相手が弱かったなぁ、多分50くらいかな」
「雑魚狩りしてる弊害じゃない?」
「そうかもね、歯ごたえが無さすぎる」
「そう言うわりには生き生きしてるね」
「そりゃそうだよ、今までずっと周りに気を遣ってやってたからね。
前衛に立って、回避しきれる攻撃もわざわざ受けて、攻撃できるのに攻撃を任せて」
今の好き勝手やれる環境が爽快である。
その事からシャルロッテは過去を振り返り。
「ひょっとするとボクが一番囚われていたのかもしれない」
「なにが?」
「だってこのゲームは自由なんだから、人恋しいという理由で苦行をしていたのだと思うと、長い時間を棒に振ってきた気がするよ」
「少し前まで迷っていたシャルは何処行った。
というか絶対にあの頃は良かったとか言って、仲間とのやり取りを思い出して寂しくなるぞ」
「その時はその時だし、ステータスとかこの特殊種族の事を考えればおつりがくる。
それにPT組に戻ればいいだけさ」
「さいですか……」
「ありがとうリリー、君のおかげで踏み出せることが出来た」
「それはようござんした」
それから盗賊団の根城を探し当て襲撃し、シャルロッテのレベルが40台後半になったところでレベルが上がりにくくなった。だが得られたものが大きい。
「ステータスの伸びが倍以上、もう前のステータスを越した、嗚呼、やっぱり作り直してよかった」
既に失ったものを取り戻していた。
「しかし考えれば考えるほどクソゲーだよ。
普通バランス保つためにステータスをこんな仕様にしないよ」
「それはボクも思った、リリーに言われて仕様分かってから運営を恨んだもん」
行動によって変化するステータスというのは、お世辞にも褒められた仕様ではない。
文句を言ったところで、既にゲームは始まっているため、修正するのも一苦労だろう。
「けど、ボクなりに結構この仕様について調べたんだよ」
「調べた?」
「開発者インタビューで最初はモンスターを使役するゲームとして開発されたって前に言ったじゃん」
「言ったっけ?」
「言った気がする。
個性を出すために行動でステータス上昇という仕様を、そのままプレイヤーにも適応したんじゃないかなって」
「なるほどなぁ」
様々な種類が居るモンスター、無限の可能性を広める進化、ステータスも行動により変化すればさらに世界が広がっていく。
ただ実際にゲームとして出されると、プレイヤー側は困惑しか生まない。
「けど、それをここまで格差が広がる仕様にしなくてもって思う」
「そうなんだけど、努力した分報われる、みたいな仕様にしたかったんじゃないかな?」
「普通のプレイヤーが努力してないみたいだが、……まあ運営の考えなんて私達には分からない事か」
「それもそうだね。
仕様としてあるんだから、それを利用させてもらうよ」
一プレイヤーが口を出しても何か変わる事でもなく、素直に受け入れ適応するしかない。
二人の走る速度を上げ、数日かかる距離を一日で踏破した。辿り着いた街は交易街、プレイヤーにとっては次に来るべき街の候補の一つ。
シャルロッテは冒険者ギルド内の評価を上げる為、依頼を熟すために立ち寄った。
そして街に入る前にシャルロッテがミナモに注意をする。
「シャルって名前はここまで、ボクの名前はレネシャーニ」
今のシャルロッテの名前はフィーネではなくレネシャーニという名前であった。
特定されるのを避けるために変更していた。
「長いなぁ、レネで良いよね?」
「構わないよ」
「じゃあレネで決まり」
レネと共に街へと足を踏み出した。
しかし街は何処かピリピリとした雰囲気を纏っていた。
「なんだろ、何処か緊張感がある」
プレイヤーはおどろおどろしく周囲を警戒していた。
レネは周囲を見回し、とあるプレイヤーを見つけて合点がいったようだ。
「う~ん、花鳥風月が居る、あの件で見回ってるのかな?」
「あの件?」
「だから天使だって」
「ああ、なるほど、だから関係ない人が怖がっているのか」
「みたいだね」
花鳥風月というクラン、そこにLo10の一人が所属していた。
精錬の子兵に壊滅された村を中心に、大きな街に警戒を強くしていた。
「和装な人が多いね」
「花鳥風月って日本の文化とかって話を聞くし、その文化の衣装なんだって」
「私も日本だから知ってる」
「一応君も和服、……なんだろ? ボロボロだけど」
再会した時は気になっていたが、『ミナモだから』という理由で服装などについては尋ねなかった。
着衣の話題となったからには触れざるおえない。
「和洋ごちゃまぜ」
「今更だけれど直したらどうだい? 武器も、特に武器なんて石ぽいし鈍器じゃないか」
「これが正解になってるの」
「耐久無い系?」
「無い系」
「そういうのもあるんだね。
その剣も?」
「この糞剣は……、まあ、……イベントアイテムみたいなものだよ」
「どういう事?」
「理不尽イベントの代償、クソゲーだった」
ミナモがクソゲーというほどだ、レネは怖いもの見たさに詳しく尋ねる。
「君がクソゲーって言わしめるイベントって?」
「クソゲーはクソゲーだよ」
ミナモからこれ以上聞けない雰囲気を感じた。それはヴァルハラアクセスの思い出を語る時にも似ている。
「ステータス的には強い感じ?」
「いんや、弱体化する」
「弱体って……」
何故そんな物を持っているのか疑問に感じたが、すぐに理由が分かった。
「そう言えばゲーム開始時に弱いの云々言ってたね、縛りプレイ?」
「半分正解。
弱い者いじめ過ぎるんだよ。
特にホムンクルス関連では出来るだけ対等にやりあいたいじゃん、それがフェアってもんでしょ」
「ホムンクルスねぇ、それでやれる?」
「やれるやれる」
「テイマーをし始めたのも?」
「半分はあるけど、この子雑魚過ぎてむしろ燃える」
「非常食の為に生かしてるのだと思った」
「その発想は少しだけあった。
それで話を戻すけどこの街の状況は何時まで続くの? 極秘裏に探すにしては物々しいし、何時までも情報が秘匿できるわけじゃないでしょ?」
「さあ? けど会議で方針は出すはずだよ」
今回の事はLo10に全て託された状態だ、しかし時間がそれを待ってくれない。
「君ならどうする?」
「ん? この状況の打破?」
「そう」
「何も分からず手探りの状態なら、……その状況下ならまず手を打たない、情報は軽く公開して現れたら倒すって感じかな。
こればかりはプレイヤー全員に判断を任せるしかないね」
「ボクも似たような感じかな、ただし嘘を織り交ぜるかな」
「嘘?」
「嘘は嘘でも真実に近い、そう見える嘘。
あとは未解明だから憶測による嘘を伝えて、出来る限り混乱を起きないようにするか」
「ふむぅ、後で言い訳もできるし、それもそれでありだね。
で、どういう嘘を吐くの?」
「……思いつかなかった、なにせこの状況ならいくらでも言えるからね」
そして少しだけ考えて口を開く。
「例えば、鳥の羽の痣が証拠になるって言って、その後痣も消え失せることが可能だって発表とか」
「そりゃ言いたい放題だ」
そんな他愛もない話をして冒険者ギルドへ辿り着く。レネは届け物を受け渡し報酬を貰う、そして次の依頼を眺め始めた。
ミナモは外で待機して、隣の建物の壁に寄りかかりギルドの方を目を閉じながら睨んでいた。
そんな時PTチャットからレネの唸り声が聞こえる。
「やっぱりここもそんな無いなぁ、あるのは次の街に行くことか」
「どうせ得られる事もないし、それでいいんじゃない?」
「それもそうか」
わざわざ留まる理由はない、次の街に向かうための依頼を探す。
「一先ず転移できるようにして、この大陸の都市を巡る」
「そう言えば登録ってのがあったんだっけ」
ミナモはぶらぶらと適当に飛び回っている為、この大陸を探索していない。新天地で、冒険者ギルドが無い場所へ行く機会の方が多い。
「ん? 冒険者ギルドに入らないの?」
「入ってたけど脱退した、意味も無いし」
「え?」
冒険者ギルドは様々なサービスを受けれる、必須と言って良いほど活用する。ミナモの行動は縛りプレイとは言えないほど奇怪な行動であった。
「え? あら?」
そんな時、ミナモを見たプレイヤーの一人が立ち止まり、呼び止めた。
「ミナモちゃん? ミナモちゃんじゃないの」
「ん?」
呼び止められ振り返ると、赤い稲妻型の角と紫髪が特徴的な女性、エルニカの姿があった。
しかしミナモは記憶にうっすらある程度で首を傾げて固まる。
「……えっと、ど、どうも~」
「あっ、わ、忘れちゃってた? ほ、ほら、ギルドの登録とか、護衛の仕事をした」
「あ、ああ、ああああ!
そ、その説はどうも、いや~、す、すみません、久しぶりですね、いやはや半年振りですか」
ミナモは思い出してぺこぺこと頭を下げて挨拶する。
世話になったのだが、半年も経ち記憶から薄れていた。
「そ、それよりも、ちょ、ちょっとミナモちゃん」
エルニカが慌てながら手招きをする。ミナモは首を傾げて傍に行くと、小声でミナモに伝え始めた。
「ミ、ミナモちゃん、貴方指名手配されてるけど、何したの?」
「え? 指名手配? ……え? マジで?」
ミナモは自分が指名手配されていることなど知らなかった。




