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プリスターは村人達と共にダンガードのクラン、サンライトが所有する施設内部に輸送され、その一室で一人ベッドに横たわり呆けていた。
あれから事情聴取すると言われて、この部屋に通されて小一時間ほど経過している。
「あれは何だったんだろ……」
村での緊迫感は嘘のように長閑で平穏だ。地獄の様な出来事との乖離に納得できていない。
ログアウトをしてしまおうかと思っていると、扉をノックする音が聞こえ、ゆっくりと起き上がり返答を返す。
「大丈夫ですよ」
「では失礼する」
入ってきたのはミッドレア一人だけであった。
「遅れてすまなかったな、村人達を落ち着かせるのに時間が必要だった」
「大丈夫だったんですか?」
「大丈夫、とは言えない、錯乱していたりと酷い状態だよ」
「やっぱり、そうですよね……」
その村は変化に乏しい場所であった、そんな普通の村が一夜にして滅びたのだから村人の心情は計り知れない。
そして初めてNPCの生死を目の当たりにして、プリスターもショックを隠せずにいた。
「改めて挨拶させてもらう、私はミッドレア、Lo10のダンガードがクラン、サンライトのサブマスターをしている」
「ロードのダンガードさん」
「ああ、そしてここはその敷地。
事情を聴きたいのだが、君は大丈夫かい?」
「……結構ショックです」
「無理もないが、できれば君からも情報を貰いたい」
「……何から、話したら良いんだろ?」
心神喪失とまでは行かないが、近しい状態の為か頭の整理が出来ていない。
「君も重症だな。今日あった事、村に行く前からでもいいから話してくれ」
「村に行く前、……メイアさんの後を追って、戦いを挑みに行った、です」
「雷光の、だからか」
「ああ、そうだ、メイアさんは?」
「天雷のメイアは無事だ、ボロボロだったが、子供達を避難させにここに来た」
「子供達、そ、そうです、子供達を探しに夜の森に入って」
「ああ、大丈夫だ、きちんと生きてる。
落ち着いてまた最初から話してくれ」
子供達が無事と分かると心が和らいだ。そして落ち着いてから再び話始めた。
「そこで、姫、そうだ、姫は何処に行ったんだろ」
「姫?」
「同じプレイヤーで……」
そこでプリスターは口を閉ざした。
ミッドレアはその続きを聞きたいのだが、無理には聞き出せずに見守るしなく、無言で椅子に座り待ち続ける。
「……姫は言ってました」
「何を?」
「ドラゴンのその薬で治せるって、けど、もう手遅れで」
言いたい事が渋滞し、言葉が上手く出ない。
疲れきったプリスターを問い詰めるのは忍びない。
「ごめんなさい、少し混乱してて。
あの祠にも、何も無くて」
「ああ、ゆっくりでいい、今覚えてる範囲で大丈夫だ」
衝撃的な光景ばかり思い出し、ミナモが清廉の子兵という名前を言ったことは頭から抜けていた。
「それで、祠とは?」
「竜神様を祭ってるっていう祠で、そこに何かあるのかなって、……けどその祠が石で積み上げられただけで、何も見つからなかった。
……ごめんなさい」
「いや、責めてるわけじゃない。
すまなかったな、今はゆっくりと休んでくれ」
「はい……」
ミッドレアはプリスターをいじめている様な気がしてならず、これ以上は心苦しく尋ねることは出来なかった。
ただ一つだけ気になったことがあり、それを訪ねる。
「最後に一つ、……村人の中に唄が響いたって聞いたんだが、何か知ってるか?」
「……姫が、歌っていました」
「姫、またか……」
「あれは、きっと、レクイエムです、物悲しい、眠りにつくような詩」
頭を軽く搔きむしり、そっと部屋を出てから一息つき。
(姫、プレイヤーか、天雷なら何か知ってるか? まったく、鍵が転がってるのにそこまで手が届かない、もどかしいもんだ)
謎のプレイヤーも謎の敵も追わなくてはいけない、やる事が増えてミッドレアは頭が重く、今日何度吐いたか分からないため息をまた吐くのであった。
メイアが帰ってくると、すぐに問い詰める。
「おい」
「きゃっ!?」
「何可愛い声だしてんだ」
元の場所に戻り、いきなり怖い声で話しかけられたことでメイアは驚く。
ミッドレアは謎に悩まされ、そのストレスでイライラしていた為、ぶっきら棒な声で呼び止めたのが原因であった。
「い、いきなり話しかけるからでしょ」
「それはどうでもいい、聞きたいことが山ほどある」
「な、なんですか?」
「姫とは誰だ?」
「姫?」
メイアは頭を働かせて姫という人物を思い出そうとするが、該当がない。
「プリスターってやつと一緒に居ただろ?」
「プリスター? ああ、彼女、……ひょっとして姫ってミナモという方ですか?
生きていましたか?」
「生きていたも何も、そのミナモ? ってやつは色々と謎を知っているようだぞ」
「え?」
「話によると洗脳してから化け物になるそうだ、それをプリスターがその姫、ミナモから聞いたそうだ」
「なんですって……」
相手が何者か、Lo10の会議で嫌というほど議論し、メイアは詳細を問い詰められた。
何時間もかけた議論が無駄だと言わんばかりに、詳細を知っている者が居るという、それも手が届いたであろう近くにだ。
「改めて聞く、ミナモとは誰だ?」
ミナモとは誰か、その質問にメイアは数秒凍り付く。
「お前も答え辛いのか?」
「……いえ、出会って半日ほど、なんと説明していいものか考えていました」
一言では言い表せない人物。
「裏路地でとろけるようにだれていて、テイマーについて分からなくて、世間知らずのようで、何か深い事を考えてるような、そうでない様な」
「わけわからん」
「わたくしも分かりません。
ただ」
「ただ?」
「歌に聞き惚れてしまうほど、……いえ、そこそこ上手でした」
「はぁ」
それ以上の事は語れず、ミッドレアも情報を得ることを諦めた。
☆☆☆
ケーントゼッハ教団、そこに所属するプレイヤーはこの度の事件を重く受け止めていた。
「人間に化ける化け物? 野放しにはできません」
「その為我々は各地の見回りを強化します。
不安にさせてもいけません、我々のみ、他言は絶対に控えてください」
Lo10のシャスティナは頭を抱える。
連携したくないプレイヤーの仲間達に手を貸すしかないのだ。
(何故場をかき乱す奴等の、いえ、NPCの為です、ここは飲み込まなくては)
苛立ちに眉間の皺が増えてしまう。
その様子を知ってか知らずか、シスターフェルトが尋ねた。
「例のミナモという存在の捜索はどういたしましょう」
「今は控えなさい。
優先するべきはNPCの敵です」
「かしこまりました」
「強さはあのトップテイマー以上。
聖遺物の使用を許可します、全員携帯しなさい」
彼等は拠点の隅にある封をされたケースの元へ向かった。
そこに入っているのは、色んな武器である。
どれも純白で綺麗なものばかりだ。
「しかと敵を排除致しましょう」
表彰状でも受け取った様に、丁寧に持ち一礼していく。
ある者は杖、ある者は剣、ある者は盾を。
その装備を身に着け、目の前にある男性の像に向かい一礼し祈った。
「託宣がありました」
一番前に居た、このクランのマスター、その少女が皆に手を広げ託宣の内容を伝えた。
「各地に散らばり、今まで通りに活動を。
例の存在には手を出さない様に」
その言葉に驚愕する。
「何故ですか!?」
「勝てない、力が不足しています。
聖遺物の力を引き出す為にも、己自信を鍛えなければなりません」
「……分かりました」
納得できない者が多い。
しかし聖遺物を扱えないのも事実だ。
託宣もクランマスターの言葉も、間違いなく的確な指示だ、反論があろうが従うしかない。
フェルトは、己の未熟さに苛立ちを覚えた。
「……どのようにしたら聖遺物の力を引き出せるのでしょうか?」
「聖遺物と心ひとつに、その身を捧げ、祈りましょう」
「……なるほど、聖遺物ですからね。
我々はまだまだ道が遠いのです、今は耐え忍び、その身を強くする事に集中しましょう」
シャスティナの言葉が加われば、全員が納得して頷いた。
リーダーの少女だけでは動かない、このクランも補佐する存在が動かしていた。
ただリーダーの存在があるからこそ、シャスティナの言葉が輝ける。
互いにかけてはならない存在であった。




